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廃棄物処理事業におけるクロルピクリン中毒の防止について
平成17年1月28日基安化発第0128003号
(各都道府県労働局労働基準部労働衛生主務課長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)
廃棄物処理事業における労働災害防止については、「清掃事業における安全衛生管理要綱」(平成5年3月2日付け基発第123号の別添1)等により指導をしているところであるが、最近、ごみ収集作業の際に容器に残存していた農薬のクロルピクリンの蒸気を吸入することによる中毒災害が別紙のとおり発生しているところである。
このため、クロルピクリンの製造者団体であるクロルピクリン工業会に対して別添1のとおり、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長に対して別添2のとおりクロルピクリン中毒の防止について要請したところである。
ついては、各局においても、廃棄物行政全般を所管する都道府県及び保健所設置市の廃棄物担当部局との連絡、協議等の場を通じて、下記事項について周知するよう努められたい。
記
1 労働衛生教育の実施
関係労働者に対して、クロルピクリンの性状、有害性、疑わしい廃棄物に遭遇した場合の対処方法について労働衛生教育を実施すること。
2 異常発生時の措置
不測の事態により、廃棄物の回収又は処理の際にクロルピクリンの蒸気が発生したときは、直ちに労働者を退避させること。
別紙
廃棄物処理事業等において発生したクロルピクリン中毒災害事例
番号 |
発生年月 |
都道府県 |
被災者数 |
発生状況 |
1 |
平成10年7月 |
山形 |
15名 |
ごみ収集車からごみを排出する際、ごみピットの付近にいた作業者がクロルピクリンによる眼の痛みや中毒症状を示した。 |
2 |
平成12年5月 |
長野 |
4名 |
清掃センターの不燃ごみ処理工場内において、清掃車からごみをピットに投入する作業をしていたところ、清掃車の1台の積載ごみに農薬のクロルピクリンが混入しており、そのままピット内に投入されたため、付近で作業をしていた4名が中毒となった。 |
3 |
平成13年4月 |
岩手 |
2名 |
ごみ収集車により破砕不燃物の積込み作業を行っていたところ、破砕不燃物中に入っていた農薬のクロルピクリンにより作業者が目や喉の痛みを訴えた。 |
4 |
平成14年3月 |
高知 |
1名 |
一般廃棄物の最終処分場において、作業者が不燃ごみの袋の内容物を確認するために開封したところ、クロルピクリンの容器とその残液が漏れていたため、発散した蒸気を吸い込み頭痛、嘔吐等の中毒症状を訴えた。 |
5 |
平成14年6月 |
兵庫 |
8名 |
不燃ごみの収集作業において、木箱入りのガラスビンの1本をごみ収集車に投入した際にビンが割れ刺激臭がして、作業をしていた3名が眼の痛み、吐き気、めまい等の症状を訴えた。さらに、このごみ収集車を洗車場で水洗した際に付近にいた作業者も含め5名が体調不良を訴えた。後にビンの内容物の分析によりクロルピクリンと判明した。 |
6 |
平成14年11月 |
宮崎 |
3名 |
ごみ収集車により不燃ごみの収集を作業者2名で行っていたところ、頭痛、めまい、眼、喉の痛み、咳き込み等の症状を訴え、これを見て事業場に災害の通報をした運転手も同様の症状を訴えた。後にビンの内容物の分析によりクロルピクリンと判明した。 |
7 |
平成16年6月 |
茨城 |
2名 |
金属類の再処理を行う事業場内において18リットル缶を解体するためにリフティングマグネット付きの油圧ショベルで潰した際、缶の中に入っていた液体が霧状に噴出し、近くで作業していた作業者が蒸気を吸い込み中毒となった。缶のラベルは剥がされていたが、持ち込まれた缶数本の中には農薬(クロルピクリン)が入っていた。 |
[別添1]
○廃棄物処理事業におけるクロルピクリン中毒の防止について
平成17年1月28日基安化発第0128001号
(クロルピクリン工業会会長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)
労働安全衛生行政の推進につきまして、平素より御理解、御協力をいただき厚く御礼申し上げます。
さて、クロルピクリンは、従来から土壌燻蒸剤として使用されてきましたが、同様に土壌燻蒸剤として使用されてきた臭化メチルがモントリオール議定書により、原則生産禁止となったため、今後代替品としてクロルピクリンの使用量が増加することが考えられます。
一方、クロルピクリンの使用者が適切にクロルピクリンを廃棄しなかったために、クロルピクリンが容器に残存した状態で一般廃棄物として取り扱われ、その結果、廃棄物処理事業に従事する労働者が作業中に、当該廃棄物から漏えいした蒸気を吸入してクロルピクリン中毒に罹患する災害が、別紙のとおり発生しております。
貴会におかれましては、これまでも適正なクロルピクリンの使用方法等について使用者への周知に取り組まれていることと存じますが、廃棄物処理事業に従事する労働者のクロルピクリンによる中毒災害の防止を図るため、貴会等が作成されているホームページ、パンフレット等に別紙災害の内容を掲載する等により、クロルピクリンの使用者に対して適切なクロルピクリンの処理方法等について周知していただきますようお願い致します。
(別紙 略)
[別添2]
○廃棄物処理事業におけるクロルピクリン中毒の防止について
平成17年1月28日基安化発第0128002号
(環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)
近年、土壌燻蒸剤として用いられるクロルピクリンが容器に残存した状態で一般廃棄物として排出され、廃棄物処理事業に従事する労働者がその収集・処理の過程で漏えいした蒸気を吸入して中毒に罹患する労働災害が別紙のとおり発生しております。
これらの労働災害の防止につきましては、排出者においてクロルピクリン又はその容器を廃棄する際には内容物を使い切った後、残液処理及び残臭処理を行う等、適正に対処することが必要です。
このため、クロルピクリン製造事業者団体であるクロルピクリン工業会においては、これらの労働災害を防止するため、別添1に示すパンフレットを作成し、クロルピクリン使用者に対してクロルピクリン及びその容器の適正な廃棄方法について周知を行っているところであります。
しかしながら、上記のようにクロルピクリンによる労働災害が発生していることから、同種災害を防止するため、別添2及び別添3のとおりクロルピクリン工業会及び都道府県労働局に通知したところです。
つきましては、貴省におかれましても、関係機関等に対し、同通知の趣旨に沿った対応方につき御協力いただきますようお願い致します。
(別紙、別添2及び別添3 略)
参考1
クロルピクリンの容器の例
主なクロルピクリンの商品名
南海クロールピクリン カヤククロールピクリン 三井東圧クロールピクリン クロピク80 ドジョウピクリン ドロクロール
その他、他成分との混合剤等がある。
参考2
クロルピクリンの有害性等について
1 性状
刺激臭のある無色の液体で、気化したガスは空気より重く低所に流れる。
2 用途
土壌燻蒸剤、倉庫燻蒸剤
3 有害性
(1) 主要な症状
① 吸入した場合
・ せきや鼻汁が出る。
・ 気管支及び肺を強く刺激し、重度障害を生じる。
・ 多量に吸入すると悪心、血尿を認め、胃腸炎、肺炎、呼吸困難、肺水腫をおこす。
・ ばく露の症状は灼熱感、咳、息切れ、喉頭炎、息苦しさ、頭痛、吐き気、嘔吐。
② 皮膚に触れた場合
・ 皮膚から吸収する。
・ 皮膚を刺激する(かぶれる、ただれる、発赤する)。
・ 皮膚炎を起こすことがある。
・ 水疱を生じる。
・ 皮膚アレルギーを起こすことがある。
③ 眼に入った場合
・ 粘膜を刺激し催涙する。
・ 結膜の炎症により視力障害を起こす。
④ その他
・ 許容濃度を超えると、死に至ることがある。
・ これらの影響は遅れて現れることがある。
(2) 許容濃度
日本産業衛生学会(2004年)許容濃度 0.1ppm(0.67mg/m3)
ACGIH(2003年)TLV―TWA 0.1ppm
(注)
ACGIH:米国産業衛生専門家会議
TLV―TWA:時間加重平均許容濃度
4 応急措置
(1) 吸入した場合
① 新鮮な空気にあてる。
② 呼吸停止の場合は、人工呼吸を行う。
③ 呼吸困難の場合は、酸素吸入を行う。
④ 医師に連絡する。
(2) 皮膚に付着した場合
① 汚染した衣服や靴を脱がせると同時に、大量の水で最低15分間洗浄する。
② 医師に連絡する。
(3) 眼に入った場合
① 大量の水で最低15分間洗浄する。(できればコンタクトレンズをはずす。)
② 洗眼は指で瞼をひろげ、大量の水で十分に洗浄する。
③ 医師に連絡する。
(4) 飲み込んだ場合
① 口をすすぐ。
② 多量の水を飲ませる。
③ 医師に連絡する。
5 漏出時の措置
(1) 退避
① 危険区域から立ち退く。
② 漏洩した場所の周辺にはロープを張るなどして立入りを禁止する。
(2) 除去方法
① 大量の流出には、土砂等で流出を止め、多量の活性炭又は消石灰を散布して覆い、至急関係先に連絡し、専門家の指示により処理する。
② 少量の流出では、布でふき取るか又はそのまま風にさらして蒸発させる。
③ 漏れた液を密閉式の表示された容器にできるだけ集める。
(3) 事故処理の際の装備
下記のうち作業に適したものを使用する。
① 呼吸器の保護具
呼吸用保護具を着用する。
② 手の保護具
保護手袋を着用する。
③ 眼の保護具
顔面シールド又は呼吸器用保護具と眼用保護具の併用。
④ 皮膚及び身体の保護具
保護衣を着用する。(漏えい飛散した場合の処理時でも防護衣の上に防火服を着装する。)
(4) 検知方法
検知管:塩素用、クロルピクリン用、ホスゲン用。
6 廃棄上の注意
分解法:少量の界面活性剤を加えた亜硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合溶液中で、攪拌し分解させた後、多量の水で希釈して処理する。
注1 混合溶液の亜硫酸ナトリウムの濃度は30%、炭酸ナトリウムの濃度は約4%とする。
注2 混合溶液はクロルピクリンに対して25倍容量以上用いる。
注3 分解は液中の油滴及び刺激臭が消失するまで行う。
参考文献
(1) ICSC
(2) RTECS(CD―ROM)
(3) 厚生省「毒劇物基準関係通知集 改訂増補版」
(4) 中央労働災害防止協会「化学物質の危険・有害便覧」
(5) 化学物質評価研究機構「化学物質安全性(ハザード)評価シート」
(6) 日化協「緊急時応急措置指針、容器イエローカード(ラベル方式)」
(7) 日化協「化学物質法規制検索システム」(CD―ROM)
(8) 日本ケミカルデータベース(株)「化学品総合データベース」
(9) 化学工業日報社「14504の化学商品」
クロルピクリンについての問い合わせ先
クロルピクリン工業会
電話 03―3516―0868
FAX 03―3516―0869
URL http://www.chloropicrin.jp