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通達:塩酸等貯蔵タンクの保守点検・改修工事における労働災害防止対策の徹底について

 

塩酸等貯蔵タンクの保守点検・改修工事における労働災害防止対策の徹底について

平成24年1月11日基安発0111第2号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)

 

特定化学物質の製造・取扱い事業場における労働災害の防止については、従前からその徹底を図ってきたところであるが、昨年8月24日、塩酸貯蔵タンクの移設作業中に別の塩酸貯蔵タンク内に労働者2名が転落し死亡するという災害(別添1参照)が発生したことは、誠に遺憾である。

特定化学物質である塩酸を製造し、又は取り扱う設備であって移動式以外の物は特定化学設備に該当するが、特定化学設備の改造、修理等の作業は、小規模であるもの等一部の場合を除き、当該特定化学設備を所有等し、その管理権限を有する事業者が他の事業者に発注して行われることが多く、本件災害もこれに当たるものである。

本件災害原因等の詳細については現在調査中であるが、過去にも同種の災害が発生しているところである(別添2)。

このため、今般、発注者である特定化学設備を所有等し、その管理権限を有する事業者及び改造、修理等の作業を受注して実際に当該作業を管理監督する事業者それぞれが果たすべき役割等について下記のとおりとりまとめたので、管内関係事業者団体に周知するとともに、塩酸等貯蔵タンクを有する事業場へ安全衛生指導等を行う機会をとらえて必要な指導を行うことにより、同種災害の再発防止に努められたい。

なお、関係事業者団体の長に対して、別添3のとおり傘下会員事業者への周知を要請しているので了知されたい。

 

1 塩酸等金属腐食性の液体の貯蔵に主に使われている強化プラスチック(FRP)製のタンクは耐腐食性に優れているものの、長期にわたり塩化水素等の腐食性のガスにさらされること及び屋外におかれている場合には紫外線にさらされること等から、経年劣化によりプラスチックとガラス繊維の剥離等により強度が低下することについて、当該タンクの管理権限を有する事業者が十分に認識し、タンクのメーカーから適正な検査方法についての必要な情報を入手するなどして、必要な点検、作業者への教育、請負人への情報提供等の実施を徹底すること。

2 経年劣化によりFRPの強度が低下することから、元方事業者及び請負人は、労働者等がFRP製タンクの天板等に乗ることのないよう、高所作業においては、適切な足場(作業床)を設置しなければ作業を行ってはならないことを徹底すること。

3 設備の保守点検・改修作業等を発注する者(以下「発注者」という。)は、作業に伴う危険性に係る情報をあらかじめ元方事業者に提供するとともに、当該危険性を踏まえた適切な作業が行われるよう指導すること。

4 発注者は、元方事業者が統括管理体制を確立し、各請負人の作業分担を明確化するよう指導すること。特に、各請負人が行う作業間の連絡調整等必要な措置を確実に実施させ、それぞれの作業で有害物による危険が生じない措置を元方事業者に講じさせること。

5 塩酸等を貯蔵する特定化学設備を所有等し、その管理権限を有する事業者は、法定の定期自主検査を確実に実施するとともに、定期に点検を行うことにより、設備の経年劣化を早期に発見するよう努めること。

6 作業中に予定されていない作業の必要が認められた際に、当該作業を行う請負人の判断に任せることなく、元方事業者との間において作業方法の検討を行う等の対応を予め取り決めておくこと。

7 関係事業者は災害発生時等異常な事態が発生した場合の救護体制の確立、訓練を行うこと。特に、二次災害の防止の観点を含め教育・指導を行うこと。

以上

 

(別添1)

災害の概要

1 発生日時 平成23年8月24日(水)午前9時30分頃

2 発生場所 千葉県船橋市

3 被災状況 死亡2名

4 発生状況の概要

災害発生事業場では、鋼板の錆を落とすための洗浄液として使用する塩酸の貯蔵タンクを屋外に設置しており、そのうちの2基のタンク(地上5mの架空タンク、横置型)を地上に移設する工事を行っていた。当該工事において、2基のタンクと別の塩酸タンクX(縦置型。高さ約3.4m、直径2.0m。FRP製)とを接続する配管を撤去するにあたり、当該配管をどの位置で切断できるか確認しておくよう、元方事業者の作業責任者が下請事業者の労働者Aに指示した。

労働者Aは同タンク附属のはしごを使用してタンク上部に昇り、配管接続部へ移動しようとしたところ、タンク上部が割れ、タンク内に墜落した。同僚の労働者Bがこれを救助しようと塩酸タンクXの上部に乗ったところ労働者Bも墜落した。他の労働者が救助を要請するとともにタンクから塩酸を抜く等により2時間半後に救出したが、2名とも死亡していたもの。

塩酸タンクX内にあった塩酸は濃度35%、深さ約2mであった。

(注) 上記の災害概要等については現在調査中であり、確定したものではない。

 

(別添2)

過去の同種災害の例

発生年月 平成14年4月

発生場所 東京都北区

被災状況 死亡1名、薬傷5名

災害発生状況 塩酸タンク(高さ3.2m、直径2m、FRP製)の更新作業において、塩酸の引抜きのため上部開口部に耐酸ローリーのホースを設置する準備で、開口部ねじを開けようとして昇り、梯子がぐらついたため、タンク上部に移った時、被災者自身の体重でFRPが破損し、落下した。タンク内部には1,050Lの35%塩酸が入っており、全身化学熱傷で死亡した。また、転落した被災者を救助しようとタンクから運び出し、全身に塩酸を浴びた被災者の体を支えた者も、作業服の上から塩酸がしみ込むなどして薬傷を負った。

発生年月 平成18年5月

発生場所 宮崎県延岡市

被災状況 死亡1名

災害発生状況 排水中和設備タンクヤードに設置された塩酸タンク等の周辺に仮設した足場上で当日の電線管敷設工事を終了したので、足場上から降りる際、近くの塩酸タンクに附属の梯子があるのに気付き、そこから降りようとして足場からタンクの手すりにのぼり、FRP製の塩酸タンクの頂部に乗り移った際、タンク頂部が破損し、タンク内部に落下し、35%塩酸により薬傷した。(被災者死亡のため推定)

発生年月 平成18年8月

発生場所 愛媛県伊予市

被災状況 死亡1名

災害発生状況 工場の操業停止に伴い、FRP製タンク(高さ約3m、直径約2.5m)に上がり、塩酸を除去する作業のため、天板状のマンホールのボルトの抜き取り作業中に、タンク上部の一部(天板)が抜け転落。タンクのなかに残っていた塩酸(35%。深さ約1m)で全身やけどとなり死亡したもの。

 

(別添3)

○塩酸等貯蔵タンクの保守点検・改修工事における労働災害防止対策の徹底について

平成24年1月11日基安発0111第3号

(別紙関係事業者団体の長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)

特定化学物質の製造・取扱い事業場における労働災害の防止については、従前からその徹底を求めてきたところですが、昨年8月24日、塩酸貯蔵タンクの移設作業中に別の塩酸貯蔵タンク内に転落し労働者2名が死亡するという悲惨な災害(別添1参照)が発生したことは、遺憾に堪えません。

特定化学物質である塩酸を製造し、又は取り扱う設備であって移動式以外の物は、特定化学設備に該当しますが、特定化学設備の改造、修理等の作業は、小規模であるもの等一部の場合を除き、当該特定化学設備を所有等し、その管理権限を有する事業者から他の事業者に発注して行われることが多く、本災害もこれに該当するものです。

本災害原因等の詳細については現在調査中ですが、過去にも同様の災害が発生しています(別添2)。塩酸等を貯蔵する特定化学設備に係る工事等については、非定常作業であり設備・管理面の事前の検討が十分でないこともあり、また、作業が複数の事業者にわたること等により災害につながるおそれが高いことから、同種災害の防止に当たっては下記の事項に特に留意の上、関係事業者が協議のもと、労働災害の防止に万全を期するよう、傘下会員事業者に対し周知いただきますようお願いします。

<編注:記は本通達の記と同一内容ですので省略>

別紙

一般社団法人 日本化学工業協会

社団法人 日本化学品輸出入協会

石油化学工業協会

化成品工業協会

日本ソーダ工業会

硫酸協会

日本無機薬品協会

一般社団法人 日本産業・医療ガス協会

触媒工業協会

全日本プラスチック製品工業連合会

日本プラスチック工業連盟

社団法人 強化プラスチック協会

一般社団法人 日本試薬協会

一般社団法人 日本鉄鋼連盟

農薬工業会

全国鍍金工業組合連合会

日本製薬団体連合会

板硝子協会

硝子繊維協会

社団法人 日本プラントメンテナンス協会

中央労働災害防止協会

建設業労働災害防止協会