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特定の有機粉じんによる健康障害の防止対策の徹底について
平成31年4月15日基安労発0415第1号・基安化発0415第1号・基補発0415第1号
(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課長・化学物質対策課長、厚生労働省労働基準局補償課長通知)
標記については、平成29年4月28日付け基安発0428第2号「特定の吸入性有機粉じん等による肺疾患の防止について」(以下「部長通知」という。)及び平成29年6月22日付け基安労発0622第1号・基安化発0622第1号「特定の吸入性有機粉じんによる肺疾患の調査等の実施について」(以下「課長通知」という。)等により、関係事業場に対する指導等について指示したところである。
今般、本日で取りまとめられた「架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の吸入性粉じんの製造事業場で発生した肺障害の業務上外に関する検討会」報告書(別添1。以下単に「報告書」という。)において、部長通知に記載の事業場で見られた疾患に関して、相当量の架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物(以下「ポリマー」という。)の吸入性粉じんのばく露業務に一定期間従事した労働者に発症した呼吸器疾患であって、一定の所見が認められるものについては、当該業務が相対的に有力な原因となって発症した蓋然性が高いと考えられるとの一定の知見が得られたところである。
ついては、ポリマーの粉じんに高濃度でばく露することによる呼吸器疾患の防止を図るため、予防的観点から、粉状のポリマーの製造、取扱いを行う管内の事業場に対し、下記の措置を講ずるよう指導されたい。
また、下記3により粉状のポリマーの製造・取扱事業場において呼吸器疾患有病歴者を新たに把握した場合には本省宛てに報告を行うなど、引き続き、課長通知の記の2及び3(ただし、2(3)は廃止する。)に基づく対応をお願いする。この場合において課長通知中「肺疾患」とあるものは、報告書に示す呼吸器疾患とする。
これに重ねて、ポリマーのメーカーの所轄労働局においては、新たに粉状のポリマーの販売先となった流通先事業場を含め、下記に掲げる措置の実施を流通先事業場に周知・要請するよう、改めてメーカーに対しても指導・要請を行われたい。
なお、別添2及び3のとおり、関係団体に対して、ポリマーを製造、取り扱う事業場に対し、改めてばく露防止措置や健康管理措置の徹底等を図っていくとともに、労災請求手続きなどの周知をすること等を通知しているので了知の上、労働局又は労働基準監督署に当該事業場から相談があった場合は、適切に対応されたい。また、本件については、引き続き、独立行政法人労働者健康安全機構に依頼し、健康障害の発生機序の解明等のための調査研究を進めていることを参考までに申し添える。
記
1 ばく露防止措置の徹底
粉状のポリマーを扱う事業場においては、ポリマーの粉じんの発散防止抑制措置や労働者への呼吸用保護具の着用の徹底など、ばく露防止措置を講じること。
特に、粉状のポリマーを取り扱う作業に従事する労働者において、胸部レントゲン所見で上肺野優位の気腫性変化や線維化といった所見が認められた場合など、労働者のばく露が疑われる場合は、局所排気装置の排気能力の増強等により発散防止措置を強化したり、呼吸用保護具を電動ファン付き呼吸用保護具等の防護係数の高いものへ変更する等により、速やかにばく露防止措置の改善を図ること。
なお、発散防止の効果を把握するため、作業環境を測定する場合には、別紙1の測定方法を参考とすること。
2 労働者等に対する健康管理の実施等
粉状のポリマーを取り扱う事業場に対する一般健康診断の実施やその結果について意見を述べる産業医又は医師に対しては、本件呼吸器疾患の特徴等(別紙2参照)とともに、当該事業場において粉状のポリマーを取り扱う労働者の業務歴、取扱物質、作業内容等について、あらかじめ情報提供すること。その上で、胸部レントゲン所見で上肺野優位の気腫性変化や線維化といった所見が認められた者については、呼吸器専門医の診断を仰ぐこと。その際、当該専門医に対しても、本件呼吸器疾患の特徴等について情報提供を行うこと。
また、粉状のポリマーを取り扱う労働者については、一般健康診断時に医師の判断によって胸部X線検査の省略できる場合であっても、省略しないようにすること。
3 呼吸器疾患の発生状況の把握と報告
上記2その他の機会において、事業場の労働者又は退職者に、別紙2に掲げるものと類似する所見の呼吸器疾患が見られた場合は、所轄の労働局又は労働基準監督署に報告すること。
別紙1
空気中のポリマー粒子の測定方法について
1.ポリマー粒子のサンプリング
ポリマーはかさ密度の低いものが多く、投入や袋詰めに際してポリマー粒子が発散しやすい。過去の測定事例より、作業場が狭隘でB測定を行う場所が十分に確保できない場合があること、発散源のできるだけ近くで測定する必要があること、作業方法により粒子の発散状況が異なり、ばく露状況にばらつきがあることから、ポリマーについては個人サンプラーを用いた測定により作業者が吸入する範囲の空気中のポリマー粒子を捕集し、粒子の質量濃度を測定することが推奨される。個人サンプラーを用いた具体的な測定方法の例を2に示す。
2.使用機器と測定方法
作業環境測定基準第2条第2項に定める特性を有する分粒装置で捕集されるレスピラブル(respirable)粒子を捕集できる方法とする。特に湿度が高い場合には、フィルターの目詰まりに注意が必要である。湿度を記録することが望ましい。
(1) サンプラー
レスピラブル粒子用サンプラーを用いる。指定の流速を厳守する。取扱いについては説明書を参照のこと。
(2) フィルター
質量測定に適したフッ素樹脂処理ガラス繊維フィルターを使用する。
(3) 個人サンプラーを用いた測定の方法と評価
作業者の襟元にサンプラーを取り付け、柔軟なプラスチックチューブでサンプラーと、腰に取り付けたポンプを接続する。既定の流速で粒子を一定時間フィルターに捕集した後にフィルターを秤量する。個人ばく露濃度は通常8時間の平均値で評価するが、作業者の高濃度ばく露を予防するためには、高濃度ばく露が懸念される作業の実施時間について測定を行い、当該作業におけるばく露する可能性のある環境中濃度を評価することが望ましい。
別紙2
本件呼吸器疾患の特徴等について
第2 本件疾病について 本件労働者らは、咳や呼吸困難を主訴に、あるいは自覚症状はないものの健康診断において異常所見を指摘されたこと等を契機に医療機関を受診し、臨床所見等から間質性肺炎、肺障害などの肺疾患と診断されている。また、本件労働者らは、全員男性であり、いずれも若年で発症している。 本件労働者らの胸部画像所見では、肺の収縮性変化並びに牽引性気管支拡張、肺野のすりガラス陰影並びに小粒状影(多くは小葉中心性)、末梢気道閉塞によるエアートラッピングを思わせる胸膜直下の気腔拡大とブラ形成、ブラ破綻が原因と思われる気胸併発、葉間を含む胸膜肥厚、などの多様な所見が認められる。 当該所見は、これまで報告されている粉じんばく露に起因する肺疾患(様々なじん肺症)とは異なる画像分布を示しており、多彩な病態を呈するものであるが、各症例とも亜急性の経過を辿っており、かつ、気道周囲の病変が主体であることから、本検討会では、本件症例を「呼吸器疾患」と定義付けるのが妥当と考えた。 |
出典:「架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の吸入性粉じんの製造事業場で発生した肺障害の業務上外に関する検討会」報告書(平成31年4月)
(参考)
マスクの性能に関する情報
マスクの種類 |
指定防護係数* |
使い捨て式―半面形 取替え式―半面形 |
3~10 |
電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)―半面形 |
4~50 |
電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)―全面形 |
4~100 |
* 指定防護係数とは訓練された着用者が、呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数
出典:JIS T8150:2006「呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法」付表2より