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通達:定期健康診断における有所見率の改善に向けた取組について

 

定期健康診断における有所見率の改善に向けた取組について

平成22年3月25日基発0325第1号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第44条及び第45条の規定による定期の健康診断(以下「定期健康診断」という。)における有所見率(健康診断を受診した労働者のうち異常の所見(以下「有所見」という。)のある者(以下「有所見者」という。)の占める割合をいう。以下同じ。)は、平成20年には51%に達し、半数を超える労働者が有所見者という状況となっている。

また、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)による労災支給決定件数も高水準にあり、脳・心臓疾患の発生防止の徹底を図ることが必要な状況にある。

さらに、第11次労働災害防止計画においては、「労働者の健康確保対策を推進し、定期健康診断における有所見率の増加傾向に歯止めをかけ、減少に転じさせること」を目標の1つとしている。

これらの状況を踏まえ、各局においては、労働者の健康の保持増進対策を推進し、定期健康診断における有所見率の改善が促進されるよう、下記のとおり、事業者に対する指導又は周知啓発、要請等に遺憾なきを期されたい。

 

1 趣旨等

定期健康診断における有所見率が増加し続けていること及び脳・心臓疾患による労災支給決定件数も高水準にある現状にかんがみると、脳・心臓疾患の発生防止の徹底を図るには、長時間労働者に対する労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第66条の8の規定に基づく面接指導等の実施だけでなく、定期健康診断における脳・心臓疾患関係の主な検査項目(血中脂質検査、血圧の測定、血糖検査、尿中の糖の検査及び心電図検査をいう。以下同じ。)における有所見となった状態の改善(以下「有所見の改善」という。)に取り組むことが重要である。また、職業性疾病としての熱中症等の予防においても、有所見の改善が重要である。

有所見の改善のためには、事業者が行う保健指導等に基づき、労働者が栄養改善、運動等に取り組むこと、また、事業者が就業上の措置を適切に行うことなどが必要である。

以上を踏まえ、都道府県労働局及び労働基準監督署は、事業者及び労働者をはじめとする関係者が、上記のような有所見率の改善に向けた取組(以下「有所見率改善の取組」という。)の必要性・重要性を十分に理解し、積極的に取り組むよう、上記の趣旨を十分説明し理解を得ること。

2 事業者及び労働者による有所見率改善の取組

(1) 事業者が次の事項について確実に取り組むよう指導すること。

ア 定期健康診断実施後の措置

法第66条の4の規定に基づく有所見についての医師からの意見聴取及び法第66条の5の規定に基づく作業の転換、労働時間の短縮等の措置は、労働者の健康保持及び有所見に関係した疾病発生リスクの低減のみならず、有所見の改善にも資することを踏まえ、事業者はこれらを適切に実施しなければならないものであること。

イ 定期健康診断の結果の労働者への通知

労働者が、その健康の保持増進のための取組に積極的に努めるようにするためには、自らの健康状況を把握することが重要であることも踏まえ、事業者は、法第66条の6の規定に基づき、定期健康診断の結果を労働者に通知しなければならないものであること。

(2) 事業者及び労働者が、次の事項について取り組むよう周知啓発、要請等を行うこと。

ア 定期健康診断の結果に基づく保健指導

(ア) 法第66条の7第1項の規定に基づく医師又は保健師による保健指導(以下単に「保健指導」という。)は、これにより有所見者が、食生活の改善等に取り組むこと、医療機関で治療を受けることなどにより、有所見の改善に資するものであることから、事業者の努力義務であることも踏まえ、事業者は適切に実施するよう努めること。

したがって、保健指導は、再検査若しくは精密検査又は治療の勧奨にとどまらず、有所見の改善に向けて、食生活等の指導、健康管理に関する情報提供を十分に行うこと。

(イ) 保健指導は、事業者が実施するだけでなく、これに基づき労働者が自ら健康の保持に取り組まなければ予期した効果を期待できないことから、労働者は、法第66条の7第2項の規定に基づき、定期健康診断の結果及び保健指導を利用して、その健康の保持に努めること。

イ 健康教育等

(ア) 法第69条第1項の規定に基づく健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置(以下「健康教育等」という。)は、これにより労働者が栄養改善、運動等に取り組むことにより、有所見の改善に資するものであることから、事業者の努力義務であること等も踏まえ、事業者は適切に実施するよう努めること。

なお、健康教育等は、有所見者のみならず、毎年検査値が悪化するなど有所見者となることが懸念される者についても重点的に行うこと。

おって、健康教育等の実施においては、脳・心臓疾患関係の主な検査項目の有所見率がおおむね増加傾向にあることから、当該有所見の改善に係る健康教育等を重点的に行うこと。

(イ) 健康教育等は、事業者が実施するだけでなく、これに基づき労働者自ら健康の保持増進に取り組まなければ予期した効果を期待できないことから、労働者は、法第69条第2項の規定に基づき、事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めること。

ウ 留意事項

事業者は、保健指導及び健康教育等においては、個々の労働者の状況に応じて、労働者が取り組むべき具体的な内容を示すとともに、その後の労働者の取組状況を把握し、必要に応じて指導を行うこと。

また、(1)イの際、事業者は、保健指導及び健康教育等において示された労働者自身が取り組むべき事項を実施するよう労働者を指導すること。

(3) 計画的かつ効果的な実施のための取組事項

事業者が、(1)及び(2)の事項を計画的かつ効果的に実施するため、次の事項について取り組むよう周知啓発、要請等を行うこと。

ア 計画的な取組

(ア) 事業者は、(1)及び(2)の事項のうち事業者が取り組む事項(以下「事業者の取組事項」という。)への取組について計画を作成するなど、計画的に取り組むこと。

(イ) 事業者は、毎月、産業医が作業場等の巡視を行う日などにおいて、計画的に、健康教育等を行うとともに、(2)の事項のうち労働者が取り組む事項(以下「労働者の取組事項」という。)の実施状況を確認すること。

(ウ) 事業者は、全国労働衛生週間及びその準備期間において、有所見率改善の取組を効果的に推進するため、重点的に、社内誌、講演会、電子メール、掲示等による労働者への啓発等を行うとともに、自主点検表等を活用した(1)及び(2)の事項の実施状況の点検を行うこと。

イ 取組状況の評価

事業者は、労働者ごと及び事業場全体について、実施した保健指導及び健康教育等の内容、労働者自身の取組状況、定期健康診断の結果等を基に、事業者の取組事項の実施状況及びその結果を評価し、その後充実強化すべき事項等をその後のア(ア)の計画に反映させること。その際、衛生委員会等を活用すること。

なお、定期健康診断の結果の評価においては、必要に応じて、検査値が改善傾向であるかについても評価すること。

ウ 高齢者の医療の確保に関する法律に基づく施策との連携

保健指導及び健康教育等については、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、医療保険者は、40歳以上の加入者に対し、生活習慣病に着目した特定健康診査及び特定保健指導を実施することが義務付けられており、平成20年1月17日付け基発第0117001号・保発第0117003号「特定健康診査等の実施に関する協力依頼について(依頼)」を踏まえ、事業者は、これらの施策との連携にも留意すること。

3 都道府県労働局等による具体的な周知啓発、要請等の方法

都道府県労働局及び労働基準監督署は、事業場において、有所見率改善の取組が促進されるよう、次の事項に取り組むこと。

(1) 特定の事業場に対する重点的な周知啓発、要請等

ア 事業場の選定等

労働基準監督署は、(ア)及び(イ)のいずれにも該当する事業場及びこれに準じた事業場に対して、当該事業場の事業者の理解を得た上で、事業者の取組事項について、重点的に、周知啓発、要請等を行うとともに、当該事業場での成果の普及を図ること。

(ア) 当該事業場の定期健康診断の結果、脳・心臓疾患関係の主な検査項目のいずれかの有所見率若しくは定期健康診断の検査項目全体の有所見率が、全国平均の有所見率より高い値であること又はその増加率が全国平均の増加率より大きいこと。

なお、定期健康診断の結果の把握は、労働安全衛生規則第52条の定期健康診断結果報告書、自主点検表等を活用すること。

(イ) 事業者の取組事項について、当該事業場における実施が不十分であると認められること。その判断においては、必要に応じて自主点検表を活用すること。

イ 具体的な要請等の内容

(ア) 2(3)ア(ア)の計画の作成に当たり、必要に応じて労働衛生コンサルタント等の活用について助言すること。

(イ) 一の事業場における事業者の取組事項の取組期間については、当該事業場における事業者の取組事項の実施状況及びその結果に基づき、2(3)イの評価を行うことが必要であることから、少なくとも1年以上とするよう、要請すること。

(ウ) 有所見率改善の取組の状況について報告を要請すること。当該報告に基づき、その取組が不十分であると認める場合は、原則として(イ)の取組期間の延長を要請すること。

ウ 要請等における留意事項

(ア) 脳・心臓疾患関係の主な検査項目の有所見率がア(ア)に該当する事業場については、過重労働による健康障害防止のための対策としても位置付け、事業場に対する周知啓発、要請等を行うとともに、必要に応じて、平成20年3月7日付け基発第0307006号「「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」の一部改正について」において示された事項についても併せて指導すること。

(イ) 有所見率改善の取組の必要性及び具体的な内容を説明したリーフレット(以下単に「リーフレット」という。)等を活用し、事業場トップ等に対する働きかけを行うこと。

(ウ) 他の事業場における有所見率改善の取組の参考となる成果等については、個人情報等に十分配慮した上で、他の事業場に対する周知啓発において活用すること。

(2) (1)以外の周知啓発等

都道府県労働局及び労働基準監督署は、(1)の対象の事業場以外の事業場及び業界団体等に対し、次のとおり周知啓発等を行うこと。

なお、その際はリーフレット等を活用すること。

ア 周知啓発

(ア) 都道府県労働局及び労働基準監督署は、役割分担を明確にした上で、有所見率が高い事業場及び業種並びに有所見率の増加が大きい事業場及び業種等の集団に対する周知啓発を行うこと。特に、業界団体の会合等がある場合は、これらの機会を積極的に活用して行うこと。

(イ) 労働基準監督署で行う個別指導等の機会を活用し、事業者の取組事項の周知啓発等を行うこと。特に、有所見率が増加している事業場、全国平均より高い事業場等については、個別指導等において、事業場トップ等に対する働きかけを行うこと。

(ウ) 監督指導においては、必要に応じて、2(1)の法定事項について点検するとともに、有所見率改善の取組について、周知啓発を図ること。

(エ) 定期健康診断結果報告書の受付時等における周知啓発

労働基準監督署は、定期健康診断結果報告書の受付時等において、周知啓発を行うこと。

イ 自主点検

都道府県労働局及び労働基準監督署は、役割分担を明確にした上で、事業場への周知啓発を目的に、必要に応じて、自主点検表を活用し、自主点検の実施を要請すること。

ウ 業界団体等への要請

(ア) 都道府県労働局及び労働基準監督署は、役割分担を明確にした上で、脳・心臓疾患関係の主な検査項目の有所見率が高い業種、当該有所見率の増加が大きい業種等を対象として、有所見率改善の取組の促進を図ることを目的に、業界団体等に対して、(3)アにおける取組と併せて、継続的に、業界紙、講演会等による啓発、情報提供等を行うよう要請すること。

(イ) 健康診断機関等に対して、(3)アにおける取組と併せて、健康診断等の機会を活用し、継続的に有所見率改善の取組の周知等を行うよう要請すること。

(3) 全国労働衛生週間等における取組の促進

ア 全国労働衛生週間等における取組

有所見率改善の取組を効果的に推進するためには、有所見率改善の取組について、その必要性及び具体的な内容を十分に理解するとともに、その促進及び機運の醸成を図ることが重要であること。

このため、都道府県労働局及び労働基準監督署は、役割分担を明確にした上で、業界団体等に対し、全国労働衛生週間及びその準備期間における重点的な有所見率改善の取組への理解を深めるための講演会の開催、自主点検の実施等を要請すること。また、健康診断機関等に対しては、これらの週間及び月間における重点的な機関誌の発行、講演会の開催等を要請すること。

イ 毎月の取組

有所見率改善の取組を効果的に推進するためには、事業者が保健指導及び健康教育等を計画的に実施するとともに、これらにおいて示された労働者自身が取り組むべき事項を着実に実施するよう、労働者に指導することが重要であること。

このため、都道府県労働局及び労働基準監督署は、役割分担を明確にした上で、事業者等に対し、毎月、産業医が作業場等の巡視を行う日などにおいて、計画的に、保健指導及び健康教育等を行うとともに、労働者の取組事項の実施状況を確認するよう、要請すること。

(4) その他

ア 地域保健との連携

広域的な地域・職域連携を図り、地域の実情に応じた協力体制による生涯を通じた継続的な保健サービスの提供・健康管理体制を整備・構築する目的で設置されている地域・職域連携推進協議会等において、有所見率改善の取組に関する情報交換等を行い、効率的かつ効果的な取組の促進を図ること。

イ 支援措置

(ア) 有所見率の改善のため、業務の特性に応じた専門家による事業場指導等を行う委託事業を実施する予定であり、別途指示するところにより、本事業の活用についても事業者に対し助言すること。

(イ) 産業医の選任義務のない事業場に対しては、必要に応じて、地域産業保健センターの利用を勧奨すること。

ウ 各局の計画の作成

都道府県労働局は、3(1)から(3)までの事項を計画的かつ効果的に行い、定期健康診断における有所見率の改善を図るため、第11次労働災害防止計画の最終年度(平成24年度)までの期間を計画の期間とし、各年度において計画を作成すること。

エ 本省への報告

都道府県労働局は、有所見率改善の取組に関する指導状況等について、次のとおり、本省労働基準局安全衛生部労働衛生課あてに報告すること。

(ア) ウの計画を作成した場合は、これを速やかに報告すること。

(イ) 各年度のウの計画に基づく取組結果については、別途示すところにより報告すること。

(ウ) 有所見率の改善に寄与した具体的な取組の好事例を把握した場合は、適宜報告すること。