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通達:化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントについて

 

化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントについて

平成12年3月21日基発第149号

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

 

標記については、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」(昭和51年12月24日付け基発第905号別添(略)。以下「指針」という。)を策定し、その周知徹底を図ってきたところであるが、指針の策定から20年以上が経過し、この間、技術の進展に伴い、プラントの多様化、大型化が図られるとともに、様々な新しい安全評価手法が開発されている状況にある。このため、今般、こうした状況を踏まえて指針の枠組みを見直すとともに、新しい安全評価手法の導入、評価項目の見直し等を行い、別添のとおり指針を改正したので、当該改正指針に基づき、引き続き、化学プラントにおけるセーフティ・アセスメントが実施されるよう関係事業場に対する周知に努められたい。

なお、(社)日本化学工業協会会長、石油化学工業協会会長及び石油連盟会長に対し、別紙(略)のとおり要請を行ったので了知されたい。

おって、昭和51年12月24日付け基発第905号は廃止する。

 

別添

化学プラントにかかるセーフテイ・アセスメントに関する指針

目 次

1 序文

2 安全性の事前評価の概要

 (1) 適用範囲

 (2) 安全性の事前評価の手法の概要

3 安全性の事前評価の具体的手法

 (1) 関係資料の収集・作成(第1段階)

 (2) 定性的評価(第2段階)

  イ 設計関係

   (イ) 立地条件

   (口) 工場内の配置

   (ハ) 建造物

   (二) 消防用設備等

  口 運転関係

   (イ) 原材料、中間体、製品等

   (口) プロセス

   (ハ) 輸送、貯蔵等

   (二) プロセス機器

  ハ その他

 (3) 定量的評価(第3段階)

 (4) プロセス安全性評価(第4段階)

 (5) 安全対策の確認等(第5段階)

  イ 設備等に係る対策

  口 管理的対策

   (イ) 適正な人員配置

   (口) 教育訓練

   (ハ) 非定常作業

  ハ 最終チェック

 

1 序文

「化学プラントにかかるセーフテイ・アセスメントに関する指針」は、昭和40年代の後半に、石油コンビナートにおいて相次いで爆発・火災が発生し、その要因としてプラント設計段階における不備、オペレーターの誤操作、日常点検の欠陥、保全におけるミス等が指摘されたことから、化学プラントの新設、変更等の際に安全性の事前評価を行うための手法として、昭和51年に策定したものである。

その後、関係事業揚においてはこの指針に基づいた安全性の事前評価が行われ、労働災害の防止に大きな役割を果たしてきたが、指針の策定後20年以上が経過し、この間、化学プラントにかかる技術も進歩し、また、様々な安全性評価手法が開発され、関係事業場においてもそれらの導入が進んできている。

このようなことから、今般、指針の内容を見直すこととし、新たな安全性評価手法の導入、評価項目の見直し等を行った。

この指針に基づく安全性の評価は、化学プラントの試運転開始までに行うこととしており、関係資料の収集・作成、定性的評価、定量的評価、プロセス安全性評価及び安全対策の確認等の5つの段階により行うものである。

なお、この指針は、あくまでも関係事業揚が行うべき必要最低限の目安を示したものであり、評価の結果、安全対策の妥当性が確認された設備であっても、機械の誤作動・反応条件の設定ミス、物質の誤った取扱い等により、予期せぬ大災害を招くことも懸念されることから、関係事業場においては、この指針に基づく評価に加えて、事業揚の特性等を加味した安全性評価を行うことが望ましい。

また、関係事業揚においては、この指針をもとに設備等の改善を行うとともに、さらに一歩進めて労働安全衛生マネジメントシステムの導入等システム化された安全衛生管理を行うことにより、爆発・火災等の災害の発生を未然に防止し、もって、労働者の安全衛生の確保に万全を期すことが肝要である。

2 安全性の事前評価の概要

(1) 適用範囲

この指針は、化学物質の製造、取扱い、貯蔵等を行うことを目的とした化学プラントの新設、変更等を行う場合に適用する。

(2) 安全性の事前評価の手法の概要

本評価は、次の5段階により行う。

  第1段階 関係資料の収集・作成

  第2段階 定性的評価-診断項目による診断

  第3段階 定量的評価

  第4段階 プロセス安全性評価

  第5段階 安全対策の確認等

各段階の概略は以下のとおりである。

イ 第1段階関係資料の収集・作成

この段階では、化学プラントの安全性の事前評価を行うために、必要な資料の収集・作成を行う。このうち、工程系統図、プロセス機器リスト、安全設備の種類とその設置場所等の資料の作成に際しては、

(イ) 誤作動防止対策

(ロ) 異常に際して確実に安全側に作動する方式

等の基本的な安全設計が、組み込まれるように配慮しなければならない。

ロ 第2段階 定性的評価

この段階では、診断項目により、化学プラントの安全性にかかる定性的評価を行う。この結果、プラントの安全性を確保するため改善すべき事項があれば、設計変更等を行う。

ハ 第3段階 定量的評価

この段階では、物質、エレメントの容量、温度、圧力及び操作の5項目により、総合的に化学プラントの安全性にかかる定量的な評価を行う。

この評価に当たっては、災害の起こりやすさ及び災害が発生した場合のその大きさとを同時に評価するものとし、上記5項目に均等に比重をかけて定量化を行い、危険度ランクを付ける。なお、毒性については、配点、ランク付けは行わないが、「毒性を考慮すべきもの」(表)については、関係事業別において種々の情報等を収集し、必要な対策を検討する。

ニ 第4段階 プロセス安全性評価

この段階では、第3段階での危険度ランクとプロセス固有の特性等に応じ、適切な安全性評価手法を用いて潜在危険の洗い出しを行い、妥当な安全対策を決定する。

ホ 第5段階 安全対策の確認等

この段階では、第4段階でのプロセス安全性評価結果に基づき、設備等にかかる対策の確認等を行うとともに、これまでの評価結果について総合的に検討し、更に改善すべき点がないか最終的なチェックを行う。

3 安全性の事前評価の具体的手法

化学プラントの安全性の事前評価に当たっては、はじめに、プラントに係る関係資料の収集・作成を行い、プラントの特性を十分把握したうえで、診断項目による安全の定性的評価を行って、一般的な安全性を確保する。次に、物質の持つ危険性、エレメントの容量、温度、圧力等の操作条件の危険性を総合的に勘案した定量的評価を行い、そこで得られた危険度ランクとプロセス固有の特性等に応じ、適切な評価手法を用いて潜在.危険を洗い出し・妥当な安全対策を決定する。最後に・プラント全体としての安全対策について整理・確認するとともに、最終チェックを行い評価を終了する。

(1) 関係資料の収集・作成(第1段階)

収集・作成すべき資料は、次のものである。

[1]立地条件

[2]プラント配置図

[3]ストラクチャーの平面図及び立面図

[4]計器室及び電気室の平面図

[5]原材料、中間体、製品等の物理的、化学的性質及び人体に及ぼす影響

[6]起こり得る反応

[7]製造工程概要

[8]工程系統図

[9]プロセス機器リスト

[10]配管・計装系統図

[11]安全設備の種類と設置場所

[12]類似装置、類似プロセスの災害事例

[13]運転要領

[14]要員配置計画

[15]緊急時の連絡体制

[16]安全教育訓練計画

[17]その他の関係資料

(2) 定性的評価(第2段階)

定性的評価は診断項目、関係法令等を参照してプラントの安全性評価を行うものである。必要と考えられる診断項目の一例を示すと次のとおりである。

イ 設計関係

(イ) 立地条件

a 立地する地域の以下の自然条件の調査結果に照らして対策は十分か

[1]地盤(強度、高さ)

[2]過去最大の地震強度

[3]最大降雨量

[4]最大風速

[5]最高及び最低気温

b 水、電気、ガス等のユーティリティは、最大使用量以上の量が確保されているか

c 鉄道、空港等の公共施設、市衛地等に対する安全を考慮しているか

d 近接工場からの災害の波及防止に対して考慮しているか

(ロ) 工場内の配置

a 工場内には、適正なさくや門が設けられているか

b プラントは、境界から安全な距離が保たれているか、特に、貯蔵タンクは境界から十分離れた場所に配置されているか、また、相互の間隔は近すぎないか、貯蔵タンクの周囲には防液堤が設けられているか、又は埋設により防護されているか

c 製造施設地区は、居住区、倉庫、事務所、研究所等から十分離れているか、また、発火源から十分離れているか

d 計器室の安全は、確保されているか

e 装置間のスペースは、物質の性質、量、操作条件、緊急措置、消火活動等を考慮したものになっているか

f 荷積み、荷卸し地区は、プラントから十分離れているか、また、発火源から十分離れているか

g 廃棄物処理施設は居住区から十分離れているか、また、風向きを考慮しているか

(ハ) 建造物

a 耐震設計がなされているか

b 全荷重に対する基礎及び地盤の強度は十分か

c 構造物の部材及び支柱の強度は十分か

d 床、壁等の材料は、不燃性のものでできているか

e エレベーター、空調設備及び換気ダクトの開口部のような火災拡大要因は、最小限度に押さえられているか

f 危険なプロセスは、防火壁又は防爆壁によって隔離されているか

g 屋内に危険有害物質が漏えいするおそれがある揚合、換気対策は十分か

h 避難口及び非常用通路は十分か、また、明瞭に表示されているか

i 建造物内の排水設備は十分か

(ニ) 消防用設備等

a 消火用水は十分に確保されているか

b 散水設備等の機能及び配置は適切か

c 散水設備等は、点検、整備しやすいようになっているか

ロ 運転関係

(イ) 原材料、中間体、製品等

a 原材料は、プラントの危険性の低い地区に安全な方法で持ち込まれているか

b 原材料の受入れ時の作業規程はあるか

c 原材料、中間体、製品等の物理的、化学的性質が正しく把握されているか

d 原材料、中間体、製品等について、爆発性、発火性等の危険性及び人体に及ぼす影響が把握されているか

e 原材料、中間体、製品等について、腐食性の有無が把握されているか

f 不純物の存在が、原材料、中間体、製品等に及ぼす影響についての検討がなされているか

g 危険性の高い物質の所在及び量が把握されているか

(ロ) プロセス

a 研究開発段階から基本設計段階までの問題点を集録し、生かしているか

b 類似装置、類似プロセスの過去の災害事例を調査し、設計及び規程類等に反映しているか

c プロセス内部に保有する危険性の高い物質は必要最小になっているか

d プロセスは、反応式やフローシートにより適正に表示されているか

e プロセス運転のための作業規程はあるか

f 下記の事項を防止する対策がとられているか

[1]温度異常

[2]圧力異常

[3]反応異常

[4]振動・衝撃

[5]原材料の供給の異常

[6]原材料の流動の異常

[7]水又は汚染物質の混入

[8]装置からの漏えい又は流出

[9]静電気

g 起こり得る不安定な反応は確認されているか

(ハ) 輸送、貯蔵等

a 輸送時の作業規程はあるか

b 取り扱われている物質の潜在的危険性は、十分に把握されているか

c 危険性物質の不時放出に対する予防対策がとられているか

d 不安定物質の取扱いの際、熱、圧力、摩擦等の刺激要因を最小限に押さえる対策がとられているか

e タンク、配管等の材質は十分な耐腐食性を有しているか

f すべての輸送作業について、オペレーターの安全が確保されているか

g 配管内の流速条件が明確に規定されているか

h ドレン、残液等の廃棄物処理対策は十分か

i 荷役設備の近くに、シャワー、洗眼設備等が設けられているか

(ニ) プロセス機器

a プロセス機器の選定に際しては、安全面での検討が行われているか

b プロセス機器は、オペレーターが監視又は措置しやすいように設置されているか

c プロセス機器は、誤操作防止のための人間工学的配慮がなされているか

d プロセス機器は、それぞれ詳細な点検項目を備えているか

e プロセス機器は、十分な安全制御ができるよう設計されているか

f プロセス機器の設計及び配置に当たりては、検査及び保全がしやすいように配慮されているか

g プロセス機器は、異常時において安全側に作動するようになっているか

h 検査及び保全計画は、十分かつ適正であるか

i 予備品は十分か

j 安全装置は、危険から十分保護されているか

k 重要設備の照明は十分か、また、停電時の予備照明も十分確保されているか

ハ その他

(イ) 緊急時に際して、消防、病院等の防災救急機関の支援体制は、確保されているか

(ロ) 消火活動のための体制は、整備されているか

(3) 定量的評価(第3段階)

定量的評価を行うに当たっては、プラントを数個のエレメントを含むブロックに分割し、各ブロックのあらゆるエレメントについて定量化を行い、これらエレメントの危険度のうち、最も大きいものを当該ブロックの危険度とする。

この定量化の方法としては、評価表(表-1)により、物質、エレメントの容量、温度、圧力及び操作の5項目についてA,B,C及びDの4段階に分類し、それぞれに点数を付与することにより、危険性の評価を行い、危険度として表すものである。すなわち、A(10点)、B(5点)、C(2点)及びD(O点)の各点数を与え、前記5項目に関してそれらの和を求め、次のように危険度のランク付けを行うものとする。

16点以上  ランクI 危険度が高い

11~15点  ランクII  周囲の状況、他の設備との関連で評価

1~10点  ランクIII  危険度が低いなお、毒性については、配点、危険度ランク付けは行わないが、「毒性を考慮すべきもの」については、種々の情報等を収集し、必要な対策を検討する。

(4) プロセス安全性評価(第4段階)

第3段階の危険度ランクがIのプラントについては、プロセス固有の特性等を考慮し、フォルト・トリー、HAZOP,FMEA手法等により、危険度ランクがIIのプラントについては、What-if手法等により、潜在危険の洗い出しを行い、妥当な安全対策を決定する。

また、危険度ランクがIIIに該当するプラントについては、第2段階での定性的評価で基本的対策がなされていることを確認し、さらに、プロセスの特性を考慮した簡便な方法で安全対策を再確認する。

(5) 安全対策の確認等(第5段階)

この段階では、第4段階における評価に基づき、設備的対策を確認するとともに、管理的対策についても検討した後、これまでの評価結果について最終的なチェックを行う。

イ 設備的対策

第4段階における評価の結果、明らかとなった暴走反応、圧カ上昇等プロセス

の潜在危険に対して、プラント全体として安全対策がとられていることを整理・確認するとともに、不測の事態により災害が発生した場合の拡大防止対策について検討する。

この際、これらの対策について、少なくとも表-2で示した危険度ランクに応じた安全対策がなされていることを確認する。

ロ 管理的対策

(イ) 適正な人員配置

化学プラントの人員配置は、緊急蒔に必要な措置が十分とれるものとし、また、関係法令に基づく必要な資格者の配置については、それらの者の職務の遂行が可能な組織とする。また、修理のための要員等の配置についても配慮する。

(ロ) 教育訓練

化学プラントの安全を確保するためには、オペレーター等関係者に対する知識、技能の向上を図ることが必要である。このため、プラントに関する知識教育、運転操作実技訓練、化学物質に関する教育等を繰り返し計画的に実施し、定期的にそれらの修得状況を把握するとともに、これらの知識、技能の伝承を確実に行う等関係者全員のレベルアッブを図る。

(ハ) 非定常作業

「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」等を参照し、非定常作業における対応マニュアルをあらかじめ策定し関係者に周知徹底する。

ハ 最終チェック

以上の評価を終了した段階で、これまでの評価結果を総合的に検討し、更に改善すべき箇所が発見されれば、設計内容、管理方法等に所要の修正を加え、当該プラントにおける安全性評価が完了していることを確認して評価を終わる。