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労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行について
昭和63年9月16日発基第84号
(都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)
労働安全衛生法の一部を改正する法律は、昭和六三年五月一七日、法律第三七号として公布され、同年一〇月一日(安全衛生推進者等に係る部分及び建設工事等の計画作成時における有資格者の参画に係る部分は、昭和六四年四月一日)から施行されることとなつた。
ついては、左記の事項について十分留意の上、その運用に万全を期されるよう、命により通達する。
記
第一 労働安全衛生法の改正の経緯及び趣旨
最近における労働災害の発生状況をみると、逐年減少を示してきているものの、その一方で、死傷者数は年間八〇万人にものぼり、死亡者数も年間約二、三〇〇人と依然として高い水準にある。しかも、最近は、労働災害の減少傾向に鈍化がみられ、重大災害も多発している。また、労働災害の多くは中小規模事業場で発生しており、中小規模事業場の労働災害発生率は依然として高い水準で推移している。さらに、建設業における労働災害発生率が高いほか、機械設備に起因する労働災害も多く、職業性疾病も跡を絶たない状況にある。
他方、高齢化の進展に伴う高年齢労働者の労働災害の多発、技術革新及びサービス経済化の進展に伴う労働環境、作業態様等の急速な変化がもたらすストレスによる労働者の心身両面での健康問題等新たな問題が生じている。
このような情勢にかんがみ、労働省としては、昭和六三年一月に行われた中央労働基準審議会の「労働安全衛生法令の整備について」の建議を踏まえ、中小規模事業場等の安全衛生管理体制の整備、労働者の健康の保持増進のための措置の充実等を図ることとし、同審議会に「労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱」を諮問し、その答申を受け国会の審議を経て、今回の改正となつたものである。
第二 労働安全衛生法の改正の主な内容
一 安全衛生管理体制の充実
(一) 安全衛生推進者等(第一二条の二関係)
労働災害の発生状況をみると、安全管理者及び衛生管理者の選任が義務付けられていない中小規模事業場における労働災害の発生率が大規模事業場に比べて格段に高くなつており、また、中小規模事業場においては、労働災害防止のための取組みが必ずしも十分とはいえない状況にある。
このような状況にかんがみ、中小規模事業場の安全衛生水準の向上を図るため、その安全衛生管理体制を整備することとし、事業者は、安全管理者の選任を要する事業場及び衛生管理者の選任を要する事業場以外の事業場で、一定の規模のものごとに、安全衛生推進者(安全管理者の選任を要する業種以外の業種の事業場にあつては、衛生推進者)を選任し、その者に、事業場における安全衛生に係る業務(衛生推進者にあつては、衛生に係る業務に限る。)を担当させなければならないこととしたこと。
(二) 衛生委員会等の充実(第一八条及び第一九条関係)
今回の改正により、事業者は労働者の健康の保持増進のための措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならないこととされたが、当該措置が事業場において効果的に行われるためには、労働者の意見が反映されるとともに、関係者による継続的な審議の場を通じての継続的かつ計画的な取組みが必要である。
そこで、衛生委員会の調査審議事項に、労働者の健康の保持増進に関することを加えることとしたこと。
また、これに伴い、産業医の専門的な見地からの意見を十分に取り入れる体制を整備するため、産業医のうちから事業者が指名した者を、衛生委員会及び安全衛生委員会の構成員とすることとしたこと。
(三) 安全管理者等に対する能力向上教育(第一九条の二関係)
技術革新の進展等近年の社会経済情勢の変化は短時日に急激に進んでおり、これに伴い、職場の安全衛生面において、新たな機械設備・化学物質の増加、新たな労働災害の発生等の課題が生じている。
そこで、安全衛生管理体制の中核となる者が新たな知識・技能を取得することができるようにするため、事業者は、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者等に対し、その業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならないこととしたこと。また、労働大臣は、これらの教育、講習等の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することとしたこと。
二 機械等及び化学物質に関する規制の充実
(一) 機械等に係る命令制度(第四三条の二関係)
一定の危険を有する機械等については、これによる危険を防止するため、労働大臣の定める規格又は安全装置を具備させる等により、製造、譲渡等に制限を加えているところである。しかしながら、実際には規格等を具備しない機械等が流通、使用され、これによる労働災害が少なからず生じている。
このような状況にかんがみ、現行法規制の徹底を図ることに加えて、使用する者が規格等を具備していないことを確認することができないような機械等について、労働大臣又は都道府県労働基準局長は、当該機械等を製造し、又は輸入した者に対し、当該機械等の回収又は改善を図ることその他当該機械等が使用されることによる労働災害を防止するため必要な措置を講ずることを命ずることができることとしたこと。
(二) 化学物質の有害性の調査の充実(第五七条の二第一項関係)
化学物質の有害性の調査については、OECDが、加盟各国に対して試験手法に関する基準としてのテストガイドライン及び試験施設等が具備すべき基準としての優良試験所指針(GLP)を採用すべきことを勧告し、またGLPに合致した施設においてテストガイドラインに従つて得られた化学物質の安全性に関するデータを加盟各国間で相互に受容すべきことを決定している。
このような国際的な動向を踏まえ、新規化学物質の有害性の調査の信頼性を法的に確保するため、新規化学物質を製造し、又は輸入しようとする事業者は、当該新規化学物質の有害性の調査を行うに当たつては、別途労働省令で定めるところにより、労働大臣の定める基準に従つて行わなければならないこととしたこと。
三 健康の保持増進のための措置
(一) 作業環境測定の結果の評価等(第六五条の二関係)
従来、事業者は、作業環境測定の結果、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、施設の設置等の措置を講じなければならないこととしていたが、より適切に作業環境改善の措置を実施させるため、今回の改正により、労働大臣が客観的な測定結果の評価基準を定めることとし、事業者は、当該基準に従つて測定結果を適正に評価し、その評価の結果に基づいて、施設又は設備の設置又は整備、健康診断の実施等の適切な事後措置を講じなければならないこととしたこと。
(二) 作業の管理(第六五条の三関係)
職場における労働者の健康の保持増進を図るためには、①作業環境を良好な状態に維持管理すること(作業環境の管理)、②作業を適切に管理すること(作業の管理)、③労働者の健康状態を的確に把握し必要な措置を講ずること(健康の管理)の三つが総合的に機能することが必要である。
このうち、②の「作業の管理」については、従来の労働安全衛生法において必ずしも条文上、明確に位置付けられていなかつたため、これを明らかにし、前述の三管理が総合的に推進されることにより労働者の健康の保持増進が図られることを明確にするため、事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならないこととしたこと。
(三) 健康教育等(第六九条及び第七〇条の二関係)
イ 高齢化の進展に伴う高年齢労働者の運動機能等の低下を原因とする労働災害の増加、技術革新による職場環境の急激な変化に伴うストレス、職場不適応等心の健康問題の発生等職場の安全衛生面に新たな課題が生じている。このような状況の下で職場における労働者の安全と健康を確保するためには、事業者によつて講じられている措置を、これまでの健康障害を防止するという観点から、更に進んで心身両面にわたる健康の保持増進を目指したものに充実することが必要である。
そこで、従来の労働安全衛生法で規定されていた体育活動等についての便宜供与等に加えて、事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならないこととしたこと。(第六九条第一項関係)
ロ 事業者が講ずる健康教育、健康相談等の措置は、危険有害要因の除去のための措置とは異なり、その性質上、労働者自身の努力なくしては予期した効果を期待できないものであることから、この趣旨を明確にするため、労働者は、事業者が講ずるイの措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとしたこと。(第六九条第二項関係)
ハ 労働大臣は、事業者が講ずるイの措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するとともに、この指針に従い、事業者又はその団体に対し必要な指導等を行うことができることとしたこと。(第七〇条の二関係)
(四) 国の援助の充実(第七一条関係)
労働者の健康の保持増進に関する措置を充実させたことに伴い、国は、当該措置の適切かつ有効な実施を図るため、資料の提供、作業環境測定及び健康診断の実施の促進、事業場における健康教育等に関する指導員の確保及び資質の向上その他必要な援助に努めることとしたこと。また、国は、この援助を行うに当たつては、中小企業者に対し、特別の配慮をすることとしたこと。
四 建設業等における労働災害防止対策の充実
(一) 計画の届出制度の充実(第八八条第五項関係)
第八八条に基づく工事の計画の届出状況をみると、建設物又は機械等の設置等に係る工事の計画の中に同条に基づき計画変更の命令、勧告等を受けた比率が著しく高いものがある。このような工事については、事業者自らが工事の安全性を十分に精査することが前提になければ真の安全確保を図ることはできない。
そこで、これらの工事については、その計画の作成に当たり一定の資格を有する者を参画させなければならないものとして追加することとしたこと。
(二) 発注者等に対する勧告又は要請(第八八条第八項及び第九八条第四項関係)
発注者が労働安全衛生法違反となるような発注条件を付し、それに基づき事業者が工事を行う場合が少なからずある。このような場合、事業者に対し工事差止命令等を発することだけでは、事業者が命令に基づき改善措置を講ずるに当たつて、発注者の付する発注条件を変更するために時間を要し、迅速な改善措置の実施が困難な場合もある。また、今後、発注者が同様の発注条件を付さないことについて十分に注意を喚起することはできない。
そこで、労働大臣、都道府県労働基準局長又は労働基準監督署長は、労働安全衛生法第八八条第七項又は第九八条第一項の規定に基づき工事差止命令等の命令をした場合において、必要があると認めるときは、当該命令に係る工事の発注者等に対し、労働災害の防止に関する事項について必要な勧告又は要請を行うことができることとしたこと。
五 その他
(一) 技術上の指針の整備(第二八条第二項関係)
中高年齢者の労働災害の発生率が高い現状にかんがみ、中高年齢者の労働災害防止対策を各事業場において確立させるため、労働大臣は、技術上の指針を定めるに当たつては、中高年齢者に関して、特に配慮することとしたこと。
(二) 安全衛生教育の充実(第六〇条の二関係)
技術革新の進展に伴う新規の機械等の導入や作業態様の変化等に対応して、危険又は有害な業務に現に就いている者が、特別教育に限らず、新たな知識、技能を取得することができるようにするため、事業者は、これらの者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うように努めなければならないこととしたこと。また、労働大臣は、この教育の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することとしたこと。