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事業場における発がん性のおそれのある化学物質に係る健康障害防止対策の徹底について
平成28年6月20日基安発0620第3号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)
福井県の事業場において、オルト―トルイジン等の化学物質を取り扱う作業に従事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案が発生し、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所が災害調査を行ったところである。
この調査結果によると、オルト―トルイジンを取り扱う作業に従事していた労働者について、オルト―トルイジンに汚染された保護手袋の使用などにより、長期間にわたり経皮ばく露(皮膚から体内に吸収されること)があったことが示唆されたところである。
このため、発がん性のおそれがある化学物質については、経気道ばく露(呼吸により体内に吸収されること)だけでなく、経皮ばく露、経口ばく露(口から体内に入ること)による健康影響のおそれについても留意する必要があり、広く周知する観点から関係団体に対し別紙のとおり、事業場における発がん性のおそれのある化学物質に係る健康障害防止対策の徹底について要請しているので、了知されたい。
(別紙)
○事業場における発がん性のおそれのある化学物質に係る健康障害防止対策の徹底について(要請)
平成28年6月20日基安発0620第2号
(一般社団法人日本化学工業協会会長・化成品工業協会会長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)
日頃から労働安全衛生対策の推進に格段の御協力を賜り厚くお礼申し上げます。
さて、福井県の事業場において、オルト―トルイジン等の化学物質を取り扱う作業に従事していた複数名の労働者が膀胱がんを発症した事案が発生し、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所が災害調査を行ったところです。
この調査結果によると、オルト―トルイジンを取り扱う作業に従事していた労働者について、オルト―トルイジンに汚染された保護手袋を使用するなどにより、長期間にわたり経皮ばく露(皮膚から体内に吸収されること)があったことが示唆されたところです。
このため、発がん性のおそれがある化学物質については、経気道ばく露(呼吸により体内に吸収されること)だけでなく、経皮ばく露、経口ばく露(口から体内に入ること)による健康影響のおそれについても留意する必要があり、広く周知する観点から下記事項の徹底を図ることといたしました。
つきましては、貴団体におかれましては、この趣旨を御理解いただくとともに、傘下会員事業者等に対する周知等、本対策の推進に御協力を賜りますようよろしくお願いいたします。
記
1 経皮ばく露等を確認すべき化学物質の特定
事業者は、事業場において製造し、又は取り扱う化学物質について、SDS(安全データシート)により物質ごとに危険有害性情報、ばく露防止及び保護措置等について確認し、経皮ばく露等による健康障害のおそれがあるものを把握すること。
なお、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が発がん性についてグループ1(ヒトに対して発がん性がある)、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)又はグループ2B(ヒトに対して発がん性が疑われる)のいずれかに分類している化学物質のうち、日本産業衛生学会又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が経皮吸収による健康影響があるとしているものについては、別紙のものがあるので、特段の注意を払うこと。
また、別紙の化学物質を含め、経皮ばく露による発がんのおそれがある化学物質を取り扱っている場合であって、SDSを入手していない又はSDSに記載されている情報が古い場合には、新しい情報を記載したSDSを当該化学物質の提供者から入手すること。
2 ばく露防止対策を含めた作業方法等の点検
事業者は、別紙の化学物質を含め、経皮ばく露による発がんのおそれがある化学物質を事業場において製造し、又は取り扱っていることを確認した場合には、事業場における作業方法、作業環境、作業主任者又は作業指揮者による作業管理状況、保護具の使用保管状況等を点検し、当該物質による経皮ばく露のおそれがないか確認すること。
なお、福井県の事業場に対する災害調査では、オルト―トルイジンを原料とした製品粉体のばく露により生体へ取り込み、汗や胃液などで製品からオルト―トルイジンが発生する可能性があるとされていることから、発がん性物質を原料として合成した化学物質についてもばく露防止対策を含めた作業方法等の点検を行うこと。
点検の結果、当該物質のばく露のおそれがある場合には、当該物質のSDSに記載されているばく露防止措置及び保護措置等を早急に講ずること。
3 保護具の使用及び管理
呼吸用保護具、保護眼鏡、化学防護服、保護手袋等の保護具は、化学物質等の性状、化学物質等を製造又は取り扱う作業等に応じた適切なものを選定すること。
なお、これらの保護具に係る規格として、JIST8150(呼吸用保護具)、JIST8115(化学防護服)、JIST8116(化学防護手袋)、JIST8117(化学防護長靴)、JIST8147(保護めがね)等があること。
また、破損等がなく、また使用期限を超過していない適切な保護具の使用を徹底するため、使用前の保護具の点検及び日常の保守管理を適切に実施すること。
なお、防じんマスク及び防毒マスクについては、「防じんマスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日付け基発0207006号)、「防毒マスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日付け基発0207007号)に基づき、使用及び管理を行うこと。
さらに、適切な保護具の使用等を徹底するため、労働安全衛生規則(以下「規則」という。)第35条に基づく雇入れ時等の教育はもとより、あらゆる機会を捉えた労働者に対する教育の実施及び労働者の保護具の使用状況の確認を行うこと。
4 健康管理
事業者は、別紙の化学物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者については、規則第44条又は第45条に基づく定期健康診断における「既往歴及び業務歴の調査」や「自覚症状及び他覚症状の有無の調査」などを通じた健康管理を的確に行うこと。
具体的には、別紙の化学物質の製造・取扱い作業への従事歴の有無等を確認し、従事歴がある場合には、当該化学物質のSDSに記載されている健康影響が生じているか否かを、既往歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無の検査により確認するとともに、これらの健康診断項目において異常所見が認められた場合には、精密検査の受診勧奨を行う等の措置を講じること。
別紙
発がん性のおそれのある化学物質のうち経皮吸収による健康影響があるもの
1 国際がん研究機関(IARC)グループ1(ヒトに対して発がん性がある)
CAS番号 |
化学物質名称 |
労働安全衛生法による規制注1) |
58―89―9 |
1,2,3,4,5,6―ヘキサクロロシクロヘキサン(別名リンデン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
71―43―2 |
ベンゼン |
特化則(特定第2類物質) |
92―67―1 |
4―アミノジフェニル |
製造禁止 |
92―87―5 |
ベンジジン |
製造禁止 |
95―53―4 |
オルト―トルイジン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
101―14―4 |
3,3'―ジクロロ―4,4'―ジアミノジフェニルメタン |
特化則(特定第2類物質) |
7440―41―7 |
ベリリウム及びその化合物 |
製造許可 |
57465―28―8ほか |
塩素化ビフェニル(別名PCB) |
製造許可 |
2 グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)
CAS番号 |
化学物質名称 |
労働安全衛生法による規制注1) |
62―75―9 |
N,N―ジメチルニトロソアミン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
68―12―2 |
N,N―ジメチルホルムアミド(別名DMF) |
有機則(第2種有機溶剤)・がん指針対象 |
75―09―2 |
ジクロロメタン(別名二塩化メチレン) |
特化則(特別有機溶剤) |
77―78―1 |
硫酸ジメチル |
特化則(特定第2類物質) |
79―06―1 |
アクリルアミド |
特化則(特定第2類物質) |
79―44―7 |
ジメチルカルバモイル=クロリド |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
88―72―2 |
2―ニトロトルエン(別名オルト―ニトロトルエン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
96―18―4 |
1,2,3―トリクロロプロパン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
98―07―7 |
ベンゾトリクロリド |
製造許可 |
106―89―8 |
エピクロロヒドリン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
106―93―4 |
1,2―ジブロモエタン(別名EDB) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
121―75―5 |
ジチオりん酸O,O―ジメチル―S―1,2―ビス(エトキシカルボニル)エチル(別名マラチオン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
127―18―4 |
テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン) |
特化則(特別有機溶剤) |
302―01―2 |
ヒドラジン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント・がん指針対象 |
333―41―5 |
チオりん酸O,O―ジエチル―O―(2―イソプロピル―6―メチル―4―ピリミジニル)(別名ダイアジノン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
2425―06―1 |
N―(1,1,2,2―テトラクロロエチルチオ)―1,2,3,6―テトラヒドロフタルイミド(別名キャプタフォル) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
3 グループ2B(ヒトに対して発がん性が疑われる)
CAS番号 |
化学物質名称 |
労働安全衛生法による規制注1) |
56―23―5 |
四塩化炭素 |
特化則(特別有機溶剤) |
56―38―2 |
ジエチル―パラ―ニトロフェニルチオホスフェイト(別名パラチオン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
57―14―7 |
1,1―ジメチルヒドラジン |
特化則(特定第2類物質) |
57―74―9 |
1,2,4,5,6,7,8,8―オクタクロロ―2,3,3a,4,7,7a―ヘキサヒドロ―4,7―メタノ―1H―インデン(別名クロルデン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
62―73―7 |
ジメチル―2,2―ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP、ジクロルボス) |
特化則(特定第2類物質) |
67―66―3 |
クロロホルム |
特化則(特別有機溶剤) |
67―72―1 |
ヘキサクロロエタン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
75―55―8 |
プロピレンイミン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
76―44―8 |
1,4,5,6,7,8,8―ヘプタクロロ―3a,4,7,7a―テトラヒドロ―4,7―メタノ―1H―インデン(別名ヘプタクロル) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
79―34―5 |
1,1,2,2―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン) |
特化則(特別有機溶剤) |
79―43―6 |
ジクロロ酢酸 |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント注2) |
90―04―0 |
オルト―アニシジン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
91―20―3 |
ナフタレン |
特化則(特定第2類物質) |
91―94―1 |
3,3'―ジクロロベンジジン |
製造許可 |
94―75―7 |
2,4―ジクロロフェノキシ酢酸 |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
98―95―3 |
ニトロベンゼン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
100―42―5 |
スチレン |
特化則(特別有機溶剤) |
101―77―9 |
4,4'―メチレンジアニリン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
106―87―6 |
4―ビニルシクロヘキセンジオキシド |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
107―13―1 |
アクリロニトリル |
特化則(特定第2類物質) |
111―42―2 |
ジエタノールアミン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
118―74―1 |
ヘキサクロロベンゼン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
119―93―7 |
オルト―トリジン(別名3,3'―ジメチルベンジジン) |
製造許可 |
120―80―9 |
カテコール |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
122―60―1 |
2,3―エポキシプロピル=フェニルエーテル(別名フェニルグリシジルエーテル) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
123―91―1 |
1,4―ジオキサン |
特化則(特別有機溶剤) |
126―99―8 |
2―クロロ―1,3―ブタジエン(別名クロロプレン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
151―56―4 |
エチレンイミン(別名アジリジン) |
特化則(特定第2類物質) |
542―75―6 |
1,3―ジクロロプロペン |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
680―31―9 |
ヘキサメチルホスホリックトリアミド |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
8001―35―2 |
塩素化カンフェン(別名トキサフェン) |
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント |
注1)
製造禁止:労働安全衛生法第55条に基づく製造等禁止物質
製造許可:労働安全衛生法第56条に基づく製造許可物質
特化則:特定化学物質障害予防規則で製造・取扱い等が規制されている物質
名称等の表示・SDSによるリスクアセスメント:労働安全衛生法第57条、第57条の2及び第57条の3に基づく容器包装等への表示、SDSの通知及びリスクアセスメントの実施が義務づけられている物質
がん指針対象:労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針の対象物質
注2) 平成29年3月1日施行