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第13次労働災害防止計画の策定について
平成30年2月28日厚生労働省発基安0228第1号
(都道府県労働局長あて厚生労働事務次官通知)
今般、2018年度を初年度とする第13次労働災害防止計画を別添のとおり策定したところである。
1958年以降、これまで12次にわたる労働災害防止計画により、国、事業者、労働者等の関係者が一丸となって取組を推進してきた結果、我が国の労働現場における安全衛生の水準は大幅に改善してきた。一方で近年の状況を見ると、死亡災害は減少しているものの今なお年間約1,000人が亡くなっており、休業4日以上の死傷災害に至ってはかつてのような減少が望めない状況にある。また、過労死やメンタルヘルス不調が社会問題となっており、化学物質による健康障害も後を絶たない。労働力の高齢化が進んでいる中で、疾病を抱えた労働者の治療と仕事の両立への取組も求められている。
第13次の労働災害防止計画は、このような状況を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めたものである。
以上の趣旨を踏まえ、本計画の効果的な推進に万全を期されたい。
第13次労働災害防止計画
平成30年2月
厚生労働省
<目次>
はじめに
1 計画のねらい
(1) 計画が目指す社会
(2) 計画期間
(3) 計画の目標
(4) 計画の評価と見直し
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性
(1) 死亡災害の発生状況と対策の方向性
(2) 死傷災害の発生状況と対策の方向性
(3) 労働者の健康確保を巡る動向と対策の方向性
(4) 疾病を抱える労働者の治療と職業生活の両立を巡る状況と対策の方向性
(5) 化学物質による健康障害の現状と対策の方向性
3 計画の重点事項
(1) 死亡災害の撲滅を目指した対策の推進
(2) 過労死等の防止等の労働者の健康確保対策の推進
(3) 就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策の推進
(4) 疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進
(5) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
(6) 企業・業界単位での安全衛生の取組の強化
(7) 安全衛生管理組織の強化及び人材育成の推進
(8) 国民全体の安全・健康意識の高揚等
4 重点事項ごとの具体的取組
(1) 死亡災害の撲滅を目指した対策の推進
ア 業種別・災害種別の重点対策の実施
(ア) 建設業における墜落・転落災害等の防止
(イ) 製造業における施設、設備、機械等に起因する災害等の防止
(ウ) 林業における伐木等作業の安全対策
イ 重篤な災害の防止対策
ウ 最新基準が適用されていない既存の機械等の更新促進
(2) 過労死等の防止等の労働者の健康確保対策の推進
ア 労働者の健康確保対策の強化
(ア) 企業における健康確保措置の推進
(イ) 産業医・産業保健機能の強化
イ 過重労働による健康障害防止対策の推進
ウ 職場におけるメンタルヘルス対策等の推進
(ア) メンタルヘルス不調の予防
(イ) パワーハラスメント対策の推進
エ 雇用形態の違いにかかわらない安全衛生の推進
オ 副業・兼業、テレワークへの対応
カ 過労死等の実態解明と防止対策に関する研究の実施
(3) 就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策の推進
ア 災害の件数が増加傾向にある又は減少がみられない業種等への対応
(ア) 第三次産業対策
(イ) 陸上貨物運送事業対策
(ウ) 転倒災害の防止
(エ) 腰痛の予防
(オ) 熱中症の予防
(カ) 交通労働災害対策
(キ) 職場における「危険の見える化」の推進
イ 高年齢労働者、非正規雇用労働者、外国人労働者及び障害者である労働者の労働災害の防止
(ア) 高年齢労働者対策
(イ) 非正規雇用労働者対策
(ウ) 外国人労働者、技能実習生対策
(エ) 障害者である労働者対策
ウ 個人請負等の労働者の範疇に入らない者への対応
エ 技術革新への対応
(4) 疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進
ア 企業における健康確保対策の推進、企業と医療機関の連携の促進
イ 疾病を抱える労働者を支援する仕組みづくり
ウ 脊髄に損傷を負った労働者等の職場復帰支援
(5) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
ア 化学物質による健康障害防止対策
(ア) 国際動向等を踏まえた化学物質による健康障害防止対策
(イ) リスクアセスメントの結果を踏まえた作業等の改善
(ウ) 化学物質の有害性情報の的確な把握
(エ) 有害性情報等に基づく化学物質の有害性評価と対応の加速
(オ) 遅発性の健康障害の把握
(カ) 化学物質を取り扱う労働者への安全衛生教育の充実
イ 石綿による健康障害防止対策
(ア) 解体等作業における石綿ばく露防止
(イ) 労働者による石綿等の化学物質の取扱履歴等の記録の保存
ウ 受動喫煙防止対策
エ 電離放射線による健康障害防止対策
オ 粉じん障害防止対策
(6) 企業・業界単位での安全衛生の取組の強化
ア 企業のマネジメントへの安全衛生の取込み
イ 労働安全衛生マネジメントシステムの普及と活用
ウ 企業単位での安全衛生管理体制の推進
エ 企業における健康確保措置の推進
オ 界団体内の体制整備の促進
カ 元方事業者等による健康確保対策の推進
キ 業所管官庁との連携の強化
ク 中小規模事業場への支援
ケ 民間検査機関等の活用の促進
(7) 安全衛生管理組織の強化及び人材育成の推進
(8) 国民全体の安全・健康意識の高揚等
ア 高校、大学等と連携した安全衛生教育の実施
イ 危険体感教育及び震災に備えた対策の推進
ウ 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を活用した健康促進
エ 技能検定試験の関係団体との連携
オ 科学的根拠、国際動向を踏まえた施策推進
はじめに
労働災害防止計画は、戦後の高度成長期における産業災害や職業性疾病の急増を踏まえ、1958年に第1次の計画が策定されたものであり、その後、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化等に対応しながら、これまで12次にわたり策定してきた。
この間、産業災害や職業性疾病の防止に取り組む国、事業者、労働者等の関係者に対し、安全衛生活動を推進する際の実施事項や目標等を示して取組を促進することにより、我が国の労働現場における安全衛生の水準は大幅に改善した。
しかしながら、近年の状況を見ると、労働災害による死亡者の数(以下「死亡者数」という。)こそ減少しているものの、いまだその水準は低いといえず、第三次産業の労働者数の急速な増加や労働力の高齢化もあって、労働災害による休業4日以上の死傷者の数(以下「死傷者数」という。)に至ってはかつてのような減少は望めず、これまでとは異なった切り口や視点での対策が求められている。
また、過労死やメンタルヘルス不調が社会問題としてクローズアップされる中で、働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を踏まえ、過労死研究の推進とその成果を活用しつつ、労働者の健康確保対策やメンタルヘルス対策等に取り組むことが必要になっているほか、治療と仕事の両立への取組を推進することも求められている。このほか、胆管がんや膀胱がんといった化学物質による重篤な健康障害の防止や、今後増加が見込まれる石綿使用建築物の解体等工事への対策強化も必要となっている。
その他、大規模な自然災害による被害からの復旧・復興工事や東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業における安全衛生の確保はもとより、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機として我が国全体の安全や健康への意識の底上げにつなげていくことも考えられる。
このような状況を踏まえ、労働災害を少しでも減らし、安心して健康に働くことができる職場の実現に向け、2018年度を初年度として、5年間にわたり国、事業者、労働者等の関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めた「第13次労働災害防止計画」をここに策定する。
1 計画のねらい
(1) 計画が目指す社会
働く方々の一人一人がかけがえのない存在であり、それぞれの事業場において、一人の被災者も出さないという基本理念の下、働く方々の一人一人がより良い将来の展望を持ち得るような社会としていくためには、日々の仕事が安全で健康的なものとなるよう、不断の努力が必要である。
また、一人一人の意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方を選択する社会への移行が進んでいく中で、従来からある単線型のキャリアパスを前提とした働き方だけでなく、正規・非正規といった雇用形態の違いにかかわらず、副業・兼業、個人請負といった働き方においても、安全や健康が確保されなければならない。
さらに、就業構造の変化等に対応し、高年齢労働者、非正規雇用労働者、外国人労働者、障害者である労働者の安全と健康の確保を当然のこととして受け入れていく社会を実現しなければならない。
(2) 計画期間
2018年度から2022年度までの5か年を計画期間とする。
(3) 計画の目標
国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないという基本理念の実現に向け、以下の目標を計画期間中に達成することを目指す。
① 死亡災害については、一たび発生すれば取り返しがつかない災害であることを踏まえ、死亡者数を2017年と比較して、2022年までに15%以上減少させる。
② 死傷災害(休業4日以上の労働災害をいう。以下同じ。)については、死傷者数の増加が著しい業種、事故の型に着目した対策を講じることにより、死傷者数を2017年と比較して、2022年までに5%以上減少させる。
③ 重点とする業種の目標は以下のとおりとする。
・ 建設業、製造業及び林業については、死亡者数を2017年と比較して、2022年までに15%以上減少させる。
・ 陸上貨物運送事業、小売業、社会福祉施設及び飲食店については、死傷者数を2017年と比較して、2022年までに死傷年千人率で5%以上減少させる。
④ 上記以外の目標については、以下のとおりとする。
・ 仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上(71.2%:2016年)とする。
・ メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(56.6%:2016年)とする。
・ ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(37.1%:2016年)とする。
・ 化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「GHS」という。)による分類の結果、危険性又は有害性等を有するとされる全ての化学物質について、ラベル表示と安全データシート(以下「SDS」という。)の交付を行っている化学物質譲渡・提供者の割合を80%以上(ラベル表示60.0%、SDS交付51.6%:2016年)とする。
・ 第三次産業及び陸上貨物運送事業の腰痛による死傷者数を2017年と比較して、2022年までに死傷年千人率で5%以上減少させる。
・ 職場での熱中症による死亡者数を2013年から2017年までの5年間と比較して、2018年から2022年までの5年間で5%以上減少させる。
(4) 計画の評価と見直し
計画に基づく取組が着実に実施されるよう、毎年、計画の実施状況の確認及び評価を行い、労働政策審議会安全衛生分科会に報告する。また、必要に応じ、計画を見直す。
計画の評価に当たっては、単に死傷者数や目標に掲げた指標の増減のみならず、その背景や影響を及ぼしたと考えられる指標、社会経済情勢の変化も含めて分析を行う。
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性
(1) 死亡災害の発生状況と対策の方向性
死亡災害については、昭和30年代後半には年間7,000人近くもの尊い命が失われていたものが、近年は年間1,000人を切るところまで改善している。
しかしながら、平成10年以降の20年間の死亡災害の発生状況について、労働災害防止計画の5年ごとに平均して見ると、重点業種として取り組んできた製造業は全業種平均の減少率に届かず、同じく重点業種の一つであった建設業は減少率こそ全業種平均を上回ったが、依然として死亡災害全体の3分の1を占める状況にあり、引き続き重点業種として対策に取り組むことが必要である。また、林業については、第12次労働災害防止計画では重点業種としていないが、この間の労働災害発生の傾向や強度率の高さを考慮すれば、今回、重点業種に追加することが必要である(表1)。
これらの背景として、社会経済環境の変化とも相まって、様々な問題が顕在化してきていることが挙げられる。具体的には、年齢構成の偏りによる作業に習熟したベテラン労働者の不足、業務アウトソーシングの増加による現場管理の複雑化、生産設備の自動化等による異常時対応の困難化、装置産業における主要設備の高経年化に伴う劣化の進展等が課題となっている。
《表1》労働災害防止計画期間ごとの業種別死亡災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(参考)強度率 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(平成28年) |
|
製造業 |
330.6 |
290.8 |
218.0 |
187.5 |
0.12 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲12.0 |
▲34.1 |
▲43.3 |
|
建設業 |
700.2 |
521.6 |
375.0 |
335.0 |
0.33 (総合工事業を除く。) |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲25.5 |
▲46.4 |
▲52.2 |
|
陸上貨物運送事業 |
248.2 |
224.6 |
137.4 |
115.8 |
0.12 (道路貨物運送業) |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲9.5 |
▲44.6 |
▲53.4 |
|
林業 |
59.2 |
52.2 |
43.8 |
40.0 |
3.91 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲11.8 |
▲26.0 |
▲32.4 |
|
上記以外の業種 |
496.4 |
429.0 |
582.8 |
318.5 |
― |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲13.6 |
17.4 |
▲35.8 |
|
全業種合計 |
1834.6 |
1518.2 |
1357.0 |
996.8 |
0.13 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲17.2 |
▲26.0 |
▲45.7 |
※ 12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。強度率は、平成28年労働災害動向調査(事業場規模30人以上)。
業種別に、事故の型別を見ると、製造業については、機械災害対策として重点的に取り組んできた「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数の減少率が製造業の平均減少率に及ばず、更なる対策が必要である(表2)。
《表2》労働災害防止計画期間ごとの製造業における事故の型別死亡災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
|
はさまれ・巻き込まれ |
97.8 |
82.2 |
66.8 |
59.3 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲16.0 |
▲31.7 |
▲39.4 |
製造業 |
330.6 |
290.8 |
218.0 |
187.5 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲12.0 |
▲34.1 |
▲43.3 |
※ 12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。
同様に、建設業については最も死亡者数が多い「墜落・転落」、林業については伐木等作業における「激突され」について、対策を強化していくことが必要である(表3~4)。
《表3》労働災害防止計画期間ごとの建設業における事故の型別死亡災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
|
墜落・転落 |
296.6 |
221.4 |
157.8 |
142.5 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲25.4 |
▲46.8 |
▲52.0 |
建設業 |
700.2 |
521.6 |
375.0 |
335.0 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲25.5 |
▲46.4 |
▲52.2 |
※ 12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。
《表4》労働災害防止計画期間ごとの林業における事故の型別死亡災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
|
激突され |
20.6 |
20.6 |
15.2 |
16.5 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
0.0 |
▲26.2 |
▲19.9 |
林業 |
59.2 |
52.2 |
43.8 |
40.0 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲11.8 |
▲26.0 |
▲32.4 |
※ 12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。
(2) 死傷災害の発生状況と対策の方向性
死傷災害については、平成10年以降の20年間で死傷者数は15%弱の減少となっている。
しかしながら、減少幅は徐々に小さくなっており、平成20年以降における減少幅は極めて小さい。これを業種別に見ると、製造業及び建設業においては、死傷者数自体は依然として多いものの、その減少率は全業種平均を大幅に上回っている。その一方で、第三次産業の中には、社会福祉施設のように、労働者数の増加を考慮したとしても死傷者数の増加幅が著しい業種がある(表5~6)。
《表5》労働災害防止計画期間ごとの業種別死傷災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(参考)千人率 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(平成28年) |
|
製造業 |
41,986 |
37,060 |
29,570 |
26,844 |
2.70 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲11.7 |
▲29.6 |
▲36.1 |
|
建設業 |
28,809 |
22,874 |
17,107 |
16,254 |
4.51 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲20.6 |
▲40.6 |
▲43.6 |
|
陸上貨物運送事業 |
15,964 |
15,633 |
14,029 |
14,066 |
8.17 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲2.1 |
▲12.1 |
▲11.9 |
|
林業 |
3,012 |
2,485 |
2,208 |
1,629 |
31.22 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲17.5 |
▲26.7 |
▲45.9 |
|
小売業 |
11,591 |
12,574 |
12,536 |
13,162 |
2.17 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
8.5 |
8.2 |
13.6 |
|
社会福祉施設 |
1,871 |
3,642 |
5,561 |
7,483 |
2.11 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
94.6 |
197.2 |
299.9 |
|
飲食店 |
3,556 |
3,889 |
4,123 |
4,593 |
1.79 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
9.4 |
16.0 |
29.2 |
|
全業種合計 |
138,379 |
132,802 |
119,489 |
117,978 |
2.19 |
(9次防からの増減率(%)) |
― |
▲4.0 |
▲13.7 |
▲14.7 |
※ 9次防の期間平均は、平成11年~14年の平均である。12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。千人率は、平成28年労働力調査の労働者数を用いて算出したもの。
《表6》業種別死傷年千人率の推移(平成24年~平成28年)
|
平成24年 |
平成25年 |
平成26年 |
平成27年 |
平成28年 |
陸上貨物運送事業 |
8.44 |
8.30 |
8.41 |
8.22 |
8.17 |
小売業 |
2.24 |
2.13 |
2.22 |
2.14 |
2.17 |
社会福祉施設 |
1.99 |
1.96 |
1.99 |
2.01 |
2.11 |
飲食店 |
1.76 |
1.71 |
1.74 |
1.80 |
1.79 |
また、事故の型別に見ると、製造業や建設業に多い「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」等については減少幅が全業種平均を大きく上回る一方で、「転倒」「動作の反動・無理な動作」といった高い年齢層で発生しやすいものについては、少しずつ増加している(表7)。
《表7》労働災害防止計画期間ごとの事故の型別死傷災害の推移(9次防~12次防)
|
9次防 |
10次防 |
11次防 |
12次防 |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
(期間年平均) |
|
墜落・転落 |
25,290 |
23,827 |
20,427 |
20,183 |
― |
▲5.8 |
▲19.2 |
▲20.2 |
|
はさまれ・巻き込まれ |
23,752 |
20,589 |
16,288 |
14,791 |
― |
▲13.3 |
▲31.4 |
▲37.7 |
|
転倒 |
21,532 |
23,418 |
24,597 |
26,490 |
― |
8.8 |
14.2 |
23.0 |
|
動作の反動・無理な動作 |
11,712 |
13,020 |
13,945 |
14,402 |
― |
11.2 |
19.1 |
23.0 |
|
全業種合計 |
138,379 |
132,802 |
119,489 |
117,978 |
― |
▲4.0 |
▲13.7 |
▲14.7 |
※ 9次防の期間平均は、平成11年~14年の平均である。12次防の期間平均は、平成25年~28年の平均である。
その他、死傷者数の増加幅が大きい第三次産業を業種別に見ると、小売業や社会福祉施設においては、「転倒」や「動作の反動・無理な動作」が多く、被災者の過半数は50歳以上である。飲食店については、「転倒」に加え、調理中の「切れ・こすれ」や「高温・低温の物との接触」が多く、30歳未満が3分の1を占め、50歳以上と拮抗している。
社会福祉施設等における転倒災害の増加等は、働き盛り世代の確保が難しく、また高年齢労働者が参入しやすいなど、高年齢労働者の数や割合が増加していることと関連していると考えられる。
また、第三次産業においては、多店舗展開の小売業のように事業場が分散している業態が多く、個々の事業場に与えられる権限や予算も十分でない場合が多いため、事業場ごとの安全衛生管理の仕組みが十分に機能していない場合があると考えられる。そのほか、第三次産業では、危険性の高い機械や化学物質等を使用する機会が少ないことから、事業者はもとより、労働者においても危険に対する認識が足りず、このことも災害が減少しない要因と考えられる。
こうしたことを踏まえると、労働力の高齢化や就業構造の変化への対応等も考慮して、対策を推進していくことが必要である。
(3) 労働者の健康確保を巡る動向と対策の方向性
現在の仕事や職業生活に関する強い不安、悩み又はストレスを感じる労働者は、依然として全労働者の半数を超えている。
また、過重労働等によって労働者の尊い命や健康が損なわれ、深刻な社会問題となっている。過労死等(業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。以下同じ。)で労災認定された件数は、ここ数年は700件台で推移しており、そのうち死亡又は自殺(未遂を含む。)の件数は200件前後となっている(表8)。また、過去5年間に過労死等で労災認定された事案を年齢階級別に見ると、「脳・心臓疾患」は50歳代、40歳代の順で多く、「精神障害」は30歳代、40歳代、29歳以下の順で多くなっている(表9)。
《表8》脳・心臓疾患及び精神障害に係る労災認定件数の推移
|
平成24年度 |
平成25年度 |
平成26年度 |
平成27年度 |
平成28年度 |
||
脳・心臓疾患 |
|
労災認定件数 |
338 |
306 |
277 |
251 |
260 |
|
うち死亡件数 |
123 |
133 |
121 |
96 |
107 |
|
精神障害 |
|
労災認定件数 |
475 |
436 |
497 |
472 |
498 |
|
うち自殺件数 |
93 |
63 |
99 |
93 |
84 |
|
労災認定件数合計 |
813 |
742 |
774 |
723 |
758 |
||
|
|
||||||
|
うち死亡・自殺合計 |
216 |
196 |
220 |
189 |
191 |
※ 自殺は未遂を含む。
《表9》脳・心臓疾患、精神障害の年齢階級別の事案数
このような中で、過労死等防止対策推進法が2014年に成立し、国や地方公共団体はその対策を推進するために、啓発、相談体制の整備、民間団体活動に対する支援等を行うとともに、国は、過労死等に関する調査研究を実施し、過労死等防止対策推進協議会を設置することとされている。
過労死等を未然に防止するためには、長時間労働対策に加えて、メンタルヘルス対策の推進が重要である。2015年12月には、メンタルヘルス不調を未然に防止することを主な目的としたストレスチェック制度が創設され、労働者のメンタルヘルス対策は新たな一歩を踏み出している。
ストレスチェック制度においては、労働者一人一人のストレスを把握して自身の気づきを促すとともに、その結果を集団ごとに分析して職場環境の改善に活用することが重要である。集団分析結果を活用した職場環境改善は努力義務であるが、その実施率は全事業所の約37%(2016年)にとどまっている。
また、高ストレスやメンタルヘルス不調等の労働者が、産業医等による健康相談等を安心して受けられることが重要であるが、全労働者の約3割が職場において仕事上の不安、悩み又はストレスについて、相談できる相手がいないと感じている現状にある。
こうした状況を踏まえると、ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善の取組や、労働者が安心してメンタルヘルス等の相談を受けられる環境整備を促進するとともに、過労死等の実態把握や調査研究による実態解明を進めつつ、得られた知見に基づき対策を推進していくことが必要である。
(4) 疾病を抱える労働者の治療と職業生活の両立を巡る状況と対策の方向性
脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血糖、脂質等の結果を含めた労働安全衛生法に基づく一般健康診断における結果の有所見率は全労働者の半数を超え、年々増加を続けており、疾病のリスクを抱える労働者は増える傾向にある。
健康診断の結果に異常の所見がある労働者については、医師からの意見を聴取し、就業上の措置の的確な実施等を通じて、脳・心臓疾患を未然に防止する必要がある。
また、これらの疾病の有病率は年齢が上がるほど高くなり、労働力の高齢化が進んでいる中で、職場においては、疾病を抱えた労働者の治療と仕事の両立への対応が必要となる場面が増えることが予想される。
その一方で、職場での対応は個々の労働者の状況に応じて進めなければならず、支援の方法や医療機関等との連携について悩む事業場の担当者も少なくない。
こうした状況を踏まえると、まずは、健康診断の結果に基づく就業上の措置を的確に実施するとともに、労働者の治療と職業生活の両立支援に取り組む企業に対する支援等を推進することが必要である。
(5) 化学物質による健康障害の現状と対策の方向性
産業現場で使用される化学物質は約70,000種類に及び、毎年1,000物質程度の新規化学物質の届出がなされている。これら膨大な種類の化学物質のうち、労働安全衛生関係法令によって、ばく露防止措置、作業環境測定、特殊健康診断、ラベル表示、リスクアセスメント等の実施が義務付けられているものは663物質であるが、その他多くの化学物質については、対策の基本となる危険性や有害性等の情報の通知さえ十分行われているとはいえない状況にある。
欧米諸国においては、GHSに定められた分類手法に基づき、化学物質の製造又は輸入を行う事業者が、譲渡・提供する全ての化学物質について分類を行い、危険性又は有害性等のある物質についてラベル表示やSDS交付を行う仕組みが整備されている。
また、近年、胆管がんや膀胱がんといった化学物質による重篤な健康障害が発生しているが、職業性疾病を疑わせる段階において、国がこうした事案を把握できる仕組みがないことから、事業者による自主的な情報提供等を端緒として、実態把握や対策を講じざるを得ない状況にある。
こうした状況を踏まえると、国際的な動向も踏まえ、化学物質の危険性又は有害性等に関する情報提供の在り方や、化学物質による健康障害の発生が疑われる事案を国が把握できる仕組みの検討が必要な状況にある。
このほか、石綿による健康障害の防止については、国内の石綿使用建築物の耐用年数から推計した解体棟数が、2017年の約6万棟から、2030年頃のピーク時には約10万棟まで増加することを踏まえ、対策の強化に取り組むことが必要な状況にある。
3 計画の重点事項
先に述べた安全衛生を取り巻く現状と対策の方向性を踏まえ、以下の8項目を重点事項とする。
(1) 死亡災害の撲滅を目指した対策の推進
(2) 過労死等の防止等の労働者の健康確保対策の推進
(3) 就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策の推進
(4) 疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進
(5) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
(6) 企業・業界単位での安全衛生の取組の強化
(7) 安全衛生管理組織の強化及び人材育成の推進
(8) 国民全体の安全・健康意識の高揚等
4 重点事項ごとの具体的取組
(1) 死亡災害の撲滅を目指した対策の推進
ア 業種別・災害種別の重点対策の実施
(ア) 建設業における墜落・転落災害等の防止
・ 建設業においては、墜落・転落災害が死亡災害のうち4割を超える状況にあることから、その発生状況や関連する施策の実績等を踏まえつつ、墜落・転落災害防止対策の充実強化について検討する。また、「墜落防止用の個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会報告書」(平成29年6月13日墜落防止用の個人用保護具に関する規制のあり方に関する検討会とりまとめ)を踏まえ、高所作業時における墜落防止用保護具については、原則としてフルハーネス型とするとともに、墜落時の落下距離に応じた適切な保護具の使用の徹底を図る。
・ 建設業の死亡災害のうち解体工事における死亡災害の占める割合が徐々に増加し、今後も鉄筋コンクリートや鉄骨の建築物、橋梁等の解体工事が増加することが見込まれることから、解体工事における安全対策について検討する。
・ 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の施設工事について、関係行政機関、発注機関等により構成される安全衛生対策協議会を通じ、長時間労働の縮減も含めた労働災害防止対策の徹底を図る。また、大会の施設工事において実施されている先進的な取組を、今後の快適で安全な建設工事のモデルとしていく。
・ 地震、台風、大雨等の自然災害に被災した地域の復旧・復興工事において労働災害防止対策の徹底を図る。
・ 建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画(平成29年6月9日閣議決定)に基づき、国土交通省と緊密な連携の下に、請負契約における安全衛生経費の適切な積算及び確実な支払いに関する施策の検討・実施、施工段階の安全衛生に配慮した設計の普及、中小建設業者の安全衛生管理能力の向上に向けた支援等の取組を着実かつ計画的に実施する。
(イ) 製造業における施設、設備、機械等に起因する災害等の防止
・ 危険性の高い機械等については、製造者が十分な知識及び技能を有する者を参画させた機械の包括的な安全基準に関する指針(平成19年7月31日付け基発第0731001号)による製造時のリスクアセスメントを確実に実施するための方策を検討するとともに、製造者によるリスクアセスメントを実施しても残留するリスク等の情報を機械等の使用者に確実に提供する方策を検討する。あわせて、機械等の使用者による安全な使用の徹底を図る。
・ 専門知識を有する一定の者を選任する事業場において、残留リスク情報に対応する措置を適切に実施した場合や、一定の要件を満たす信頼性の高い自動制御装置(機能安全による機械等に係る安全確保に関する技術上の指針(平成28年厚生労働省告示第353号)に適合していることについて証明を得たもの等)によって機械等を監視・制御する場合においては、柵等の設置等の危険防止措置、点検・監視や有資格者の配置、使用制限(禁止)等の規定又は機械等の構造規格の適用等についての特例を設けることを検討する。
・ 経済産業省及び中央労働災害防止協会と連携し、主要な製造業の業界団体により構成される製造業安全対策官民協議会における安全対策の検討結果の周知を図り、事業場の自主的な安全確保の促進を図る。
・ 生産設備の高経年化に伴い、設備の劣化による労働災害の増加が懸念されるため、その経年劣化によるリスクを低減していくという観点から、補修等の状況も勘案した、高経年施設・設備に対する点検・整備等の基準を検討する。
・ 諸外国においては、信頼性の高い自動制御装置により監視及び制御されるプラント等に対して損害保険の保険料減免が行われ、それが、より一層の安全対策のインセンティブとなっていること等を踏まえ、安全投資を促進するインセンティブを高めるための方策について検討を行う。
・ 災害が多発している食料品製造業については、食品加工機械の安全な使用方法等を浸透させるため、関係省庁と連携しつつ、他の製造業と同様に職長に対する教育の実施等を推進する。
・ 建設業における職長の再教育を製造業でも実施できるようカリキュラム等の策定を検討する。
(ウ) 林業における伐木等作業の安全対策
・ 林業においては、チェーンソーによる伐木等作業中に発生する死亡災害が全体の7割程度を占めていることから、その一層の減少を図るため、「伐木等作業における安全対策のあり方に関する検討会」における議論の結果を踏まえ、安全な伐倒方法やかかり木処理の方法の普及、下肢を保護する防護衣の着用の徹底、安全教育の充実等必要な安全対策の充実強化を図るとともに、その周知徹底について林野庁や関係団体と連携して取り組む。
・ 林業・木材製造業労働災害防止協会の安全管理士等による指導と併せ、林野庁と連携し、林業普及指導員等による伐木等作業現場での労働災害の防止対策について指導の充実を図る。
イ 重篤な災害の防止対策
・ 休業6か月以上の災害に係る労働者死傷病報告や事故報告の分析を実施すること等により、死亡災害につながるような重篤な災害を大幅に減少させるための対策について検討する。また、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所と連携し、重篤な災害に対する原因究明及び同種災害の防止対策を検討する。
ウ 最新基準が適用されていない既存の機械等の更新促進
・ 構造規格等の改正時には、経過措置により、既存の機械等への最新基準の適用が猶予されることが多いが、これらの更新を促進するための支援措置等について検討する。
(2) 過労死等の防止等の労働者の健康確保対策の推進
ア 労働者の健康確保対策の強化
(ア) 企業における健康確保措置の推進
・ 過重労働・メンタルヘルス対策等の労働者の心身の健康確保対策がこれまでになく強く求められている。そのため、法定の健康診断やその結果を踏まえた就業上の措置のみならず、労働者の健康管理に関して、経営トップの取組方針の設定・表明等、企業の積極的な取組を推進する。また、労働者は、自らも健康の保持増進に努める。
(イ) 産業医・産業保健機能の強化
・ 事業場において、過重な長時間労働やメンタルヘルス不調等により過労死等のリスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導や産業医・産業保健スタッフによる健康相談等が確実に実施されるようにし、労働者の健康管理を推進する。
・ 「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」(平成28年12月26日産業医制度の在り方に関する検討会とりまとめ)で示された内容等も踏まえ、産業医の在り方を見直し、産業医等が医学専門的な立場から労働者の健康確保のためにより一層効果的な活動を行いやすい環境を整備する。
・ さらに、
① 産業医の質・量の確保、地域偏在等の問題の改善
② 産業医の選任義務がない小規模事業場における産業保健機能強化のための支援
③ 産業医や看護職等の産業保健スタッフから構成されるチームによる産業保健活動の推進
④ 産業医科大学による産業保健分野の人材育成の推進
のために必要な方策について検討し、対策を講じる。
・ 衛生委員会等の活動の活性化を図るため、産業医に衛生委員会等の参加を促すなどの取組を進めるとともに、必要に応じて、衛生委員会等の審議事項等について見直しを検討する。
イ 過重労働による健康障害防止対策の推進
・ 時間外労働の上限規制により過重労働の防止を図るとともに、過重な労働により脳・心臓疾患等の発症のリスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、長時間労働者に対する健康確保措置として、医師による面接指導の対象者の見直しや労働時間の客観的な把握等の労働者の健康管理を強化する。
ウ 職場におけるメンタルヘルス対策等の推進
(ア) メンタルヘルス不調の予防
・ ストレスチェック制度について、高ストレスで、かつ医師による面接指導が必要とされた者を適切に医師の面接指導につなげるなど、メンタルヘルス不調を未然に防止するための取組を推進するとともに、ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善について、好事例の収集・情報提供等の支援を行い、その取組を推進することで、事業場における総合的なメンタルヘルス対策の取組を推進する。
・ 産業保健総合支援センターによる支援等により、小規模事業場におけるストレスチェック制度の普及を含めたメンタルヘルス対策の取組を推進する。
・ 事業場におけるメンタルヘルス対策について、労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年健康保持増進のための指針公示第3号)に基づく取組を引き続き推進するとともに、特に、事業場外資源を含めた相談窓口の設置を推進することにより、労働者が安心してメンタルヘルス等の相談を受けられる環境を整備する。
(イ) パワーハラスメント対策の推進
・ 労働者が健康で意欲を持って働けるようにするためには、労働時間の管理やメンタルヘルス対策だけでなく、職場のパワーハラスメントを防止する必要があることから、働き方改革実行計画を受けて開催された有識者と労使関係者からなる検討会の結果を踏まえて、パワーハラスメント対策を推進する。
エ 雇用形態の違いにかかわらない安全衛生の推進
・ 雇用形態の違いにかかわらず、安全衛生教育や健康診断、安全衛生委員会への参画等について適正に実施されるようにする。
オ 副業・兼業、テレワークへの対応
・ 副業・兼業を行う労働者の健康確保のため、事業者が法令に基づく健康診断等の措置が必要な場合は適切に実施するよう周知していく。
また、これらの労働者の健康管理が、一体的かつ継続的に管理されるような方策を検討する。
・ テレワークについては、労働者の健康確保措置のために必要な労働時間の管理を適切に行うとともに、事業者が法令に基づく安全衛生教育、健康診断等を適切に実施するよう周知していく。
カ 過労死等の実態解明と防止対策に関する研究の実施
・ 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の過労死等調査研究センターにおける過労死等の労災保険給付請求事案に係るデータの収集や調査分析等を継続するとともに、引き続き疫学的な研究等を通じて過重労働と過労死等の相関等に関する客観的なデータの把握と分析を行い、その結果を踏まえ対策を検討する。
(3) 就業構造の変化及び働き方の多様化に対応した対策の推進
ア 災害の件数が増加傾向にある又は減少がみられない業種等への対応
(ア) 第三次産業対策
・ 労働者数の増加に伴い、労働災害の総件数が増加傾向にある小売業、社会福祉施設及び飲食店のうち、多店舗展開で分散している業態の事業場については、個々の店舗や施設において安全衛生に取り組む人員、権限及び予算が限定的であり、本社・本部の労働災害防止対策への参画が求められる。このような業態の事業場について、事業場単位の安全衛生管理に加え、企業単位での安全衛生管理の在り方について、総合的に検討する。
・ 経営トップに対する意識啓発や「危険の見える化」、リスクアセスメントによる設備改善、KY活動等による危険感受性の向上のための働きかけに取り組む。
・ 第三次産業の業種の業界団体の一部において、会員企業の安全衛生対策を推進するための安全衛生委員会等を設置している場合がある。このため、このような取組を行っていない業界団体に対し、安全衛生委員会等の設置を働きかけるとともに、当該委員会等の活動や必要な人材の育成等について、中央労働災害防止協会と連携して取り組む。
・ 第三次産業の事業場が実効ある取組を行えるようにするため、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント等の専門家を活用できるよう支援する。
・ 社会福祉施設については、腰痛予防のため、安全衛生教育の徹底だけでなく、介護機器等の導入促進も併せて行う。
・ 小売業や飲食店については、他業種に比べ非正規雇用労働者の割合が高く、経験年数3年未満の死傷者の割合が高いことを踏まえ、業界団体と連携しつつ、雇入れ時の安全衛生教育の徹底を図る。
(イ) 陸上貨物運送事業対策
・ 陸上貨物運送事業における労働災害の約7割が荷役作業時に発生していることから、陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン(平成25年3月25日付け基発0325第1号。以下「荷役作業における安全ガイドライン」という。)に基づき、陸上貨物運送事業労働災害防止協会と連携し、保護帽の着用等基本的な安全対策の徹底を図る。また、荷役作業に従事する労働者に対する安全衛生教育の在り方について検討する。
・ 国土交通省と連携し、荷主事業者に対し、長時間の荷待ち時間の削減や荷役施設・設備の改善、荷役作業の安全担当者の配置等について支援を要請する。
・ インターネット通販の普及で荷の取扱件数が増加傾向にあることを踏まえ、荷役作業における安全ガイドラインの見直しを含め、荷役作業の実態に即した対策を検討する。
(ウ) 転倒災害の防止
・ 死傷災害のうちの2割強を占める転倒災害については、4S(整理・整頓・清掃・清潔)や注意喚起を促すステッカーの掲示等による「危険の見える化」、作業内容に適した防滑靴の着用等の取組の促進を図る。また、転倒災害防止に係るeラーニング教材を作成するなど、事業者に対する支援を行う。
・ 一般的に加齢に伴う身体機能の低下により転倒災害の発生リスクが高まることから、これを予防するための体操の周知・普及を図る。
(エ) 腰痛の予防
・ 年間5,000件程度の発生が見られる腰痛について、安全衛生教育の確実な実施を推進するとともに、介護労働者の身体的負担軽減を図る介護機器の導入促進を図る。
・ 荷の積卸し等の定型的な重筋業務を行う場合にも、身体への負担を軽減する機械等の普及を図る方策について検討する。
(オ) 熱中症の予防
・ 日本工業規格(JIS)に適合したWBGT値測定器を普及させるとともに、夏季の屋外作業や高温多湿な屋内作業場については、WBGT値の測定とその結果に基づき、休憩の確保、水分・塩分の補給、クールベストの着用等の必要な措置が取られるよう推進する。
・ 熱中症予防対策の理解を深めるために、建設業等における先進的な取組の紹介や労働者等向けの教育ツールの提供を行う。
(カ) 交通労働災害対策
・ バス、トラック、タクシー等の事業用自動車を保有する事業場において道路運送法又は貨物自動車運送事業法により選任される運行管理者の講習(2年ごと)に際し、国土交通省と連携して、交通労働災害防止のための教育を推進する。
・ 事業用自動車運転業務に従事する労働者については、臨時的な雇用であっても、健康問題を原因とする交通労働災害を防止する観点から事業者による適切な健康確保対策が行われるよう、方策を検討する。
・ 交通労働災害については、死亡災害の過半数が、バス、トラック、タクシー等の事業用自動車を保有する事業場以外の事業場で発生していることを踏まえ、警察庁と連携し、あらゆる業種の業界団体に対し、実効ある交通労働災害防止対策が展開されるよう働きかける。
(キ) 職場における「危険の見える化」の推進
・ 働き方の多様化が進む中、派遣労働者、若年労働者や未熟練労働者が現に就労する事業場において、労働者の知識・経験の程度にかかわらず、安心して働ける職場を実現していけるよう、「危険の見える化」に配慮しながら、労働災害防止に関する標識、掲示等の普及を推進する。
・ 日本語の理解度に差のある外国人労働者においても、上記と同様の対策を普及していく。
イ 高年齢労働者、非正規雇用労働者、外国人労働者及び障害者である労働者の労働災害の防止
(ア) 高年齢労働者対策
・ 労働力が高齢化し、転倒災害や腰痛が増加傾向にあることから、高年齢労働者に配慮した職場環境の改善や筋力強化等の身体機能向上のための健康づくり等の取組事例を収集し、安全と健康確保のための配慮事項を整理して、その普及を図る。
(イ) 非正規雇用労働者対策
・ 派遣労働者の労働災害を防止するため、雇入れ時の安全衛生教育や健康診断の実施状況等の把握を行い、その結果を踏まえ、必要な取組を検討する。
・ 小売業や飲食店については、他業種に比べ非正規雇用労働者の割合が高く、経験年数3年未満の死傷者の割合が高いことを踏まえ、業界団体と連携しつつ、雇入れ時の安全衛生教育の徹底を図る。(再掲)
(ウ) 外国人労働者、技能実習生対策
・ 技能実習を終えて帰国した外国人労働者等について、建設業、造船業又は製造業の労働者として入国することを認める制度が創設されたことから、外国人労働者が被災する労働災害の発生件数の増加が危惧される状況にある。こうした点を踏まえ、関係府省と連携して、外国人労働者を雇用する事業場に対し、安全衛生教育の実施、労働災害防止のための日本語教育等の実施、労働災害防止に関する標識・掲示の設置、健康管理の実施等の徹底を図る。あわせて、安全衛生教育の実施に当たっては、外国人労働者向けの安全衛生教育マニュアルの活用を図る。
・ 技能実習生については、外国人技能実習機構と連携し、監理団体や技能実習生の受入れを行う事業場に対する労働災害防止のための取組を推進する。
(エ) 障害者である労働者対策
・ 障害者である労働者の労働災害防止や安全への不安を払拭するため、労働災害事例や安全上の配慮事項等の実態把握を行い、必要な対策を検討する。
ウ 個人請負等の労働者の範疇に入らない者への対応
・ 建設業における一人親方等については、建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画に基づき、その業務の特性や作業の実態を踏まえた安全衛生教育の実施等、必要な対応について検討する。
エ 技術革新への対応
・ 人との協調作業を可能とする産業用ロボット等について、機能安全の基準や認証制度を検討する。
・ 信頼性の高い自動制御装置によって機械等を監視及び制御する安全方策の普及を図る。
・ AI(人工知能)やマンマシンインターフェースの開発に伴い、これまでの産業用ロボットの定義(記憶装置の情報に基づきマニプレータの屈伸等を自動的に行う機械)に当てはまらないロボットが産業現場に普及していくことが見込まれるため、これらの安全対策や安全基準・規格等を検討する。
・ AIやGPS技術の急速な能力向上により、近い将来において、工場等の産業現場においても自律的に作業を行う機械の導入が進むと見込まれるため、こうした技術革新を見越した上で、人と機械の安全な協働の方策等について必要な基準を検討する。
・ IoT(Internet of Thing:インターネットに物が接続されること)やこれにより収集されたビッグデータを活用した労働災害の防止や労働者の健康確保に関する調査研究を推進する。
(4) 疾病を抱える労働者の健康確保対策の推進
ア 企業における健康確保対策の推進、企業と医療機関の連携の促進
・ 疾病を抱える労働者の就労の継続に当たっては、職場において就業上の措置や治療に対する配慮が適切に行われる必要がある。このため、健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成8年健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針第1号)、治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(平成28年2月23日付け基発第0223第5号、健発0223第3号、職発0223第7号。以下「両立支援ガイドライン」という。)の周知啓発を図り、企業の意識改革及び支援体制の整備を促進する。
・ 両立支援ガイドラインに基づく事業者と医療機関の連携を一層強化するため、企業向け及び医療機関向けマニュアルを作成し、産業保健総合支援センターにおける研修の実施等により普及を図る。
・ 都道府県ごとに設置される地域両立支援推進チームの活動等を通して、地域における企業、医療機関等の関係者の具体的連携を推進する。
イ 疾病を抱える労働者を支援する仕組みづくり
・ 治療と仕事の両立支援は、疾病を抱えた労働者本人からの支援の申出を受けた事業者による支援に加え、治療やその間の各種支援を担う医療機関等とも連携をした総合的な支援の仕組みづくりを進める。そのため、労働者に寄り添いながら相談支援を行い、労働者と主治医や企業・産業医とのコミュニケーションのサポートを行う「両立支援コーディネーター」の養成に取り組むとともに、産業保健総合支援センター等に配置すること等により、治療と仕事の両立に係る相談支援体制の充実を図る。
ウ 脊髄に損傷を負った労働者等の職場復帰支援
・ 労災病院のリハビリテーション機関等において、脊髄に損傷を負った労働者が、治療開始時から日常生活復帰を経て職場復帰につながった事例を収集・分析し、職場復帰を見据えた入院時からの医療機関の継続的な支援方法等に関する研究を推進する。
・ 脊髄に損傷を負った労働者が、職場において職務に適応できるようにするためのリハビリテーション技術及び機器の開発を推進する。
・ 上記の研究成果を踏まえ、脊髄に損傷を負った労働者等の職場復帰支援について、障害者雇用施策との連携等、国の支援策の在り方を検討する。
(5) 化学物質等による健康障害防止対策の推進
ア 化学物質による健康障害防止対策
(ア) 国際動向等を踏まえた化学物質による健康障害防止対策
・ 特定化学物質障害予防規則等の特別規則による健康障害防止措置の実施やラベル表示及びSDS交付の対象としている物質は663物質であるが、その他の多くの化学物質については、健康障害防止措置が義務付けられていない。こうした中で、663物質以外の化学物質がその危険性や有害性が情報伝達されないままに、規制対象物質の代替品として用いられる動きが認められる。
このような状況を踏まえ、ラベル表示及びSDS交付の在り方について検討するとともに、国による支援の充実等必要な環境整備を推進する。
・ 化学物質の危険性又は有害性等が不明であることは当該化学物質が安全又は無害であることを意味するものではないことから、これらの危険性又は有害性等が判明していない化学物質が安易に用いられることのないようにするため、事業者及び労働者に対して、必要な対策を講じることを指導・啓発する。
(イ) リスクアセスメントの結果を踏まえた作業等の改善
・ 化学物質のリスクアセスメントの結果に基づく作業等の改善方法を具体的に分かりやすく示していくなど、作業改善の実効性を上げるための支援策を充実する。
・ 最新の科学的知見に基づき、ラベル表示・SDS交付の対象物質を見直す。
・ 作業環境測定の実施方法に個人サンプラーによる測定方法を追加し、作業態様に応じた測定・評価方法を選択できるようにする。
・ 作業環境測定の結果等と特殊健康診断の結果を結びつけるなど、総合的な健康確保対策が講じられる方策を検討する。
(ウ) 化学物質の有害性情報の的確な把握
・ 化学物質が健康に及ぼす影響について、引き続き国内外における知見を迅速かつ的確に収集し、規制の見直しに活用するとともに、収集した有害性等の情報を広く事業者等に提供する。
(エ) 有害性情報等に基づく化学物質の有害性評価と対応の加速
・ 国際的に労働者への発がん性等の指摘がなされている化学物質のリスク評価及びリスク評価結果に基づく健康障害防止対策について、諸外国における規制の動向と背景、判断基準や優先順位等に係る情報の収集等について検討し、更なる効率化、迅速化を図る。
(オ) 遅発性の健康障害の把握
・ 近年発生した胆管がん事案、膀胱がん事案等、遅発性の健康障害の事案を的確に把握できるようにするため、例えば、化学物質による職業性疾病を疑わせる事例を把握した場合に国に報告がなされる仕組みづくりや、独立行政法人労働者健康安全機構と連携し、国内の労働者のがん等の疾病と職業歴や作業方法、使用物質等の関係の情報を収集・蓄積して、その結果を活用する方策等を検討する。
(カ) 化学物質を取り扱う労働者への安全衛生教育の充実
・ 事業者による化学物質の管理を実効あるものとするためには、労働者が化学物質の危険性又は有害性等やばく露防止の方法等を正しく理解することが重要である。このため、雇入れ時等の安全衛生教育において、化学物質のラベル表示やSDSによる情報について理解を深められるようにしたり、保護具の正しい着用方法等の具体的な内容を習得できるようにしたりするなど、その充実を検討する。
イ 石綿による健康障害防止対策
(ア) 解体等作業における石綿ばく露防止
・ 石綿が用いられている建築物の解体工事の増加が見込まれる中、石綿の使用の有無の調査が十分に行われないまま解体工事が施工される事例等が報告されている。このため、石綿に関する届出対象の拡大等により、事業者による石綿の使用の事実の把握漏れの防止を徹底することに加え、石綿の使用の有無の調査を行う者の専門性の確保等の方策について検討する。
・ 建築物の解体工事等において、適切に石綿ばく露防止措置が講じられるためには、解体工事等の発注者が石綿の有無等に応じて必要な安全衛生経費を負担することが重要である。発注者が低額で短期間の工事を求め、施工者も低額で短期間の工事を提示することで契約を得ようとすることにより、必要な石綿ばく露防止措置がおろそかになることを防止するため、こうした石綿ばく露防止措置を講じない施工者への対策を強化するとともに、解体工事等の発注者に求められる石綿ばく露防止対策への対応について検討する。
・ 大規模地震等の自然災害が発生した際に、被災建築物等のがれきの撤去作業や被災建築物等の解体工事において石綿ばく露防止が円滑に図られるよう、環境省のマニュアルも踏まえつつ、被災状況に応じた指導・周知等の対応を行うとともに、マスクや手袋等の保護具の円滑な確保等のばく露防止対策の推進を図る。
(イ) 労働者による石綿等の化学物質の取扱履歴等の記録の保存
・ 石綿をはじめとした化学物質による健康障害は長期間経過後に発生することがあることから、事業者は個々の労働者のばく露の状況等を継続的に把握し保存しておくことが必要である。このため、事業の廃止後も含め、こうした情報の保存を推進する。
ウ 受動喫煙防止対策
・ 受動喫煙の健康への有害性に関する理解を図るための啓発や事業者に対する効果的な支援の実施により、事業者及び事業場の実情に応じた禁煙、空間分煙等の受動喫煙防止対策の普及及び促進を図る。
・ 受動喫煙を受ける蓋然性の高い職務上の作業について、換気や空気清浄機の設置等による有害物質濃度の低減や保護具の着用等による効果を検証し、受動喫煙防止対策の普及及び促進を図る。
エ 電離放射線による健康障害防止対策
・ 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた作業や帰還困難区域等で行われる除染等における作業に従事する労働者に対する安全衛生管理、被ばく線量管理、被ばく低減対策、健康管理等の実施の徹底を図る。
・ 東京電力福島第一原子力発電所での緊急作業に従事した労働者に対して、離職後を含めて長期的に被ばく線量等を追跡できるデータベースを活用し、メンタルヘルスケアを含めた健康相談の実施等の長期的な健康管理対策を着実に実施する。
・ 医療従事者の被ばく線量管理及び被ばく低減対策の取組を推進するとともに、被ばく線量の測定結果の記録等の保存について管理の徹底を図る。
オ 粉じん障害防止対策
・ 粉じんばく露作業に伴う労働者の健康障害を防止するため、粉じん障害防止規則その他関係法令の遵守のみならず、第9次粉じん障害防止総合対策に基づき、粉じんによる健康障害を防止するための自主的取組を推進する。
・ 所属する事業場が転々と変わるトンネル工事に従事する労働者のじん肺関係の健康情報、有害業務従事歴等の一元管理を行う建設業労働災害防止協会に対して支援を実施し、トンネル工事に従事した労働者の健康確保対策の充実を図る。
(6) 企業・業界単位での安全衛生の取組の強化
ア 企業のマネジメントへの安全衛生の取込み
・ 労働災害防止には、企業の経営トップ等の関与が重要であることから、企業のマネジメントの中に安全衛生を位置付けることを推奨していくとともに、労働者の安全衛生に関する経営トップによる取組方針の設定・表明等、積極的な取組を推進する。
イ 労働安全衛生マネジメントシステムの普及と活用
・ 現在、国際標準化機構で制定作業が進められている労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の発効に合わせ、JISを制定する。その際には、ISO45001に盛り込まれていない我が国の産業現場で用いられている安全衛生活動や健康確保のための取組を取り入れることを検討し、その普及及び促進を図る。
・ ISO45001や国際労働機関の労働安全衛生マネジメント指針との整合性や健康確保の取組の方策等も考慮し、労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(平成11年労働省告示第53号)の改正について検討を行い、普及及び促進を図る。
・ 労働安全衛生マネジメントシステムについて、産業安全や化学物質対策への活用に加え、過重労働対策やメンタルヘルス対策等への活用について検討する。
ウ 企業単位での安全衛生管理体制の推進
・ 労働者数の増加に伴い、労働災害の総件数が増加傾向にある小売業、社会福祉施設及び飲食店のうち、多店舗展開で分散している業態の事業場については、個々の店舗や施設において安全衛生に取り組む人員、権限及び予算が限定的であり、本社・本部の労働災害防止対策への参画が求められる。このような業態の事業場について、事業場単位の安全衛生管理に加え、企業単位での安全衛生管理の在り方について、総合的に検討する。(再掲)
エ 企業における健康確保措置の推進
・ 過重労働・メンタルヘルス対策等の労働者の心身の健康確保対策がこれまでになく強く求められている。そのため、法定の健康診断やその結果を踏まえた就業上の措置のみならず、労働者の健康管理に関して、経営トップの取組方針の設定・表明等、企業の積極的な取組を推進する。また、労働者は、自らも健康の保持増進に努める。(再掲)
オ 業界団体内の体制整備の促進
・ 労働災害の防止に向けては、業界団体による自主的な取組が重要であることから、労働災害が減少しない業界や取組が低調な業界団体に対して要請等を行う。
・ 労働災害が増加傾向にある業種等については、労働災害防止団体の活動と連携した業界団体等による自主的な安全衛生活動の促進策を検討するとともに、労働災害防止団体が行う労働災害防止活動に対して、この計画の重点対策を考慮しながら引き続き必要な支援を行う。
・ 第三次産業の業種の業界団体の一部において、会員企業の安全衛生対策を推進するための安全衛生委員会等を設置している場合がある。このため、このような取組を行っていない業界団体に対し、安全衛生委員会等の設置を働きかけるとともに、当該委員会等の活動や必要な人材の育成等について、中央労働災害防止協会と連携して取り組む。(再掲)
カ 元方事業者等による健康確保対策の推進
・ 建設業等における元方事業者等による関係請負業者に対する健康確保対策の推進のため、効果的な取組を検討する。
・ 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた作業において、発注者である東京電力と元方事業者が一体となった安全衛生管理体制の確立、リスクアセスメントの実施、被ばく低減対策を検討した上で工事仕様書に盛り込むこと等による工事の発注段階からの効果的な被ばく低減対策の実施等を推進する。
・ 国土交通省と連携し、荷主事業者に対し、長時間の荷待ち時間の削減や荷役施設・設備の改善、荷役作業の安全担当者の配置等について支援を要請する。(再掲)
キ 業所管官庁との連携の強化
・ 業所管官庁との連携を強化し、安全や健康確保に関する指導の実施や、公共発注への入札要件に安全衛生への取組を盛り込んでもらうこと等の取組を進める。
・ 建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画(平成29年6月9日閣議決定)に基づき、国土交通省と緊密な連携の下に、請負契約における安全衛生経費の適切な積算及び確実な支払いに関する施策の検討・実施、施工段階の安全衛生に配慮した設計の普及、中小建設業者の安全衛生管理能力の向上に向けた支援等の取組を着実かつ計画的に実施する。(再掲)
・ 経済産業省及び中央労働災害防止協会と連携し、主要な製造業の業界団体により構成される製造業安全対策官民協議会における安全対策の検討結果の周知を図り、事業場の自主的な安全確保の促進を図る。(再掲)
・ 林業・木材製造業労働災害防止協会の安全管理士等による指導と併せ、林野庁と連携し、林業普及指導員等による伐木等作業現場での労働災害の防止対策について指導の充実を図る。(再掲)
・ 国土交通省と連携し、荷主事業者に対し、長時間の荷待ち時間の削減や荷役施設・設備の改善、荷役作業の安全担当者の配置等について支援を要請する。(再掲)
・ バス、トラック、タクシー等の事業用自動車を保有する事業場において道路運送法又は貨物自動車運送事業法により選任される運行管理者の講習(2年ごと)に際し、国土交通省と連携して、交通労働災害防止のための教育を推進する。(再掲)
・ 交通労働災害については、死亡災害の過半数が、バス、トラック、タクシー等の事業用自動車を保有する事業場以外の事業場で発生していることを踏まえ、警察庁と連携し、あらゆる業種の業界団体に対し、実効ある交通労働災害防止対策が展開されるよう働きかける。(再掲)
ク 中小規模事業場への支援
・ 中小規模事業場における安全衛生管理体制を整備するとともに、4S(整理・整頓・清掃・清潔)、「危険の見える化」、リスクアセスメント等の安全衛生活動を活性化させるため、安全管理士や衛生管理士による職場改善指導等の労働災害防止団体を通じた支援の充実を図る。
・ 構造規格等の改正時には、経過措置により、既存の機械等への最新基準の適用が猶予されることが多いが、これらの更新を促進するための支援措置等について検討する。(再掲)
ケ 民間検査機関等の活用の促進
・ 社会経済環境が変化し、新たに取り組むべき課題が増加する一方で、国の財政状況は厳しさを増しており、行政には更なる減量、効率化が求められている。このような状況の中で労働災害を効果的に防止していくため、行政の取組について合理的な重点化を図ることとし、都道府県労働局等で実施している特定機械等の許可審査や検査等についてより一層の民間移管を検討する。
・ 民間機関である登録検査機関・登録教習機関等に対する監督や、意図的に違法な行為を行うような悪質な事業者に対する処分や罰則を強化するための方策を検討する。
(7) 安全衛生管理組織の強化及び人材育成の推進
・ 安全衛生専門人材の育成、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント等の事業場外の専門人材の活用を総合的に検討し、安全衛生管理組織の強化を図る。
・ 労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントの能力・質の向上を図るため、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会との連携を強化する。
・ 災害が多発している食料品製造業については、食品加工機械の安全な使用方法等を浸透させるため、関係省庁と連携しつつ、他の製造業と同様に職長に対する教育の実施等を推進する。(再掲)
・ 建設業における職長の再教育を製造業でも実施できるようカリキュラム等の策定を検討する。(再掲)
・ 産業医の質・量の確保、産業医科大学による産業保健分野の人材育成の推進のために必要な方策について検討し、対策を講じる。(再掲)
・ 第三次産業の業種の業界団体の一部において、会員企業の安全衛生対策を推進するための安全衛生委員会等を設置している場合がある。このため、このような取組を行っていない業界団体に対し、安全衛生委員会等の設置を働きかけるとともに、当該委員会等の活動や必要な人材の育成等について、中央労働災害防止協会と連携して取り組む。(再掲)
・ 第三次産業の事業場が実効ある取組を行えるようにするため、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタント等の専門家を活用できるよう支援する。(再掲)
・ 社会福祉施設については、腰痛予防のため、安全衛生教育の徹底だけでなく、介護機器等の導入促進も併せて行う。(再掲)
・ 小売業や飲食店については、他業種に比べ非正規雇用労働者の割合が高く、経験年数3年未満の死傷者の割合が高いことを踏まえ、業界団体と連携しつつ、雇入れ時の安全衛生教育の徹底を図る。(再掲)
・ 陸上貨物運送事業における労働災害の約7割が荷役作業時に発生していることから、荷役作業における安全ガイドラインに基づき、陸上貨物運送事業労働災害防止協会と連携し、保護帽の着用等基本的な安全対策の徹底を図る。また、荷役作業に従事する労働者に対する安全衛生教育の在り方について検討する。(再掲)
・ 治療と仕事の両立支援は、疾病を抱えた労働者本人からの支援の申出を受けた事業者による支援に加え、治療やその間の各種支援を担う医療機関等とも連携をした総合的な支援の仕組みづくりを進める。そのため、労働者に寄り添いながら相談支援を行い、労働者と主治医や企業・産業医とのコミュニケーションのサポートを行う「両立支援コーディネーター」の養成に取り組むとともに、産業保健総合支援センター等に配置すること等により、治療と仕事の両立に係る相談支援体制の充実を図る。(再掲)
・ 事業者による化学物質の管理を実効あるものとするためには、労働者が化学物質の危険性又は有害性等やばく露防止の方法等を正しく理解することが重要である。このため、雇入れ時等の安全衛生教育において、化学物質のラベル表示やSDSによる情報について理解を深められるようにしたり、保護具の正しい着用方法等の具体的な内容を習得できるようにしたりするなど、その充実を検討する。(再掲)
・ 石綿が用いられている建築物の解体工事の増加が見込まれる中、石綿の使用の有無の調査が十分に行われないまま解体工事が施工される事例等が報告されている。このため、石綿に関する届出対象の拡大等により、事業者による石綿の使用の事実の把握漏れの防止を徹底することに加え、石綿の使用の有無の調査を行う者の専門性の確保等の方策について検討する。(再掲)
(8) 国民全体の安全・健康意識の高揚等
ア 高校、大学等と連携した安全衛生教育の実施
・ 職場における安全確保や健康管理の仕組み、メンタルヘルス等に係る基礎知識等について、文部科学省と連携しつつ、学校保健安全法に基づく「学校安全の推進に関する計画」等を活用した学校教育への取込み等を働きかける。
・ 産業機械、産業用ロボット、プラント及びインフラ(土木建築)の設計や施工管理をすることになる大学の理工系学部の学生を対象として、安全衛生施策、安全衛生に関する国際規格・認証、システム安全設計、安全制御、リスク評価等を体系的に教育するカリキュラムを策定し、大学に導入を働きかける。
イ 危険体感教育及び震災に備えた対策の推進
・ 労働者の危険感受性の低下が、労働災害が減少しない原因の一つとなっているとの指摘があることを踏まえ、VR(バーチャル・リアリティ)技術を応用した危険感受性を高めるための教育の推進を図る。
・ 大規模地震等の自然災害が発生した際に、被災建築物等のがれきの撤去作業や被災建築物等の解体工事において石綿ばく露防止が円滑に図られるよう、環境省のマニュアルも踏まえつつ、被災状況に応じた指導・周知等の対応を行うとともに、マスクや手袋等の保護具の円滑な確保等のばく露防止対策の推進を図る。(再掲)
ウ 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を活用した健康促進
・ 身体活動は、抑うつや不安の発生の予防、これらの症状の改善に有用であることが明らかになってきている。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催により、広く国民のスポーツへの関心が高まることを踏まえ、スポーツ庁と連携して、スポーツ基本計画と連動した事業場における労働者の健康保持増進のための指針(昭和63年健康保持増進のための指針公示第1号)の見直しを検討するなど、運動実践を通じた労働者の健康増進を推進する。
エ 技能検定試験の関係団体との連携
・ 職業能力開発促進法に基づく技能検定試験の関係団体と連携して、安全衛生に係る最新のデータや行政動向を技能検定の受検者をはじめとする労働者等に対して提供することにより、安全衛生に関する知見の普及を推進する。
オ 科学的根拠、国際動向を踏まえた施策推進
・ 科学的根拠に基づいた施策を推進するため、独立行政法人労働者健康安全機構と連携し、産業機械や化学物質等の安全衛生に関する研究を推進する。
・ 安全衛生に関する施策は、諸外国の知見や施策の動向を踏まえながら推進する必要があるため、研究等により諸外国の最新の知見、動向を把握するとともに、我が国の現状も十分に踏まえ、施策に活用する。
・ 独立行政法人国際協力機構(JICA)、中央労働災害防止協会等との連携を確保しつつ、安全衛生分野の国際貢献を積極的に推進する。