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山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドラインの策定について
平成28年12月26日基発1226第1号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
改正 平成30年1月18日基発0118第1号
山岳トンネル工事においては、地山を掘削してトンネルを築造するため、掘削面から岩石が落下して労働者に激突する肌落ち災害が見受けられるところである。独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の技術資料によれば、平成12年以降の10年間をみると、肌落ち災害は、被災者の6%が死亡、42%が休業1月以上、66%が休業4日以上であるなど、一旦発生すると重篤な災害となりやすいことが明らかとなっている。
厚生労働省では、肌落ち災害防止対策について上記技術資料を元に検討を行ってきたが、その結果を踏まえ、今般、「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を別添のとおりとりまとめたので、関係事業者にその普及・定着を図り、山岳トンネル工事の切羽における労働災害防止対策の一層の推進を図られたい。
なお、関係団体に対し、本ガイドラインに基づく措置の適切な実施のため、傘下会員に対して周知啓発に努めるよう別紙1により要請するとともに、山岳トンネル工事の主たる発注者等に対し別紙2により、関係省庁あて別紙3により、本ガイドラインに基づく措置が適切に実施されるよう要請しているので了知されたい。
(別添)
山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン
第1 目的
本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と相まって、切羽における肌落ち防止対策を適切に実施することにより、山岳トンネル工事の切羽における労働災害の防止を図ることを目的とする。
第2 適用対象
本ガイドラインは、山岳トンネル工事の切羽における作業に適用する。
第3 用語の定義
本ガイドラインで使用する主要な用語の定義は、労働安全衛生関係法令において規定されているもののほか、次による。
1 切羽
山岳トンネル工事現場におけるトンネルの掘削の最先端をいい、地山が露出している領域全体をいう。
2 肌落ち
トンネルを掘削した面から岩石等が落下することをいう。
3 山岳トンネル工事
掘削から支保工の構築完了までの間、切羽付近の地山が自立することを前提として、発破、機械または人力により掘削し、支保工を構築することにより、内部空間を保ちながらトンネルを建設する工事をいう。
4 地山
掘削対象となる自然地盤及び改良された地盤をいう。
5 地山等級
岩種、割目の状態、地山の弾性波速度等を因子として決定される地山の分類をいう。
なお、発注者が鉄道事業者の場合、鉄道トンネルではI~Vの地山等級が用いられ、この数字が大きいほど自立性の高い安定した地山であることを示す。また、発注者が道路事業者の場合、道路トンネルではB~Eの地山等級が用いられ、Bに近い等級であるほど自立性の高い安定した地山であることを示す。
6 鏡
切羽において、掘削の進行方向に対して垂直である面をいう。
7 浮石
切羽において、地山から剥離した岩石をいう。
8 吹付け
切羽に対し、コンクリートを吹き付けることをいう。また、吹付け専用に配合されたコンクリートを吹付けコンクリートという。
9 装薬
穿せん孔した孔に火薬、電気雷管等を設置する作業をいう。
10 鋼製支保工
アーチ形状等をした鋼材で、トンネルを支える骨格となるものをいう。
11 ロックボルト
トンネル掘削面から地山内部に放射状に穿せん孔された孔に挿入された鋼棒をいう。吹付けコンクリートと一体となってトンネルを支える。
12 発破
装薬した火薬を爆発させ、地山を破砕することをいう。
13 切羽監視責任者
事業者の選任を受け、切羽の状態を監視し、退避の要否について判断し、労働災害の急迫した危険があるときは直ちに作業を中止させ、労働者を安全な場所に退避させる者。
第4 事業者等の責務
山岳トンネル工事を行う事業者は、労働安全衛生関係法令を遵守するとともに、本ガイドラインに基づき切羽における肌落ち災害防止対策を講ずることにより、山岳トンネル工事の切羽における労働災害の防止に努めるものとする。
山岳トンネル工事に従事する労働者は、労働安全衛生関係法令に定める労働者が守るべき事項を遵守するとともに、事業者が本ガイドラインに基づいて行う措置に協力することにより、山岳トンネル工事の切羽における労働災害の防止に努めるものとする。
第5 事業者が講ずることが望ましい事項
1 切羽の立入禁止措置
事業者は、肌落ちによる労働災害を防止するため、切羽への労働者の立入りを原則として禁止し、真に必要がある場合のみ立ち入らせるようにすること。また、この措置を実効性のあるものとするため、切羽における作業はできる限り機械等で行うようにし、既に一般化している浮石落しの機械化や機械掘削の採用にとどまらず、例えば、装薬作業の遠隔化、支保工建込み作業等の完全な機械化等を積極的に進めること。
2 肌落ち防止計画の作成
事業者は、山岳トンネル工事を行う場合は、(1)により事前調査を行うとともに、(2)及び(3)により切羽における肌落ち防止計画等を作成し、関係労働者に周知すること。なお、膨張性地山においては、切羽押し出しがあることを踏まえ防止計画を作成する必要があること。
(1) 地山の事前調査
山岳トンネルの掘削を行う作業箇所やその周辺の地山等に関する次の事項について、地表面の現地踏査、ボーリング、弾性波探査等の方法により調査を行い、これらの状態を把握すること。
ア 岩種
イ 地山の状態(岩質、水による影響、不連続面の間隔等)
ウ ボーリングコアの状態
エ 弾性波速度
オ 地山強度比
カ 可燃性ガス、有害ガス等の有無及び状態
(2) 肌落ち防止計画
以下の事項を含む肌落ち防止計画を作成すること。
ア 肌落ち防止対策
(1)の地山の事前調査結果に適応した肌落ち防止対策(第6及び第7)を参考にすること。
イ 切羽の監視
切羽監視責任者による監視項目、監視方法等。なお、監視項目は肌落ちの予兆を感知できるような項目を定めるものとするが、少なくとも次の事項を含むこと。
(ア) 切羽の変状
(イ) 割目の発生の有無
(ウ) 湧水の有無
(エ) 岩盤の劣化の状態
また、監視方法については、切羽で作業が行われる間、切羽を常時監視することを含むこと。
ウ 切羽からの退避
肌落ちにより被災するおそれのある場合に直ちに労働者を切羽から退避させるための退避方法、切羽監視責任者による退避指示の方法等
エ その他
地山の状況に応じ、追加の肌落ち防止対策を検討すること。
(3) 作業手順書
肌落ち防止計画に基づいた作業の手順を明らかにした作業手順書を作成すること。
3 肌落ち防止計画の実施及び変更
事業者は、2で作成した肌落ち防止計画に基づき、一連の作業を適切に実施すること。
また、同計画の適否を確認し、必要であれば同計画を変更するため、次の事項を実施すること。
(1) 切羽の調査
ア 切羽の観察
掘削を行う作業箇所等における次の事項について、装薬時、吹付け時、支保工建込み時、交代時に切羽の観察を行い、過去の切羽の観察結果の推移との比較を行うほか、必要に応じて先進ボーリング等の方法により調査を行うことにより適切に把握すること。
(ア) 圧縮強度及び風化変質
(イ) 割目間隔及び割目状態
(ウ) 走向・傾斜
(エ) 湧水量
(オ) 岩盤の劣化の状態
イ 切羽の観察結果の記録
アの切羽の観察結果を記録し、切羽評価点を算定し、地山等級を査定し、適切な支保パターンを選定すること。
ウ 計画の適否の確認
ア及びイの切羽の調査結果及び地山等級の査定結果から得られる地山等級と設計時の地山等級及び支保パターンを比較し、同計画の適否を確認すること。なお、地山等級が高い場合であっても、切羽に脆弱な部分が生じているおそれがあるので、留意すること。
(2) 計画の変更
(1)の切羽の調査結果及び地山等級の査定結果、その他の情報から、作成した肌落ち防止計画によって十分な肌落ち対策ができないおそれがあると認められる場合には、事業者は、発注者及び設計者と十分検討を行い、肌落ち防止計画を適切なものに変更すること。また、変更した肌落ち防止計画は関係労働者に確実に周知すること。
4 切羽監視責任者の選任等
(1) 切羽監視責任者の選任
事業者は掘削現場に属する労働者の中から切羽監視責任者を選任し、切羽で作業が行われる間、切羽の状態を常時監視させること。このとき、切羽監視責任者は、原則として専任とするが、トンネルの標準掘削全断面積が概ね50m2未満であって、切羽監視責任者と車両系建設機械との接触防止等の安全確保措置の実施が困難な場合には、ずい道等掘削作業主任者等が切羽監視責任者を兼任して差し使えないこと。なお、発破の点火やズリ出し等切羽に労働者が接近しない作業工程においては、切羽監視責任者による常時監視は要しないこと。
また、事業者は、選任した切羽監視責任者を関係労働者に周知すること。なお、切羽監視責任者は労働安全衛生規則第382条に定める点検者と同じ者を選任することを妨げないこと。
山岳トンネル工事が交代制により行われる場合には、交代番ごとに切羽監視責任者を選任する等により、切羽の状態が継続的に監視されるようにすること。
(2) 切羽監視責任者の職務
切羽監視責任者は、切羽で作業が行われる間、2の肌落ち防止計画においてあらかじめ定められた方法により切羽の状態を常時監視すること。
監視の結果、肌落ちにより被災するおそれがあると判断される場合には、切羽監視責任者は直ちに切羽から労働者を退避させること。
5 掘削時の留意事項
地山を掘削した場合、掘削された面の力が解放され、また、掘削面周辺の地山に作用している力が再配分されることから、地山が不安定化することがある。このため、掘削断面積を減少させ、力が解放される領域をできる限り少なくさせることが重要であり、以下の方法を検討することが望ましいこと。
(1) ベンチカット工法
地山の掘削を行う際は、掘削断面積をなるべく小さくすることが重要である。このため、60m2以上の断面積を有するトンネルの掘削においては、トンネルを上段と下段とに分け、上段を先行して掘削することにより、1回あたりの掘削断面積を小さくするベンチカット工法の採用を検討すること。また、その際にはトンネルの断面積、地山の状態等を踏まえ、適切なベンチカットの方法を検討すること。
なお、迅速に地山の安定を図る必要がある場合には、早期にトンネル内空を閉合するため、全断面工法、補助ベンチ付き全断面工法等の採用についても検討すること。
(2) 核残し
核残しは、鏡の中央から下方向にかけての地山を残し、周辺部分の掘削を先行させる方法であるが、切羽の崩壊が発生した場合に、崩落する岩塊の体積を減少させることができ、また、残した核の部分が鏡を抑える効果を有するので、地山の状態が悪い場合はその実施を検討すること。
第6 具体的な肌落ち防止対策
1 肌落ち防止対策の種類
肌落ち防止対策は、切羽での肌落ちのリスクを低減させるためのものであるところ、様々な対策が存在し、現在も新たな対策の考案、既存の対策の改良が行われているが、現時点で比較的多く採用されており、肌落ち防止対策として有効であると考えられる対策を具体的に挙げると、次のとおりである。
(1) 鏡吹付け
鏡吹付けは、鏡に対し吹付けコンクリートを吹き付けることである。掘削により露出した地山を早期に吹付けコンクリートで覆うことにより、トンネル横断方向だけでなく、縦断方向の緩みも抑えることができる。
また、鏡吹付けにより、鏡がコンクリートで覆われるため、切羽の変形に伴い新たに発生した亀裂や切羽の変状が視認しやすくなる。
さらには、地山を坑内の空気又は水分に触れさせることを防ぐことができるため、膨張性地山に対しても有効である。
なお、肌落ちは鏡のみならず切羽全体で発生するものであり、鏡吹付けを行う場合は、アーチ側壁部に対しても併せて行うことが必要である。
(2) 鏡ボルト
鏡ボルトは、鏡にボルトを打設し、鏡の安定性を高めるものである。
(3) 浮石落し
浮石落しは、比較的小さな岩石を予め落とす作業である。これにより、引き続き実施される作業における肌落ちによる労働災害を防止することを目的とする。
(4) 水抜き・さぐり穿せん孔
地山前方に地下水脈又は帯水層がある場合は、切羽に係る圧力を低下させて地山の崩壊のおそれを低減させるとともに、切羽への水の浸透を防止することで吹付けコンクリートが十分付着するようにするため、地下水を減少させることが必要である。
水抜き・さぐり穿せん孔は、地山の中から水を導き、水が切羽に浸透する前に、穿せん孔した孔に水を導くものである。
(5) 切羽変位計測
切羽変位計測とは、補助的な肌落ち防止対策であり、鏡の変位を計測機器により測定することである。目視では確認できない微小な変位を捉えることで、切羽監視責任者による監視を補助することができる。
切羽変位計測の結果、一定以上の加速度、変位速度等になると警報を鳴らすといった肌落ち防止対策も可能になる。
(6) 設備的防護対策
設備的防護対策とは、補助的な肌落ち防止対策であり、切羽で作業する労働者の上部に器具を設置して、人体を守るものである。設置する器具としては、ネット、マット、マンケージガード等がある。ネットは、労働者の上部にネットを設置し、労働者の上部からの落石をネットで受けようとするものである。マットは、労働者の上部にマットを設置し、落石の衝撃をマットで吸収しようというものである。マンケージガードは、マンケージの前面及び天井部に柵を設置し、マンケージに搭乗した労働者を肌落ちから防護するものである。また、マンケージ下部に柵を設置し、マンケージの下部で作業中の労働者を肌落ちから防護する器具もある。
(7) フォアポーリング
フォアポーリングとは、切羽前方に概ね5メートル以下のボルト又はパイプを打設することにより切羽前方の天端補強を行う補助工法である。中空のものを使用して、薬液又は充填剤を注入することで安定度を高めることがある。
(8) 長尺フォアパイリング
長尺フォアパイリングとは、切羽前方に概ね5メートル以上の鋼管等を打設することにより切羽前方の天端補強を行う補助工法である。安定度を高めるため、薬液又は充填剤を注入する。
(9) その他の工法
トンネルを掘削する経路上に遮水層、帯水層等が存在する場合は、水抜きボーリング、薬液注入工法(地上からの注入を含む。)等の実施を検討すること。
2 肌落ち防止対策の選定
肌落ち防止対策の選定に当たっては、次の条件等を勘案し、下表を参考に選定すること。なお、肌落ちによって落下する岩石の大きさ等によっては単一の肌落ち防止対策では十分でない場合があるため、必要に応じ複数の肌落ち防止対策を組み合わせることを検討すべきであること。
(1) 地山等級等による肌落ち防止対策の適否
岩種、地山の状態、ボーリングコアの状態、弾性波速度、地山強度比等
(2) 湧水対策としての効果
(3) 施工性(施工の容易さ)
(4) その他
切羽の変状観察を行う場合における相性、対策の人体防護性の高さ
表 肌落ち防止対策の選定
肌落ち防止対策 |
地山等級等による肌落ち防止対策の適否 |
湧水対策としての効果 |
施工性(施工の容易さ) |
その他 |
||||
Ⅳ、B |
Ⅲ、C |
Ⅱ、D |
Ⅰ、E |
変状観察を行う場合の相性 |
人体防護性の高さ |
|||
鏡吹付け |
△ |
○ |
◎ |
◎ |
○* |
◎ |
◎ |
△ |
鏡ボルト |
△ |
△ |
○ |
◎ |
○ |
△ |
× |
△ |
浮石落し |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
◎ |
◎ |
△ |
△ |
水抜き・さぐり穿孔 |
○ |
○ |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
× |
× |
切羽変位計測 |
× |
△ |
◎ |
◎ |
× |
○ |
◎ |
× |
設備的防護対策 |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
△ |
○ |
注:◎:最良、○:良、△:可能、×:不適
○*:水抜き対策を併用することで良。
第7 肌落ち防止対策の実施に係る留意事項
事業者は、肌落ち防止対策に係る作業を行うときは、第5の2の(2)により作成した肌落ち防止計画に基づくとともに、以下に留意すること。
1 切羽における作業
事業者は、切羽において作業を行うときは、次の事項に留意すること。
(1) 保護具の着用
作業に従事する労働者に保護帽、保護具(バックプロテクター等)、安全靴(長靴)、必要に応じて電動ファン付き呼吸用保護具等を着用させること。
(2) 照明
作業を行う場所について、照明施設を設置する等により必要な照度を保持すること。切羽における作業では、150ルクス以上が望まれること。
2 肌落ち防止対策
事業者は、肌落ち災害防止対策を実施するときは、次の事項に留意すること。
(1) 鏡吹付け
鏡吹付けの施工に当たっては、地山の状態に応じて、適切な吹付け厚さを確保する必要がある。例えば、地山等級III又はCクラスでは30mm、地山等級II又はDクラス以下では50mmの鏡吹付け厚さを最低限確保する必要があること。なお、鏡吹付けにより、肌落ちを完全には防止できないため、併せて、事前に浮石落しを実施するとともに、切羽変位計測等、その他の肌落ち防止対策についても検討すること。また、湧水がある場合、水抜き・さぐり穿せん孔又は水抜きボーリング等を実施し、事前に切羽から水分をできる限り除去し、吹付けコンクリートを地山に十分に付着させる必要があること。
(2) 鏡ボルト
鏡ボルトの施工にあたっては、自立の困難な切羽における作業となることが多いため、鏡吹付けとの併用が望ましいこと。
鏡吹付けと併用した場合、鏡ボルトの打設中、吹付けコンクリートのひび割れの発生及び進行に十分注意すること。
なお、地山等級Ⅲ又はCクラスでは、鏡ボルトの打設間隔は1.8メートル程度、地山等級Ⅱ又はDクラスでは1.5メートル程度、地山等級Ⅰ又はEクラスでは1.2メートル程度とすることを基本とし、地山の状況に応じて検討すること。
また、地山の層が切羽の鏡に平行となっている場合には、鏡の大部分が崩壊する大規模な肌落ちが発生するおそれがあり、これを防止するには鏡ボルトが有効な手法と考えられることから、地山の状態を踏まえ、積極的に検討すべきものであること。
(3) 浮石落し
浮石落しが不十分であった場合、肌落ちに直結するため、十分に浮石落しを行う必要があること。
ただし、浮石落しに多くの時間がかかると、掘削した地山を長時間大気に開放することとなり、地山の状態に変化が生じることも考えられる。これが肌落ちにつながるおそれがあるため、浮石落しの作業時間をあらかじめ定め、終了後直ちに当たり取り(支保工や覆工の施工に支障を生じる最小巻厚内に残留した地山を取り除く作業)、鏡吹付け等を実施すること。
また、浮石落しは、原則としてブレーカー等の建設機械を用いて行うこと。
(4) 水抜き・さぐり穿せん孔
水抜き・さぐり穿せん孔は、基本的に1本とすることが多いが、地山の状態や湧水量によっては2本、3本と増やすこと。また、穿せん孔場所についても、地下水脈又は帯水層に穿せん孔した孔を到達させるよう必要に応じ変更すること。
以上の対策によっても湧水量が多い場合は、水抜きボーリングを行うこと。
なお、水抜き・さぐり穿せん孔を行う場合は、周辺地盤の地下水位の低下を招くため、薬液注入工法などによりトンネル前方の地山の亀裂を薬液により固めるなど、その他の補助工法を取り入れることも検討する必要があること。
(5) 切羽変位計測
切羽変位計測は、切羽監視責任者の切羽監視を補助するものであり、自動追尾ノンプリズムトータルステーション、レーザー変位計、レーザー距離計等による計測方法があること。切羽変位計測の計測点が必ずしも不安定岩石を捕捉しているとはかぎらないため、鏡吹付けと併用することが望ましいこと。鏡吹付けを実施していれば、不安定岩石が前面に押し出してきたとき鏡吹付けコンクリートを面で押し出すため、その周辺を計測することにより不安定岩石の変位を計測することが可能であると考えられること。
(6) 設備的防護対策
設備的防護対策であるネット、マット、マンケージガード等は、切羽において装薬中の労働者を肌落ちから防護するため、労働者の上部に設置すること。
ネット、マットは、ドリルジャンボのアームを利用して設置するため、ドリルジャンボの大きさを踏まえると、トンネル内空の断面積が10m2以上での適用に限られること。
各種の防護設備については、施工上の制約が生ずる場合があることから、掘削断面、作業の種類、作業方法等に応じ、適切な防護設備を選定すること。
また、防護設備の防護性能を超える肌落ちが発生することも予想されるので、それぞれの装置の防護性能を表示するとともに、防護性能に限界があることに留意すること。
(参考文献)
・ 独立行政法人労働安全衛生総合研究所技術資料JNIOSH―TD―No.2(2012)(技術的事項関係)
・ 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構:山岳トンネル設計施工標準・同解説(鉄道トンネルの地山等級関係)
・ 東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社:設計要領 第三集トンネル編(道路トンネルの地山等級関係)
(別紙1)
○山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドラインの策定について
平成28年12月26日基発1226第2号
(建設業労働災害防止協会会長・一般社団法人建設産業専門団体連合会会長・建設労務安全研究会理事長・一般社団法人全国建設業協会会長・一般社団法人日本建設業連合会会長・一般社団法人全国中小建設業協会会長・一般社団法人日本トンネル技術協会会長・一般社団法人日本トンネル専門工事業協会会長あて厚生労働省労働基準局長通知)
山岳トンネル工事においては、地山を掘削してトンネルを築造するため、掘削面から岩石が落下して労働者に激突する肌落ち災害が見受けられるところです。独立行政法人労働者健康安全機構安全衛生総合研究所の技術資料によれば、平成12年以降の10年間をみると、肌落ち災害は、被災者の6%が死亡、42%が休業1月以上、66%が休業4日以上であるなど、一旦発生すると重篤な災害となりやすいことが明らかとなっています。
厚生労働省では、肌落ち災害防止対策について上記技術資料を元に検討を行ってきましたが、その結果を踏まえ、今般、「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を別添のとおりとりまとめたので、傘下会員に対して周知啓発いただきますようお願いいたします。
(別紙2)
○山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドラインの策定について
平成28年12月26日基発1226第3号
(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事長、独立行政法人水資源機構理事長、東日本・中日本・西日本各高速道路株式会社社長、首都高速道路株式会社社長、阪神高速道路株式会社社長、北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州各旅客鉄道株式会社社長、一般社団法人日本地下鉄協会会長、一般社団法人日本民営鉄道協会会長、電気事業連合会会長あて厚生労働省労働基準局長通知)
山岳トンネル工事においては、地山を掘削してトンネルを築造するため、掘削面から岩石が落下して労働者に激突する肌落ち災害が見受けられるところです。独立行政法人労働者健康安全機構安全衛生総合研究所の技術資料によれば、平成12年以降の10年間をみると、肌落ち災害は被災者の6%が死亡、42%が休業1月以上、66%が休業4日以上であるなど、一旦発生すると重篤な災害となりやすいことが明らかとなっています。
厚生労働省では、肌落ち災害防止対策について上記技術資料を元に検討を行ってきましたが、その結果を踏まえ、今般、「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を別添のとおりとりまとめたので、了知の上、貴法人(の傘下会員)*が発注する工事において、本ガイドラインに基づく肌落ち災害防止対策が徹底されるよう、特段のご配慮をお願いいたします。
*一般社団法人日本地下鉄協会、一般社団法人民鉄協会、電気事業連合会については、括弧内の表現を追記する。
(別紙3)
○山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドラインの策定について
平成28年12月26日基発1226第4号
(国土交通省大臣官房技術審議官・農林水産省農村振興局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
山岳トンネル工事においては、地山を掘削してトンネルを築造するため、掘削面から岩石が落下して労働者に激突する肌落ち災害が見受けられるところです。独立行政法人労働者健康安全機構安全衛生総合研究所の技術資料によれば、平成12年以降の10年間をみると、肌落ちによる災害は被災者の6%が死亡、42%が休業1月以上、66%が休業4日以上であるなど、一旦発生すると重篤な災害となりやすいことが明らかとなっています。
厚生労働省では、肌落ち災害防止対策について上記技術資料を元に検討を行ってきましたが、その結果を踏まえ、今般、「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を別添のとおりとりまとめたので、貴省が発注する工事において、本ガイドラインに基づく肌落ち災害防止対策が徹底されるよう、特段のご配慮をお願いいたします。