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通達:労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について

 

労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について

平成10年2月16日基発第49号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

 

労働安全衛生規則の一部を改正する省令(平成一〇年労働省令第一号)は、本日公布され、平成一〇年六月一日から施行されることとなった。

今回の改正は、最近の土石流による労働災害の発生状況にかんがみ、同種災害防止対策の一層の充実を図るために行われたものである。

ついては、今回の改正の趣旨を十分理解し、関係者への周知、徹底を図るとともに、下記の事項に留意してその運用に遺漏のないようにされたい。

なお、土石流による労働災害防止の推進に当たっては、発注機関との連携が重要であることから、この点について特に配慮するよう申し添える。

 

第一 改正の要点

1 事業者は、降雨、融雪又は地震に伴い土石流が発生するおそれのある河川(以下「土石流危険河川」という。)において建設工事の作業(臨時の作業を除く。以下同じ。)を行うときは、次に掲げる措置を講じなければならないこととしたこと。

(1) あらかじめ、作業場所から上流の河川及びその周辺の状況を調査し、その結果を記録しておくこと。(第五七五条の九関係)

(2) あらかじめ、土石流による労働災害の防止に関する規程を定めること。その規程は、次の事項が示されており、かつ、(1)の調査で知り得たところに適応するものであること。(第五七五条の一〇関係)

イ 降雨量の把握の方法

ロ 降雨又は融雪があった場合及び地震が発生した場合に講ずる措置

ハ 土石流の発生の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置

ニ 土石流が発生した場合の警報及び避難の方法

ホ 避難の訓練の内容及び時期

(3) 作業開始前にあっては二四時間の降雨量、作業開始後にあっては一時間ごとの降雨量を把握し、その結果を記録すること。(第五七五条の一一関係)

(4) 降雨があったことにより土石流が発生するおそれがあるときは、監視人の配置等土石流の発生を早期に把握するための措置を講じること。ただし、速やかに作業を中止し、労働者を安全な場所に退避させたときはこの限りでないこと。(第五七五条の一二関係)

(5) 土石流による労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を安全な場所に退避させること。(第五七五条の一三関係)

(6) 土石流が発生した場合に関係労働者にこれを速やかに知らせるためのサイレン、非常ベル等の警報用の設備を設け、常時、有効に作動するように保持し、関係労働者に対し、その設置場所を周知させること。(第五七五条の一四関係)

(7) 土石流が発生した場合に労働者を安全に避難させるための登り桟橋、はしご等の避難用の設備を適当な箇所に設け、常時有効に保持し、関係労働者に対し、その設置場所及び使用方法を周知させること。(第五七五条の一五関係)

(8) 関係労働者に対し、工事開始後遅滞なく一回、及びその後六月以内ごとに一回、避難の訓練を行うこと。また、避難の訓練を行ったときは、実施年月日等を記録し、これを三年間保存すること。(第五七五条の一六関係)

2 建設業の元方事業者が、作業場所の安全の確保のために必要な措置を講じなければならない場所として、土石流が発生するおそれのある場所を加えることとしたこと。(第六三四条の二関係)

3 特定元方事業者は、土石流危険河川において建設工事の作業を行う場合において、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所で行われるときは、特定元方事業者及び関係請負人が行う避難の訓練について、その実施時期及び実施方法を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならないこととしたこと。また、特定元方事業者及び関係請負人は、避難の訓練を行うときは、統一的に定められた実施時期及び実施方法により行わなければならないこととしたこと。(第六四二条の二の二関係)

 

第二 細部事項

1 適用等

(1) 「土石流」とは、土砂又は巨れきが水を含み、一体となって流下する現象をいうものであること。

(2) 「河川」とは、河道及び河岸をいうものであること。河道とは、河川の流水が継続して存する土地をいい、河岸とは、地形、草木の生茂の状況その他の状況が河道に類する状況を呈している土地(洪水その他異常な自然現象により一時的に当該状況を呈している土地を除く。)をいい、天然の河岸のみならず、堤防等による人工の河岸が含まれること。

なお、河川については、流域全体(源流から河口まで)でなく、当該作業場所から上流側の部分(支川を含む。)について(3)に該当するか否かを検討する必要があること。

(3) 土石流危険河川とは、次のいずれかに該当する河川をいうものであること。

イ 作業場所の上流側(支川を含む。)の流域面積が〇・二km2以上であって、上流側(支川を含む。)の〇・二kmにおける平均河床勾配が3以上の河川

ロ 市町村が「土石流危険渓流」として公表している河川

ハ 都道府県又は市町村が「崩壊土砂流出危険地区」として公表している地区内の河川

(4) 「臨時の作業」とは、道路の標識の取替え、橋梁の欄干の塗装等の小規模な補修工事等、数日程度で終了する一時的な作業で、事業者が降雨、融雪又は地震に際して作業を行わないこととしているものをいうものであること。

2 調査及び記録(第五七五条の九関係)

(1) 本条は、土石流による労働災害の防止に関する規程を適切に策定するため、あらかじめ、調査を実施するとともに、その結果の記録を義務付けたものであること。

(2) 「河川の状況」とは、河川の形状、流域面積及び河床勾配を、「河川の周辺の状況」とは、作業場所に到達するおそれのある土石流の発生の端緒となる土砂崩壊等が発生するおそれのある場所における崩壊地の状況、積雪の状況等をいうものであること。

(3) 「調査」には、二万五千分の一又はそれ以上に詳細な地形図による調査、気象台、河川管理者、発注機関、付近の元方事業者等からの情報の把握及び作業場所周辺における測量調査等による調査が含まれるものであり、積雪の状況については、作業場所からの目視による調査も含まれるものであること。

3 土石流による労働災害の防止に関する規程(第五七五条の一〇関係)

(1) 本条は、土石流による労働災害を防止するため、土石流の発生の予知、発生の早期把握、警報、避難の一連の流れについて具体的に明らかにされていることが重要であることから、規程において各事業場において行う措置の具体的な内容をあらかじめ明示することを義務付けたものであること。

(2) 「降雨量の把握の方法」としては、事業者自ら又は他の事業者と共同で設置した雨量計による測定のほか、地方気象台により設置された地域気象観測システム(アメダス)、気象データ供給会社、河川管理者等(以下「アメダス等」という。)からの降雨量に関する情報の把握等、各事業場における具体的な降雨量の把握の方法が定められていなければならないこと。

(3) 「降雨があった場合に講ずる措置」としては、降雨があったことにより土石流が発生するおそれがあるときに、監視人の配置等土石流の発生を早期に把握するための措置又は作業を中止して労働者を速やかに安全な場所に退避させることが定められていなければならないこと。

(4) 「融雪があった場合に講ずる措置」としては、降雨に融雪が加わることを考慮して積雪の比重を積雪深の減少量に乗じて降水量に換算し降雨量に加算するなど、融雪を実際に把握した際に講ずる措置が定められていなければならないこと。

また、「融雪があった場合」とは、アメダス等からの積雪深の減少に関する情報、各地方気象台による雪崩注意報の発表、気温摂氏〇度以上の時間が継続していること等をいうものであること。

(5) 「地震が発生した場合に講ずる措置」としては、作業をいったん中止して労働者を安全な場所に退避させ、土石流の前兆となる現象の有無を観察するなど、地震を把握した際に講ずる措置が定められていなければならないこと。

また、「地震が発生した場合」とは、中震以上の地震が作業現場において体感された場合及びアメダス等からの情報により、作業場所から上流及びその周辺の河川における中震以上の地震を把握した場合等をいうものであること。

(6) 「土石流の発生の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置」としては、いったん作業を中止して前兆となる現象が継続するか否かを観察すること、土石流を早期に把握するための措置を講ずること等、土石流の発生の前兆となる現象を実際に把握した際に講ずる措置が定められていなければならないこと。

なお、「土石流の前兆となる現象」とは、土石流が発生した際に、帰納的に土石流との因果関係が推定されている現象であり、具体的には、河川の付近での山崩れ、流水の異常な増水又は急激な減少、山鳴り、地鳴り等の異常な音、湧水の停止、流木の出現、著しい流水の濁りの発生等をいうものであること。

(7) 「土石流が発生した場合の警報の方法」としては、警報の種類、警報用の設備の種類及び設置場所、これらを労働者に周知する方法及び警報用の設備の有効性保持のための措置が定められていなければならないこと。

(8) 「土石流が発生した場合の避難の方法」としては、避難用の設備の種類及び設置場所、これらを労働者に周知する方法及び避難用の設備の有効性保持のための措置が定められていなければならないこと。

4 把握及び記録(第五七五条の一一関係)

(1) 一般的に、土石流は、降雨等による水の供給を誘因として発生し、供給された水量の累積が一定限度を超えたときに発生の可能性が急激に高まるとされているため、土石流の発生の危険性を予測するために降雨量の累積を一定時間ごとに把握する必要があり、また、いったん供給された水量の累積が一定限度を超えた場合は、降雨が既に終了しているときにあっても、一定の時間が経過し、供給された水が地下深くに浸透又は流出して土石流の発生への寄与の度合いが小さくなるまで降雨量を把握する必要があること。このため、本条では、作業開始時にあっては測定時点の二四時間前から測定時点までの降雨量(以下「二四時間雨量」という。)を、作業開始後にあっては一時間ごとに各測定時点の一時間前から測定時までの降雨量(以下「時間雨量」という。)をそれぞれ把握することを義務付けたものであること。

(2) 作業開始後一時間ごとの時間雨量の把握は、各測定時点の時間雨量を各測定時点の二四時間前から測定時点の一時間前までの降雨量と合計し、各測定時点における二四時間雨量を把握することを目的とするものであること。

(3) 「雨量計による測定」には、事業者自らが工事事務所等に設置する雨量計による測定のほか、他の事業者と共同で設置する雨量計によるものを含むものであること。

(4) 「その他の方法により把握」には、アメダス等からの降雨量に関する情報を把握することを含むものであること。これらの方法による場合は、情報把握の即時性が確保されている必要があること。

5 降雨時の措置(第五七五条の一二関係)

(1) 本条は、降雨が一定の限度を超えたことにより土石流の発生の危険性が急激に高まったときに、監視人の配置等により、土石流の発生を早期に把握するための措置を講ずることを義務付けたものであること。

(2) 「降雨があったことにより土石流が発生するおそれがあるとき」とは、一定時間に一定以上の降雨があったことにより、土石流が発生する危険性が高まったときをいい、具体的には、各地方気象台の定める大雨注意報発令のための二四時間雨量の基準(以下「大雨注意報基準」という。)に達する降雨があった場合をいうものであること。

(3) 大雨注意報基準は、最低限守らなければならない基準であることから、事業者は、独自に大雨注意報基準を下回る二四時間雨量に係る降雨量の基準を使用することにより、降雨があったことによる土石流の発生のおそれを判断することができるものであること。また、事業者は、二四時間雨量に係る基準に加え、その他の降雨量(六時間雨量、連続雨量等)を用いた降雨量の基準を併用することもできるものであること。

(4) 「土石流の発生を早期に把握するための措置」には、監視人の配置の他に、ワイヤーセンサー等の土石流を検知するための機器(以下「土石流検知機器」という。)の設置が含まれるものであり、具体的には、ワイヤーセンサー、振動センサー、光センサー、音響センサー等があること。

(5) 監視人又は土石流検知機器は、河川の状況及び土石流の想定される流下速度を考慮し、すべての労働者を避難させることができる位置に配置又は設置すること。

6 退避(第五七五条の一三関係)

(1) 本条は、土石流による労働災害発生の急迫した危険を実際に把握した後に、直ちに作業を中止し、労働者を安全な場所に避難させることを義務付けたものであること。

(2) 「土石流による労働災害発生の急迫した危険があるとき」とは、土石流の発生が把握されたとき、土砂崩壊により天然ダムが形成されていることが把握されたとき等をいうものであること。

7 警報用の設備(第五七五条の一四関係)

(1) 本条は、土石流が発生したことにより労働災害の発生の危険があることを把握した際、これを関係労働者に速やかに知らせるため、警報用の設備の設置を義務付けたものであること。また、警報用の設備は緊急時に正常に作動することが重要であり、さらに、当該機械に応じて適切な保守が行われる必要があることから、これを常時、有効に作動するように保持しておかなければならないものとしたこと。

(2) 「警報用の設備」とは、サイレン、非常ベルのほか、携帯用拡声器、回転灯等又はこれらの併用など、事業場の規模と工事形態に応じ、すべての関係労働者に対して土石流の発生を速やかにかつ確実に伝えることのできる設備をいうものであること。

(3) 関係労働者に対する「周知」は、新規入場者教育時に行うほか、警報用の設備を新たに設置又は変更したとき等に、口頭のみならず掲示等により行うものであること。

(4) 「常時有効に作動するように保持する」とは、メーカーの指定する点検仕様等に基づいた点検を適切に行うこと等により、当初予定された性能を維持し、常に使用に耐える状態に保持することをいうものであること。

8 避難用の設備(第五七五条の一五関係)

(1) 本条は、土石流が発生したことにより労働災害の発生の危険があることを実際に把握した際に、労働者を安全な場所に避難させるための設備の設置を義務付けたものであること。また、避難用の設備は、緊急時に確実に使用可能であることが重要であり、また、工事の進捗に伴って適切な移設等を行う必要があることから、これを常時有効に保持しなければならないものとしたこと。

(2) 「避難用の設備」とは、事業場の規模と工事形態に応じ、登り桟橋、はしごのほか、仮設階段、河川堤防等の緩やかな斜面など、土石流の発生を把握してから土石流が到達するまでの間にすべての労働者を安全な場所に避難させることができるものをいうものであること。

(3) 関係労働者に対する「周知」は、新規入場者教育時に行うほか、避難用の設備を新たに設置又は変更したとき等に、口頭のみならず掲示等により行うものであること。

(4) 「常時有効に作動するように保持する」とは、工事の進捗に伴って適宜移設する等により、当初予定された性能を維持し、常に使用に耐える状態に保持することをいうものであること。

9 避難の訓練(第五七五条の一六関係)

(1) 本条は、土石流が発生したことにより労働災害の発生の危険があることを実際に把握した際に、すべての関係労働者が安全に避難できるために避難の訓練を適切に実施することを義務付けたものであること。

(2) 「作業開始後遅滞なく」とは、作業開始後、正当な、又は合理的な遅延が許される期間内に避難訓練を実施しなければならない旨を定めた趣旨であること。

(3) 「訓練の内容」には、工事の進捗状況、避難訓練実施時の労働者の作業状況、作業場所ごとの避難に要した時間、避難訓練実施後の改善措置の内容のほか、次回の避難訓練を行う際に参考となる事項を含むものであること。

10 法第二九条の二の労働省令で定める場所(第六三四条の二関係)

(1) 本条は、元方事業者及び関係請負人の労働者が混在して作業を行っている場合に、土石流による労働災害を防止するために必要な元方事業者の技術上の指導等を義務付けたものであること。

(2) 「土石流が発生するおそれのある場所(河川内にある場所であって、関係請負人の労働者に危険が及ぶ場所に限る。)」とは、土石流危険河川をいうものであること。

11 避難の訓練の実施方法等の統一等(第六四二条の二の二関係)

本条は、特定元方事業者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われるときは、土石流による労働災害を防止するために第五七五条の一六に定める避難の訓練を特定元方事業者及び関係請負人が統一して実施することが重要であることから、特定元方事業者に対して避難の訓練の実施時期及び実施方法の統一及び関係請負人の実施する避難の訓練に対する援助を、特定元方事業者及び関係請負人に対して統一的に定められたところにより避難の訓練を実施することをそれぞれ義務付けたものであること。