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通達:労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について

 

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について

令和2年3月4日基発0304第3号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第20号。以下「改正省令」という。)が令和2年3月3日に公布され、令和2年7月1日から施行することとされたところであるが、その改正の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、その運用に遺漏なきを期されたい。

併せて、本通達については、別添1のとおり、別紙関係事業者等団体の長あて傘下会員への周知等を依頼したので了知されたい。

 

1 改正の趣旨

特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)等が制定されてから40年以上が経過し、その間、医学的知見の進歩、化学物質の需給関係の変化、労働災害の発生状況の変化等に伴い、化学物質による健康障害に関する事情が変わってきている。

今般、化学物質による健康障害に係る健康診断項目について、厚生労働省における「労働安全衛生法における特殊健康診断等に関する検討会」の検討結果を踏まえ、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)、鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号。以下「鉛則」という。)、四アルキル鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第38号。以下「四アルキル則」という。)及び特化則について、別添2のとおり所要の改正を行ったものである。

2 改正の内容及び留意事項

(1) 安衛則の一部改正(改正省令第1条関係)

特化則別表第3及び別表第4に定めるベンジジン、ベータ―ナフチルアミン及びジアニシジン等に係る特殊健康診断の項目の見直しに併せて、ベンジジン等の健康管理手帳及び健康診断実施報告書の様式について、所要の改正を行ったこと。(安衛則様式第8号(1)及び様式第9号(1)関係)

(2) 有機則の一部改正(改正省令第2条関係)

ア 有機溶剤に係る特殊健康診断の項目(有機則第29条関係)

有機溶剤について、労働者のばく露状況を確認するため、必須項目に「作業条件の簡易な調査」を追加すること。また、当該「作業条件の簡易な調査」の追加等により、引き起こす健康障害に係るスクリーニングが可能であることから、必須項目から「尿中の蛋白の有無の検査」を削除すること。追加された項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

(ア) 「作業条件の簡易な調査」は、労働者の当該物質へのばく露状況の概要を把握するため、前回の特殊健康診断以降の作業条件の変化、環境中の有機溶剤の濃度に関する情報、作業時間、ばく露の頻度、有機溶剤の蒸気の発散源からの距離、保護具の使用状況等について、医師が主に当該労働者から聴取することにより調査するものであること。このうち、環境中の有機溶剤の濃度に関する情報の収集については、当該労働者から聴取する方法のほか、衛生管理者等から作業環境測定の結果等をあらかじめ聴取する方法があること。

また、経皮吸収されやすい化学物質については、皮膚への付着が常態化している状況や、保護具を着用していない皮膚に固体、液体又は高濃度の気体の状態で接触している状況等がある場合に過剰なばく露をしているおそれがあるため、必ず皮膚接触の有無を確認すること。

なお、「作業条件の簡易な調査」の問診票については、平成21年3月25日付け基安労発第0325001号「「ニッケル化合物」及び「砒素及びその化合物」に係る健康診断の実施に当たって留意すべき事項について」別紙「作業条件の簡易な調査における問診票(例)」(別紙)を参考にすること。

イ 特殊健康診断の結果の記録及びその保存(有機則様式第3号関係)

アの特殊健康診断の項目の改正に伴い、有機溶剤等健康診断個人票について、所要の改正を行ったこと。

(3) 鉛則の一部改正(改正省令第3条関係)

ア 鉛に係る特殊健康診断の項目(鉛則第53条関係)

鉛について、労働者の物質へのばく露状況を確認するため、必須項目に「作業条件の簡易な調査」を追加すること。追加された項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

(ア) 「作業条件の簡易な調査」については、有機溶剤に係る特殊健康診断の趣旨等((2)ア(ア))と同様であること。

イ 特殊健康診断の結果の記録及びその保存(鉛則様式第2号関係)

アの特殊健康診断の項目の改正に伴い、鉛健康診断個人票について、所要の改正を行ったこと。

(4) 四アルキル則の一部改正(改正省令第4条関係)

ア 四アルキル鉛に係る特殊健康診断(四アルキル則第22条関係)

四アルキル鉛について、近年の医学的知見や四アルキル鉛の取扱量の減少等を踏まえ、特殊健康診断の主目的を、短期の大量のばく露による急性中毒の予防から、鉛と同様に長期的なばく露による健康障害の予防とすることとし、鉛則の特殊健康診断の項目と整合させること。これに併せて、特殊健康診断を実施する時期も「3月以内ごとに1回」から、「6月以内ごとに1回」とすること。なお、改正後の健康診断項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

(ア) 必須項目(四アルキル則第22条第1項関係)

① 「業務の経歴の調査」は、四アルキル鉛等に係る業務について聴取するものであること。

② 「作業条件の簡易な調査」は、有機溶剤に係る特殊健康診断の趣旨等((2)ア(ア))と同様であること。

③ 「四アルキル鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査」とは、過去に四アルキル鉛によるいらいら、不眠、悪夢、食欲不振、顔面蒼白、倦怠感、盗汗、頭痛、振顫、四肢の腱反射亢進、悪心、嘔吐、腹痛、不安、興奮、記憶障害その他の神経症状又は精神症状のそれぞれがあったかどうかを調査することをいうこと。また、「既往の検査結果の調査」とは、過去の血液中の鉛の量の検査及び尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査の結果を調査することをいうこと。

④ 「いらいら、不眠、悪夢、食欲不振、顔面蒼白、倦怠感、盗汗、頭痛、振顫、四肢の腱反射亢進、悪心、嘔吐、腹痛、不安、興奮、記憶障害その他の神経症状又は精神症状の自覚症状又は他覚症状の有無の検査」は、四アルキル鉛による生体影響等健康への影響を総合的に把握するうえで重要な検査である。この検査の結果は、医師が必要と認める場合の健康診断項目の実施や医師が必要でないと認める場合の健康診断の省略等の判断の際の重要な基準ともなるものであるので、すべての症状について、その有無を確認しなければならないものであること。

なお、適宜問診表を用いても差し支えないが、その際には医師による全症状にわたる十分な問診を行うべきものであること。

⑤ 第1項第5号及び第6号の検査のための血液・尿の採取及び保存については、平成元年8月22日付け基発第463号「有機溶剤中属予防規則第29条及び鉛中毒予防規則第53条に規定する検査のための血液又は尿の採取時期及び保存方法並びに健康診断項目の省略の要件について」の3と同様であること。

(イ) 医師が必要でないと認めた場合に省略する検査の実施の要否の判断(四アルキル則第22条第2項関係)

医師の判断により健康診断項目を省略する場合には、平成元年8月22日付け基発第463号「有機溶剤中属予防規則第29条及び鉛中毒予防規則第53条に規定する検査のための血液又は尿の採取時期及び保存方法並びに健康診断項目の省略の要件について」の4で示す鉛則の健診項目の省略と同様の方法で実施すること。

(ウ) 医師が必要と認める場合に追加する項目(四アルキル則第22条第3項関係)

① 「作業条件の調査」は、労働者の四アルキル鉛へのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであること。

② 「貧血検査」には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。

③ 「神経学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること。

(エ) 「医師が必要と認める場合」に行う検査の実施の要否の判断

四アルキル則第22条第3項に「医師が必要と認める場合」に行う検査を規定したが、それぞれの検査の実施の要否は、必須項目(業務の経歴の調査、作業条件の簡易な調査、四アルキル鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、既往の検査結果の調査、自覚症状及び他覚症状の有無の検査、血液中の鉛の量の検査、尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査)の結果、前回までの当該物質に係る健康診断の結果等を踏まえて、医師が判断すること。また、この場合の「医師」は、主に、健康診断を実施する医師、事業場の産業医、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業場において健康管理を行う医師等があること。

イ 特殊健康診断の結果の記録及びその保存(四アルキル則様式第2号関係)

アの特殊健康診断の項目の改正に伴い、四アルキル鉛健康診断個人票について、所要の改正を行ったこと。

ウ 特殊健康診断の結果の報告(四アルキル則様式第3号関係)

アの特殊健康診断の項目の改正に伴い、四アルキル鉛健康診断結果報告書について、所要の改正を行ったこと。

(5) 特化則の一部改正(改正省令第5条関係)

ア 特殊健康診断の項目(特化則別表第3(いわゆる「一次健康診断」)及び別表第4(いわゆる「二次健康診断」)関係)

改正の概要については次のとおりであり、特化則別表3及び別表4に掲げる化学物質を製造し、又は取り扱う業務等に常時従事する労働者(以下「業務従事労働者」という。)及びこれらの業務に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているもの(以下「配置転換後労働者」という。)に対する特殊健康診断の項目は別添2のとおりであること。

(ア) ベンジジン及びその塩等の尿路系の障害と関係のある化学物質(11物質)に係る特殊健康診断の項目について

ベンジジン及びその塩、ベータ―ナフチルアミン及びその塩、ジクロルベンジジン及びその塩、アルファ―ナフチルアミン及びその塩、オルト―トリジン及びその塩、ジアニシジン及びその塩、オーラミン、パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン、マゼンタ、4―アミノジフェニル及びその塩、4―ニトロジフェニル及びその塩については、ヒトに対して尿路系の障害(腫瘍等)を引き起こす可能性が指摘されている。これらの化学物質に係る特殊健康診断の項目について、同じくヒトに対して尿路系の障害(腫瘍等)を引き起こす可能性が指摘されているオルト―トルイジン等に係る特殊健康診断の項目と整合等させたこと。また、ベンジジン及びその塩等の業務従事労働者及び配置転換後労働者に対する特殊健康診断の項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

① 「業務の経歴の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ア)①)と同様であること。

なお、この項目については、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであること。

② 「作業条件の簡易な調査」は、有機溶剤に係る特殊健康診断の趣旨等((2)ア(ア))と同様であること。

なお、この項目については、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであること。

ただし、配置転換後労働者であって、過去に「作業条件の簡易な調査」を実施していない労働者に対しても、当該労働者の次回の健康診断において、従事していた特化則別表3及び別表4に掲げる化学物質を製造し、又は取り扱う業務等に係る「作業条件の簡易な調査」を行うことが望ましいこと。

③ 「当該化学物質による他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の既往歴の有無の検査をいうこと。このうち「既往歴」とは、雇入れの際又は配置替えの際の健康診断にあってはその時までの症状を、定期の健康診断にあっては前回の健康診断以降の症状をいうこと。

④ 「他覚症状又は自覚症状の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の有無の検査をいうこと。

⑤ 「皮膚炎等の皮膚所見の有無の検査」は、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであること。

⑥ 「尿中の潜血検査」は、腎臓、尿管、膀胱等の尿路系の障害(腫瘍等)等を把握するための検査であり、試験紙法によるものをさすこと。

⑦ 「尿沈渣検鏡の検査」及び「尿沈渣のパパニコラ法による細胞診の検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、尿路系の障害(腫瘍等)を把握するために行う検査であること。

⑧ 「作業条件の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ウ)①)と同様であること。

なお、この項目については、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであること。

⑨ 「膀胱鏡検査」及び「腹部の超音波による検査、尿路造影検査等の画像検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、尿路系腫瘍を把握するための検査であること。

なお、膀胱鏡検査は内視鏡検査の一種であり、膀胱鏡には軟性のものと硬性のものが存在するところ、いわゆるファイバースコープは、軟性の膀胱鏡をさしており、膀胱鏡検査にはファイバースコープによる検査が含まれること。

また、画像検査には、腹部の超音波による検査や尿路造影検査のほか、造影剤を用いないエックス線撮影による検査等があり、さらに、尿路造影検査の撮影方法としては、エックス線直接撮影やコンピュータ断層撮影(CT)があること。

⑩ 「赤血球数、網状赤血球数、メトヘモグロビンの量等の赤血球系の血液検査」は、医師が必要と認める場合に行う検査であり、当該化学物質による溶血性貧血、メトヘモグロビン血症等の血液学的異常を把握するための検査であること。

なお、これらの症状は急性のものであることから、この項目は、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであること。

(イ) トリクロロエチレン等の特別有機溶剤(9物質)に係る特殊健康診断の項目について

発がん等に関係する有機溶剤として、平成26年11月に特別有機溶剤に位置づけられたクロロホルム、四塩化炭素、1,4―ジオキサン、1,2―ジクロロエタン、スチレン、1,1,2,2―テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトンについては、物質によってがん等の発生部位が異なる等の理由により、特殊健康診断の項目の見直しが行われていなかったが、今般、発がんリスクや物質の特性に応じた特殊健康診断の項目に見直すこと。

トリクロロエチレンについては、ヒトに対して腎臓がん、肝胆道系がん、造血器がん等を引き起こす可能性が指摘されているため、項目を追加する等の改正を行ったこと。

四塩化炭素、1,2―ジクロロエタンについては、ヒトに対して肝胆道系がん等を引き起こす可能性が指摘されているため、項目を追加する等の改正を行ったこと。

テトラクロロエチレンについては、ヒトに対して尿路系の障害(腫瘍等)等を引き起こす可能性が指摘されているため、項目を追加する等の改正を行ったこと。

スチレンについては、ヒトに対して造血器がん、聴力の異常、色覚の異常等を引き起こす可能性が指摘されているため、項目を追加する等の改正を行ったこと。

クロロホルム、1,4―ジオキサン、1,1,2,2―テトラクロロエタン、メチルイソブチルケトンについては、動物実験により発がんに係る知見はあるが、比較的高濃度ばく露によるものであり、ヒトに関する発がんの知見は十分ではないため、発がん以外のその他の健康リスクの可能性が指摘されていることを踏まえて、項目を追加する等の改正を行ったこと。

また、トリクロロエチレン等の業務従事労働者に対する特殊健康診断の項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

① 「業務の経歴の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ア)①)と同様であること。

② 「作業条件の簡易な調査」は、有機溶剤に係る特殊健康診断の趣旨等((2)ア(ア))と同様であること。

③ 「当該化学物質による他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の既往歴の有無の検査をいうこと。このうち「既往歴」とは、雇入れの際又は配置替えの際の健康診断にあってはその時までの症状を、定期の健康診断にあっては前回の健康診断以降の症状をいうこと。

④ 「他覚症状又は自覚症状の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の有無の検査をいうこと。

⑤ 「皮膚炎等の皮膚所見の有無の検査」は、特別有機溶剤による皮膚の障害を評価するための検査であること。

⑥ 「血清グルタミツクオキサロアセチツクトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミツクピルビツクトランスアミナーゼ(GPT)及び血清ガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査」は、特別有機溶剤による肝・胆道系の障害を評価するための検査であること。

⑦ 「尿中のトリクロル酢酸又は総三塩化物の量の測定」は、テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンによるばく露状況を評価するための検査であること。

⑧ 「尿中の潜血検査」は、腎臓、尿管、膀胱等の尿路系の障害(腫瘍等)等を把握するための検査であり、試験紙法によるものをさすこと。

⑨ 「腹部の超音波による検査、尿路造影検査等の画像検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、尿路系腫瘍を把握するための検査であること。また、画像検査には、腹部の超音波による検査や尿路造影検査のほか、造影剤を用いないエックス線撮影による検査等があり、さらに、尿路造影検査の撮影方法としては、エックス線直接撮影やコンピュータ断層撮影(CT)があること。

⑩ 「尿中のマンデル酸及びフェニルグリオキシル酸の総量の測定」は、スチレンによるばく露状況を評価するための検査であること。

⑪ 「尿中のメチルイソブチルケトンの量の測定」は、メチルイソブチルケトンによるばく露状況を評価するための検査であること。

⑫ 「作業条件の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ウ)①)と同様であること。

⑬ 「神経学的検査」は、特別有機溶剤による神経系の異常を評価するための検査であること。

⑭ 「肝機能検査」は、特別有機溶剤による肝機能の異常の有無を評価するための検査であること。

⑮ 「腎機能検査」は、特別有機溶剤による腎機能の異常の有無を評価するための検査であること。

⑯ 「白血球数及び白血球分画の検査」は、白血病等が存在する可能性や病勢等について評価するための検査であること。

⑰ 「血液像その他の血液に関する精密検査」は、スチレン又はトリクロロエチレンによる造血器がんを評価する検査であること。

⑱ 「CA19―9等の血液中の腫瘍マーカーの検査」は、四塩化炭素、1,2―ジクロロエタン又はトリクロロエチレンによる肝胆道系がん等が存在する可能性や病勢等について評価するための検査であること。

⑲ 「特殊なエックス線撮影による検査又は核磁気共鳴画像診断装置による画像検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、スチレン又はトリクロロエチレンによる造血器がんを評価する検査であること。

また、これらのうち、「特殊なエックス線撮影による検査」は、コンピュータ断層撮影(CT)による検査等をいい、「核磁気共鳴画像診断装置による画像検査」はMRIによる検査等をいうこと。

⑳ 「腹部の超音波検査等の画像検査」は、四塩化炭素、1,2―ジクロロエタンによる肝・胆道系の異常を評価するための検査で、腹部の超音波検査、核磁気共鳴画像検査(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)による検査等をいうこと。

((21)) 「尿沈渣検鏡の検査」及び「尿沈渣のパパニコラ法による細胞診の検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、テトラクロロエチレンによる尿路系の障害(腫瘍等)を把握するために行う検査であること。

((22)) 膀胱鏡検査」及び「腹部の超音波による検査、尿路造影検査等の画像検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、テトラクロロエチレンによる尿路系腫瘍を把握するための検査であること。

なお、膀胱鏡検査は内視鏡検査の一種であり、膀胱鏡には軟性のものと硬性のものが存在するところ、いわゆるファイバースコープは、軟性の膀胱鏡をさしており、膀胱鏡検査にはファイバースコープによる検査が含まれること。

((23)) 「聴力低下の検査等の耳鼻科学的検査」は、スチレンによる聴力の異常を評価するための検査であること。

((24)) 「色覚検査等の眼科学的検査」は、スチレンによる色覚の異常を評価するための検査であること。

((25)) 「赤血球数等の赤血球系の血液検査」は、1,1,2,2―テトラクロロエタンによる血液学的異常を評価するための検査であること。

(ウ) カドミウム又はその化合物に係る特殊健康診断の項目について

カドミウム又はその化合物については、ヒトに対して肺がんを引き起こす可能性が指摘されたため、また、腎機能障害を予防・早期発見するため、項目を追加する等の改正を行ったこと。また、カドミウム又はその化合物の業務従事労働者対する特殊健康診断の項目の趣旨等については、次のとおりとすること。

① 「業務の経歴の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ア)①)と同様であること。

② 「作業条件の簡易な調査」は、有機溶剤に係る特殊健康診断の趣旨等((2)ア(ア))と同様であること。

③ 「当該化学物質による他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の既往歴の有無の検査をいうこと。このうち「既往歴」とは、雇入れの際又は配置替えの際の健康診断にあってはその時までの症状を、定期の健康診断にあっては前回の健康診断以降の症状をいうこと。

④ 「他覚症状又は自覚症状の有無の検査」は、当該化学物質により生じる症状の有無の検査をいうこと。

⑤ 「血中のカドミウムの量の測定」、「尿中のベータ2―ミクログロブリンの量の測定」、「尿中のカドミウムの量の測定」、「尿中のアルファ1―ミクログロブリンの量の測定」及び「N―アセチルグルコサミニダーゼの量の測定」は、カドミウムによるばく露状況を評価するための検査であること。

⑥ 「作業条件の調査」は、四アルキル鉛に係る特殊健康診断の趣旨等((4)ア(ウ)①)と同様であること。

⑦ 「腎機能検査」は、カドミウムによる腎機能の異常の有無を評価するための検査であること。

⑧ 「胸部のエックス線直接撮影若しくは特殊なエックス線撮影による検査又は喀痰の細胞診」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、肺がん等を評価する検査であること。

また、これらのうち、「特殊なエックス線撮影による検査」は、コンピュータ断層撮影(CT)による検査等をいうこと。

⑨ 「肺換気能検査」は、呼吸器に係る他覚症状又は自覚症状がある場合に行う、呼吸器系の障害(腫瘍等)を把握するための検査であること。

(エ) その他、横断的に見直した特殊健康診断の項目

特化則において業務従事労働者に対する特殊健康診断の実施が義務づけられている全ての化学物質(以下、「全ての化学物質」という。)について、一次健康診断の項目に「作業条件の簡易な調査」、二次健康診断の項目に「作業条件の調査」を設定したこと。なお、シアン化カリウム、シアン化水素及びシアン化ナトリウムについては、二次健康診断が設定されていないことから、引き続き、一次健康診断において「作業条件の調査」を実施すること。また、これまで、一次健康診断の「業務の経歴の調査」及び「作業条件の簡易な調査」並びに二次健康診断の「作業条件の調査」を業務従事労働者及び配置転換後労働者に対して実施する化学物質と、業務従事労働者のみに対して実施する化学物質が混在していたところ、全ての化学物質について、一次健康診断の「業務の経歴の調査」及び「作業条件の簡易な調査」並びに二次健康診断の「作業条件の調査」を業務従事労働者のみに対して実施することとして整合させたこと。

塩素化ビフェニル等、オルト―フタロジニトリル、オーラミン、シアン化カリウム、シアン化水素、シアン化ナトリウム、パラ―ニトロクロルベンゼン、弗化水素、ペンタクロルフェノール(別名PCP)又はそのナトリウム塩、硫酸ジメチル、ニトログリコールについては、職業ばく露による肝機能障害リスクの報告がないことから、「尿中ウロビリノーゲン検査」等の肝機能検査の項目を削除したこと。ただし、このうち塩素化ビフェニル等、オルト―フタロジニトリル、ニトログリコール、パラ―ニトロクロルベンゼン、ペンタクロルフェノール(別名PCP)又はそのナトリウム塩については、一般的には高濃度の職業ばく露は想定しにくいものの、その場合に肝機能障害のリスクがあると指摘があることから、引き続き、二次健康診断で医師が必要と認める場合に「肝機能検査」を実施することとしたこと。

ニトログリコールについては、ばく露による腎機能障害リスクの報告がないことから、「尿中の蛋白の有無の検査」を削除したこと。

ベンゼン等、ニトログリコール、塩素化ビフェニル等、オルト―フタロジニトリル、パラ―ニトロクロルベンゼン、弗化水素については、赤血球系の血液検査の例示に、近年、臨床の現場であまり実施されていない全血比重の検査が含まれていたため、全血比重の検査を例示から削除したこと。また、ニトログリコールについては、一次健康診断の赤血球系の血液検査において全血比重の検査を実施することが想定されており、その結果に基づいて、二次健康診断でその他の赤血球系の血液検査を実施することとしていたところ、一次健康診断においてもその他の赤血球系の血液検査が実施できることから、二次健康診断の赤血球系の血液検査の項目を削除したこと。

イ 「医師が必要と認める場合」に行う検査の実施の要否の判断

一次健康診断又は二次健康診断のそれぞれにおける項目に「医師が必要と認める場合」に行う検査を規定しているが、それぞれの検査の実施の要否は、次に掲げる項目により医師が判断すること。また、この場合の「医師」は、主に、健康診断を実施する医師、事業場の産業医、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業場において健康管理を行う医師等があること。

① 一次健康診断における「医師が必要と認める場合」に行う検査

一次健康診断における業務の経歴の調査、作業条件の簡易な調査、他覚症状及び自覚症状の既往歴の有無の検査、他覚症状及び自覚症状の有無の検査の結果、前回までの当該物質に係る健康診断の結果等を踏まえて、当該検査の実施の要否を判断すること。

② 二次健康診断における「医師が必要と認める場合」に行う検査

一次健康診断の結果、前回までの当該物質に係る健康診断の結果等を踏まえて、当該検査の実施の要否を判断すること。

ウ 特殊健康診断の結果の記録及びその保存(特化則様式第2号関係)

アの特殊健康診断の項目の改正に伴い、特定化学物質健康診断個人票について、所要の改正を行ったこと。

(6) 施行期日(改正省令附則第1条関係)

改正省令は、令和2年7月1日から施行することとしたこと。

(7) 経過措置(改正省令附則第2条及び第3条関係)

ア 報告に関する経過措置(改正省令附則第2条第1項関係)

改正省令の施行の際現に存する、改正省令による改正前の省令(以下「旧省令」という。)の規定によりされている報告は、改正省令による改正後の省令の規定による報告とみなす。

イ 様式に関する経過措置(改正省令附則第2条第2項関係)

改正省令の施行の際現に存する、旧省令に定める様式による用紙は、合理的に必要と認められる範囲内で、当分の間、必要な改訂をした上、使用することができることとしたこと。

具体的には、以下の内容があること。

① 令和2年7月1日(以下「施行日」という。)以前に実施した特殊健康診断について、旧省令に定める健康診断個人票を使用できること。

② 施行日前に実施した四アルキル鉛健康診断について、労働基準監督署への報告に当たっては、旧省令に定める四アルキル鉛健康診断結果報告書を使用できること。

③ 施行日前に交付した健康管理手帳について、施行日後も使用できること。

ウ 罰則の適用に関する経過措置(改正省令附則第3条関係)

改正省令の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によること。

 

別紙(作業条件の簡易な調査における問診票(例))