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鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドラインの策定について
平成9年3月24日基発第190号
(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)
鉄鋼生産設備に係る災害は、当該設備の保全的作業、トラブル対処作業等のいわゆる非定常作業において多数発生しており、非定常作業における災害の発生率は、定常作業に比較して、相当程度高い状況にある。
これは、非定常作業については日常的に反復・継続して行われることが少なく、かつ、十分な時間的余裕なく行われることが多いため、設備及び管理面の事前の検討が十分行われないこと、作業者が習熟する機会が少ないこと、また、作業が複数の部門にわたること等により災害につながることが多いことによるものと考えられる。
このため、今般、鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策について、別添のとおり「鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」を策定したところである。
ついては、関係事業者に対し、本ガイドラインの周知徹底を図り、鉄鋼生産設備の非定常作業における労働災害防止対策の推進に努められたい。
なお、関係団体に対し、別紙のとおり要請を行ったので了知されたい。
別添
鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン
1 目的
本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と相まって、鉄鋼生産設備(原料、製銑、製鋼、圧延、造管、鋳造、鍛造等に関する設備及びその附属設備をいう。以下同じ。)の非定常作業(日常的に反復・継続して行われることが少ない作業をいう。以下同じ。)における安全衛生対策として必要な措置を講ずることにより、鉄鋼生産設備の非定常作業における労働災害の防止を図ることを目的とする。
2 対象とする非定常作業
本ガイドラインの対象とする非定常作業は、次の作業とする。
(1) 保全的作業
不定期に又は定期的ではあるが長い周期で行われる設備の修理、手入れ、点検、検査等の作業
(2) トラブル対処作業
設備の運転中に発生する製品不良及び異常、不調、故障等設備のトラブルに対処する作業
(3) 設備立上作業
設備の新設、改造又は休止の後の通常運転に移行するまでの作業
(4) 試作・研究作業
製品開発、設備開発等を目的とした試作又は研究の作業
(5) 設備の新設・改造作業
設備の新設又は改造を行う作業
3 事業者の責務
鉄鋼生産設備の非定常作業を行う事業者は、本ガイドラインに基づき適切な措置を講ずることにより、鉄鋼生産設備の非定常作業における労働災害の防止に努めるものとする。
4 安全衛生管理の手順及び安全衛生管理体制の確立
非定常作業については、作業の目的、作業内容、作業に伴う災害要因とその対応措置の内容に応じて、あらかじめ以下のような安全衛生管理のための手順及び安全衛生管理体制を定め、それにより安全衛生管理を行う。
4―1 比較的規模の大きい作業の場合
例えば、保全的作業、設備立上作業、設備の新設・改造作業などのような比較的規模の大きな作業の場合には、次の(1)及び(2)に示す安全衛生管理の手順及び安全衛生管理体制を定め、作業の依頼、作業内容の確認、作業に伴う災害要因とその対応措置についての事前評価を的確に行い、作業の準備、作業の実施の各段階を通じ一貫して必要な措置を講ずる。
(1) 安全衛生管理の手順
イ 作業の依頼
作業を依頼する時は、作業を依頼する者(以下「依頼側」という。)は、施工方法、工期、費用等に関して安全衛生上の配慮をする。また、依頼側は、安全衛生上の注意事項について、作業を実施する者(以下「実施側」という。)と十分な連絡調整を図る。
ロ 作業内容の確認
作業の依頼が行われた時には、実施側は、作業が行われる現場において、原則として依頼側の立会いのもと危険な箇所、作業、物質等を含め作業内容についての事前確認を行う。
ハ 災害要因及び対応措置の事前評価の実施
事前確認を行った作業内容をもとに、実施側は依頼側から必要な情報の提供を受け、後記5の方法に従って当該作業に伴う災害要因を抽出し、当該災害要因に対応した安全衛生対策の事前評価を行う。
ニ 作業計画書の作成
実施側は、上記の事前評価の結果必要とされた安全衛生対策を盛り込んで、次の事項を内容とした作業計画書を作成する。また、作業計画の変更の必要が生じた場合には、作業を中止して作業計画書の見直しを行う。
なお、作業計画書は、予期されない作業を除き、すべての作業についてあらかじめ作成しておく。
(イ) 作業工程
(ロ) 指揮・命令系統
(ハ) 作業内容及び作業手順
(ニ) 各部門の業務分担及び責任範囲
(ホ) 災害要因及び対応措置の内容
(ヘ) 必要な保護具の種類と数
(ト) 許可を要する作業
(チ) 注意事項及び禁止事項
ホ 作業計画書の確認
依頼側及び実施側は、作業の関係者(関係請負人を含む。)に対し、後記(2)の連絡会議の場等を利用して作業計画書の内容の周知徹底を図るとともに、連絡会議等における取決め事項等を記録に残しておく。
ヘ 作業の実施
実施側は、業務分担及び責任範囲を明確にした安全衛生管理体制を定めるとともに、作業の実施に当たっては、作業計画書に基づいた適切な作業が行われるよう、作業の指示・連絡の徹底、作業場所の点検・巡視等各級管理者の職務の励行を図る。依頼側は、作業の準備及び実施に当たって実施側に対し必要な協力・援助を行う。
なお、作業の実施に当たっては、後記6の事項に留意する。
(2) 安全衛生管理体制の確立
実施側は、労働安全衛生関係法令に定めるほか、当該作業の内容及び規模、作業の形態、危険度等に応じ、以下のように、あらかじめ作業の総括責任者、部門責任者、作業指揮者、立会者等を定め、その業務分担及び責任範囲を明確にしておくとともに、作業が複数の部門にわたる場合には、連絡会議を設置する等により連絡調整の徹底を図る。依頼側は、前記の4―1の(1)に示すところにより、実施側に対し必要な協力、支援を行う。
また、作業を他社に依頼する場合には、元方事業者との連絡調整の徹底を図る。
イ 総括責任者
作業計画書を決定する等作業全般を統括する。また、連絡会議を主催する。
ロ 部門責任者
部門の責任者として当該部門の作業を統括する。また、立会者を指名する。
ハ 作業指揮者
部門責任者の指示に従い、作業計画書に基づく作業手順書を作成し、作業を指揮する。また、作業開始前に作業手順を、作業終了時に作業の実施結果を、それぞれ部門責任者に報告する。
ニ 立会者
火気使用作業、高所作業、重量物取扱作業等の危険性の高い作業について、作業の開始前及び終了時に立会い、必要な指示及び確認を行う。
ホ 連絡会議
総括責任者、部門責任者、作業指揮者等の実施側及び依頼側が参加し、作業計画書の検討立案、作業進捗状況等の連絡及び調整を行う。
4―2 軽微な作業で、作業の着手までに時間的余裕がない作業の場合
例えば、トラブル対処作業の中に見られるような軽微な作業で、作業の着手までに時間的余裕がない作業の場合には、前記4―1の(2)の部門責任者、作業指揮者及び立会者を中心として、次の(1)~(3)に示す安全衛生管理の手順(安全衛生管理体制を含む。)を定め、作業発生時の処置から作業の実施までを適切に行う。
(1) 作業発生時の処置
イ 作業の必要が生じたときは、部門責任者又は部門責任者に準ずる者(以下「部門責任者等」という。)に報告する。
ロ 部門責任者等は、当該作業の作業指揮者を指名し、当該作業の必要が生じた状況や作業の内容を確認させる。
なお、作業指揮者は、過去に行ったトラブル対処作業等をもとに、当該設備・機器の構成と機能及び分解作業手順等に関する一定の教育を受けた者又は当該作業に熟練した者の中から、部門責任者等があらかじめ指名しておくことが望ましい。
(2) 安全衛生対策の事前評価と作業手順書の作成
イ 作業指揮者は、部門責任者等の指示に従い、確認した作業内容をもとに後記5の方法に従って災害要因及び対応措置の事前評価を行い、その結果を踏まえ、動力源の遮断、隣接危険部の防護措置、残圧抜き等必要な安全衛生対策を盛り込んだ作業手順書を作成する。
ロ 部門責任者等は、火気使用作業、高所作業、重量物取扱作業等の危険性の高い作業については、立会者を指名する。
(3) 作業の実施
イ 作業指揮者は、作業手順書に従って作業を指揮する。
なお、複数の者により共同で実施する作業の場合には、作業指揮者はあらかじめ作業者各自の作業分担、責任範囲を明確にするとともに、作業の指揮・連絡方法を定めておく。
ロ 作業指揮者は、作業開始前に作業手順を、作業終了後に作業実施結果を、それぞれ部門責任者等に報告する。
なお、作業の実施に当たっては、後記6の事項に留意する。
5 災害要因及び対応措置の事前評価の方法
災害要因とこれに対応する措置についての事前評価に当たっては、同業他社も含め類似の工程又は作業で発生した事故・災害事例、当該作業に従事した経験のある者などからの情報の収集に努めるとともに、当該設備及び工程の特性、作業内容等を十分に検討の上、災害要因とこれに対応する措置について、法定事項の履行確保を含め事前評価を行う。
鉄鋼生産設備の非定常作業には、各種の災害要因と対応措置があるものと想定できるが、事前評価の際の参考例を次に挙げる。
(1) はさまれ、巻き込まれ
イ 動力源の遮断、施錠又は機械的ロックの取付け等による回転機器、移動機器等の誤動作の防止措置
ロ 可動部分への身体及び手指の接触防止措置
ハ 回転機器等の緊急停止スイッチの設置
ニ 組立又は解体作業における部材等の固定治具又は吊り具の使用
(2) 墜落、転落
イ 昇降設備、作業床、手すり等の墜落又は転落を防止するための設備の設置
ロ 不安定な作業姿勢を避ける措置
ハ 移動式足場、架台等の安定性を確保するための措置
ニ 危険箇所への立入禁止措置
ホ 親綱又は墜落防止ネットの取付け設備の設置
ヘ 安全帯の着用及び適切な使用
(3) 高熱物等との接触等
イ 高熱物の除去又は漏えい防止措置
ロ バルブ、フランジ等を開放する際の高温物の流出防止措置
ハ 高熱物又は高温部分への接触防止措置
ニ 保護具の着用及び適切な使用
ホ 適度な通風や冷房を行う設備の設置等熱中症予防のための措置
(4) 水蒸気爆発
イ 高熱物と接触する耐火物、器具等の水分の除去
ロ 高熱物を排出する時は、付近に水が滞留していないこと及び高熱物の出湯口と受入れ容器との位置関係が適切であることの確認
ハ 給排水用の配管等に漏えいのおそれ等の異常のないことの確認
ニ 高熱の鉱さい処理時における水との接触防止措置
(5) 飛来、落下
イ 物を高所から投下する際の専用の投下設備の使用又は監視人の配置
ロ 物が落下する危険のあるときの防網の設置及び立ち入ることのできる区域の設定
ハ 物が飛来する危険のあるときの飛来防止措置の徹底及び保護具の使用
ニ 保護帽の着用
(6) 酸素欠乏症及びガス中毒
イ 作業開始前の酸素濃度及び有害ガス濃度の測定
ロ 有害ガス等の除去、漏えい防止又は換気の措置
ハ 空気呼吸器、送気マスク等の呼吸用保護具の準備及び適切な使用
ニ 監視人の配置
ホ 酸素欠乏危険場所及びガス中毒を生ずるおそれのある場所への関係者以外の立入禁止措置
(7) 酸・アルカリ等との接触
イ 空気呼吸器、送気マスク等の呼吸用保護具の準備及び適切な使用
ロ 不浸透性の保護衣、保護手袋、飛沫防止用保護面等の保護具の着用
6 作業の実施に当たっての留意事項
非定常作業は、次の事項に留意して実施する。
(1) 実施に当たっての基本方針
イ 業務分担及び責任範囲の明確化
ロ 指揮・命令系統の明確化
ハ 作業内容及び作業手順の明確化
ニ 連絡及び合図の方法の周知徹底
ホ 注意事項及び禁止事項の周知徹底
ヘ 作業中の安全衛生の確認
(2) 一般的留意事項
イ 作業の準備段階で次の措置を講じる。
(イ) 作業に使用する工具、用具、仮設機材等の点検整備
(ロ) 必要な掲示・表示の設置
(ハ) 資格又は安全衛生教育の修了を必要とする作業への有資格者の配置の確認
(ニ) 作業の種類に応じ、呼吸用保護具、保護手袋、保護衣、保護めがね等の保護具の用意
ロ 作業開始前に、作業場所及びその周辺の危険箇所に対して必要な安全衛生のための措置が確実に実施されているか確認する。
ハ 設備を停止して行う作業の場合には、当該設備及び隣接する設備の動力源を確実に停止するとともに、スイッチ、バルブ等の二重遮断、施錠等の誤操作防止措置を講ずる。
ニ 作業開始前に、ツールボックスミーティング等において、作業手順書及び作業計画書(以下「作業手順書等」という。)に基づいて次の事項を周知徹底する。
(イ) 作業手順書等に基づく作業内容
(ロ) 指揮・命令系統と作業の分担
(ハ) 連絡及び合図の方法
(ニ) 注意事項及び禁止事項
(ホ) 危険予知(KY)の励行
ホ 単独で行うことを禁止又は制限する作業の範囲を明確にし、当該作業については、各人の判断による単独作業を実施させない。
また、単独で行うことを禁止又は制限する作業以外の作業について、単独作業を実施させる場合には、必要に応じ、作業指揮者又は作業指揮者に準ずる者(以下「作業指揮者等」という。)との間で随時連絡がとれるように通信機器等を携帯させ、若しくは連絡装置を設置する。
ヘ 作業者は、作業中に、事前に予測のできなかった新たなトラブル等により作業手順の大幅な変更が生じた場合には、作業を中止して、作業指揮者等及び部門責任者等に報告する。作業指揮者は、部門責任者等の指示に従い、トラブル等の内容を確認して、新たな作業手順書を作成する。
ト 作業中は、部門責任者等の巡回点検等により、作業手順書等に基づく安全衛生のための措置が講じられているか確認する。
(3) 作業許可
火気使用作業、高所作業等の災害発生の危険性の高い作業は、許可制とし、あらかじめ部門責任者による許可を必要とする。また、作業指揮者等による作業の指揮の徹底を図るとともに、作業の開始前及び終了時には、立会者の立会いのもと必要な指示及び確認を行わせる。
イ 作業許可書には、次の事項を記載する。
(イ) 部門責任者、作業指揮者、立会者、監視人及び作業者の氏名
(ロ) 作業に伴う危険内容及び措置内容
(ハ) 注意事項及び禁止事項
(ニ) 作業年月日、作業開始時刻及び終了予定時刻
ロ 作業内容の変更が必要な場合は、新たに作業許可を受ける。また、予定時間内に作業が終了しなかった場合は、改めて許可を受ける。
ハ 作業中は、作業場所に作業許可書を掲示する。
7 緊急事態への対応
爆発火災事故、労働災害の発生等の緊急事態が生じた場合に対応するため、次の措置を講ずる。また、これらの措置は、緊急事態対応マニュアルなどとして定め、関係者に周知する。
(1) 緊急時の対応手段及び指揮命令系統を明確に定める。
(2) 緊急時の連絡先及び連絡手段を明示した連絡ルート図を作成し、作業場所又は作業場所近くに常備する。
(3) ガス検知・警報設備及び消火設備等を常設する。また、定期点検を行う。
(4) 救急用具を設置場所を明示して常設する。また、定期点検を行う。
(5) 緊急時の避難場所及び避難通路を定め、関係者に容易に周知できるような場所に明示する。
(6) 緊急事態を想定した避難訓練、負傷者に対する救急措置訓練を定期的に実施する。
8 安全衛生教育の実施
非定常作業に従事する作業者等の関係者に対し、あらかじめ次の事項について必要な安全衛生教育を実施する。実施に当たっては、災害の怖さを模擬的に体験させることや視聴覚教材を使用すること等により教育の効果が上がるよう工夫する。
(1) 製造工程及び鉄鋼生産設備の概要
(2) 作業及び緊急事態対応マニュアルの内容
(3) 作業許可を必要とする作業の種類、注意事項及び禁止事項
(4) 保護具の種類及び使用方法
(5) 類似作業の災害事例
(6) 事業場の安全衛生基準及び関連法規
別紙
鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドラインの策定について
平成9年3月24日基発第190号の2
社団法人日本鉄鋼連盟会長、日本鋳鍛鋼会会長、社団法人日本鋳物工業会会長、日本フェロアロイ協会会長、亜鉛鉄板会理事長、全国伸鉄工業組合理事長、普通鋼電炉工業会会長あて労働省労働基準局長通達)
労働基準行政の推進につきましては、日頃より格別の御配慮を賜り厚くお礼申し上げます。
さて、鉄鋼生産設備に係る災害は、当該設備の保全的作業、トラブル対処作業等のいわゆる非定常作業において多数発生しており、非定常作業における災害の発生率は、定常作業に比較して、相当程度高い状況にあります。
これは、非定常作業については日常的に反復・継続して行われることが少なく、かつ、十分な時間的余裕なく行われることが多いため、設備及び管理面の事前の検討が十分行われないこと、作業者が習熟する機会が少ないこと、また、作業が複数の部門にわたること等により災害につながることが多いことによるものと考えられます。
このため、今般、鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策について、別添のとおり「鉄鋼生産設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」を策定したところであります。
つきましては、本ガイドラインの趣旨を御理解の上、貴会会員事業場に対し、本ガイドラインの周知徹底を図られたくお願い申し上げます。
(別添省略)