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通達:3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペンによる労働災害防止について

 

3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペンによる労働災害防止について

平成23年7月27日基安化発0727第1号

(都道府県労働局労働基準部健康主務課長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)

 

昨年12月、化学工業の事業場において、化学物質の合成実験を行っていた作業員が、合成された3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペン(以下「PFAC」という。)のガスにばく露された疑いで、急性中毒の肺疾患により死亡した災害が発生したところである。

当該災害においては、作業員はドラフトチャンバー内で対象物質を取扱い、その取扱いに当たっては、防毒マスクとゴム手袋を着用していたが、バルブ開閉のために対象物質の発生中に長時間にわたりドラフト内に入っていたと推測されている。

これまでの情報収集の結果、PFACを取り扱っている国内の事業場は少なく、PFACの性状等に係る情報も限られているが、結果の重大性に鑑み、関係業界団体の協力のもと海外における当該物質の有害性情報を別紙のとおりとりまとめたところである。

当該物質の危険有害性については、一部の化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)情報によれば、PFACの沸点は、摂氏約8度と低く揮発性が高いこと、また、一部文献の雄ラットを用いた亜慢性毒性試験では、PFACは致死濃度が27ppm程度という非常に毒性の強いガスであること、PFACへの5.4ppmのばく露で著しい肺への影響が発生するとの指摘がなされていることから、その取扱いに当たっては、労働者のばく露防止対策を確実に講じさせることが重要である。

ついては、各局においても、同種災害を防止する観点から、各種機会を通じて、関係事業者団体等に下記事項について周知するよう努められたい。

なお、関係事業者団体の長に対して、別添のとおり傘下会員事業者への周知を要請しているので了知されたい。

 

1 関係労働者に対するPFACによる健康障害のリスクの周知

PFACを合成等のために適切な保護具を着用せずに取り扱った場合には、その吸入によって、PFACによる重篤な健康障害を生じるリスクが高まるおそれのあることを労働者に十分に理解させること。

2 局所排気装置等の設置

PFACへの労働者のばく露を防止するため、PFACのガスが発散する作業場所については、PFACを密閉する設備、ドラフトチャンバー等の局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設け、作業が行われている間、適正に稼働させること。

3 保護具の着用

(1) 利用可能なMSDS情報によれば、PFACの沸点は常温より低く8℃程度とされていることから、揮発性が高く、一般的には防毒マスクの吸収缶の破過時間は、使用する環境によって顕著に短くなる傾向があり、破過時間の推定は困難と考えられる。このため、PFACの取扱いに当たっては、原則として送気マスクを使用させること。やむを得ず防毒マスクを使用させる場合であっても、防毒マスクの規格(平成2年労働省告示第68号)に適合した有機ガス用防毒マスクを確実な装着方法により常時着用させることはもちろんのこと、防毒マスクの使用時間についても、余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定の上、短時間の作業に限定すること。なお、一度使用した吸収缶は再使用させないこと。

(2) 保護衣及び保護眼鏡を適切に着用させること。

4 異常発生時の措置

不測の事態により、PFACにばく露するおそれのある事案が発生したときは、直ちに労働者を安全な場所に退避させるとともに、PFACにばく露するおそれのある場所への立ち入りを禁止すること。

なお、やむを得ず労働者をPFACにばく露するおそれのある場所に立ち入らせる必要がある場合には、呼吸用保護具の使用等、適切なばく露防止措置を講ずること。

 

(別紙)

PFACに係る情報

名称:3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペン

別名:パーフルオロアリルクロリド

CAS番号:79―47―0

化学式: CF2=CF―CF2Cl

構造式: zu

分子量: 166.48

物理化学的性状:常温では無色の気体

沸点:約8℃

引火点:―

融点:約-140℃

用途:試験研究以外の情報なし

有害性情報:

ヒトにおいて吸入、経口、経皮吸収により高い毒性を示す

ばく露により、肺の刺激、胸痛と浮腫を起こし、致死性となりうる

LCLO=27ppm(最小致死濃度)(ラット)

TCLO=5.4ppm(最小毒性量)(ラット)

【毒性試験】

3―chloropentafluoropropene(以下「PFAC」という。)は致死濃度が27ppm程度という非常に毒性の強いガスである。雄ラットを用いて亜慢性毒性試験が行われている。1群10匹のラットを0、0.5、1.5、5.4ppmのPFACを含む空気に1日6時間、週5日間で2週間ばく露し、ばく露終了時、及び13日後に、尿検査、臨床化学的検査及び病理組織学的検査を行った。

ばく露中に、5.4ppm群のラットは、唾液分泌過多、鼻と口からの赤色の分泌液、呼吸速拍、呼吸困難などの症状を示した。この群のラットは有意な体重減少も示した。10回のばく露終了後に、1.5及び5.4ppm群では赤血球容積とヘモグロビン濃度の増加が認められた。また、5.4ppm群では、ヘマトクリットの増加、アルカリ尿があり、肺は大型化と質量の増加を示し、肺胞組織の急性炎症、出血、繊維性組織による置換などを伴っていた。13日後には、肺の急性炎症は著しく改善し、軽度の肺胞繊維化を示す限局巣を残すのみだった。この時期にはその他の所見は認められなかった。PFACばく露による著しい影響は肺に対するものであり、5.4ppmへのばく露で発生した。

(原文)

3-chloropentafluoropropene(PFAC) is a highly toxic gas with an approximate Lethality 

concentration of 27ppm.Subchronic toxicity was evaluated in male rat.Groups of 10rats

 were exposed 6hours/day,5days/week for 2weeks to atmospheres containing either 0,0.5,1.5,5.4ppm.Urinalysis,clinical chemistry and

 pathologic evaluations were performed at the end of the exposure period and 13days later.

During exposure,rats in the 5.4ppm group exhibited salivation,dry red nasal and oral discharges,and rapid

and labored breathing.Rats in this group also had significant body weight depression during the exposure

period.Following 10exposures,rats 1.5 and 5.4ppm groups had increased red cell,mass and increased

hemoglobin concentrations.Rats exposed to 5.4ppm also had increased hematocrits,more alkaline urine,and

enlarged,heavy lungs with acture inflammation of alveolar tissue,hemorrhage,and replacement by fibrous 

connective tissue.Thirteen days later there was a marked reduction of acture inflammation in the lungs with

only focal areas of slight alveolar fibrosis. Other changes were absent at this time.The significant effect of

 exposure to PFAC was on the lungs and it occurred at a concentration of 5.4ppm.

出典:Abstracts of the 1984Annula Meeting,E.F.Stula,The Toxicologist Vol.4,Pg.66.1984,

【症例報告】

Fatal Chemical Pneumonia from 1,1,2,3,3-Pentaf luoro-3-chloropropene in an Unmarked Gas Tank

Michael Thun and Renate D.Kimbrough

要約

回収された円筒タンク内の未確認ガスへのばく露により、労働者に致死性の化学物質による肺炎を引き起こした。タンクの調査の結果、1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―3―クロロプロペンと走り書きされた化学式が疑わしい肺の刺激物として明らかになった。円筒タンクの回収による潜在的な危険が、それらを使用し又は詰め替える個々の作業者にもたらされることを、この報告は指摘している。危険にさらされている集団にはスキューバダイバー、レスキュー隊員、圧縮ガス産業の従事者が含まれている。

(原文)Abstract

Fatal chemical pneumonia occurred in a worker following exposure to an unidentified gas in a salvaged 

cylinder.Inspection of the tank revealed a scrawled chemical formula for 1,1,2,3,3-pentafluoro-3-chloropropene,a suspected pulmonary irritant.The report underscores the potential hazards which salvaged 

cylinders pose to individuals who use or refill them.The population at risk includes scuba divers,emergency 

rescue personnel,and workers in the compressed gas industry.

出典:Clin.Toxicol.1981Apr;18(4):481―7.

 

(別添)

○3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペンによる労働災害防止について

平成23年7月27日基安化発0727第2号

(社団法人日本化学工業協会会長・社団法人日本化学工業品輸入協会会長・化成品工業協会会長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)

昨年12月、化学工業の事業場において、化学物質の合成実験を行っていた作業員が、合成された3―クロロ―1,1,2,3,3―ペンタフルオロ―1―プロペン(以下「PFAC」という。)のガスにばく露された疑いで、急性中毒の肺疾患により死亡する災害が発生したところです。

当該災害においては、作業員はドラフトチャンバー内で対象物質を取扱い、その取扱いに当たっては、防毒マスクとゴム手袋を着用していましたが、バルブ開閉のために対象物質の発生中に長時間にわたりドラフト内に入っていたと推測されています。

これまでの情報収集の結果、PFACを取り扱っている国内の事業場は少なく、PFACの性状等に係る情報も限られているが、結果の重大性に鑑み、関係業界団体の協力のもと海外における当該物質の有害性情報を別紙のとおりとりまとめたところです。

当該物質の危険有害性については、一部の化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)情報によれば、PFACの沸点は摂氏約8度と低く揮発性が高いこと、また、一部の文献の雄ラットを用いて亜慢性毒性試験では、PFACは致死濃度が27ppm程度という非常に毒性の強いガスであること、PFACへの5.4ppmのばく露で著しい肺への影響が発生するとの指摘がなされていることから、その取扱いに当たっては、労働者のばく露防止対策を確実に講じさせることが重要です。

つきましては、以上のような状況にかんがみ、貴会会員に対して下記の事項について周知徹底を図っていただくようお願いいたします。

<編注:本通達の記と同一内容ですので省略>