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下水道工事等における酸素欠乏症及び硫化水素中毒等の防止対策の徹底について
昭和62年7月6日基発第413号
(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)
酸素欠乏危険場所における酸素欠乏症及び硫化水素中毒、自然換気が不十分な場所における内燃機関の排気ガスによる一酸化炭素中毒、通風が不十分な場所に備える消火設備に用いる炭酸ガスによる酸素欠乏症(以下「酸素欠乏症等」と総称する。)の防止については、従来からこれらの対策の徹底を指示してきたところであるが、最近においてこれらの重大災害等が別添1のとおり相次いで発生し、多数の死傷者が生じており、社会的にも重大な関心が寄せられているところである。
これらの災害は、市街地における下水道整備事業の進展に伴い、下水道工事において多く発生している。また、その原因を見ると関係事業者及び関係労働者並びに工事の発注者が酸素欠乏危険場所について十分な認識を有していないこと、酸素欠乏症等の原因及び防止措置等についての理解が十分でないこと等の問題点が認められるところである。
ついては、例年夏季には酸素欠乏症及び硫化水素中毒が発生しやすいことにも留意のうえ、酸素欠乏症等防止規則、労働安全衛生規則等に規定している事項等のうち、特に下記事項について、関係事業者その他の関係者に対し、下水道工事業、清掃業等の業種業態に応じて、監督指導、地方公共団体との連絡協議の場等あらゆる機会をとらえて、周知徹底を図られたい。
なお、この件に関しては、別添2のとおり、建設業労働災害防止協会に対して建設業者に対する指導等を依頼してあるので申し添える。
記
1.酸素欠乏危険場所の認識の徹底
災害の発生状況等をみると、当該場所が酸素欠乏症又は硫化水素中毒にかかるおそれのある場所であるとの認識に欠けていることが最も大きな問題であると考えられるので、労働安全衛生法施行令別表第6第3号の3及び第9号に掲げる場所については、当該場所における酸素濃度及び硫化水素濃度の如何にかかわらず、当該作業場所における作業は、第2種酸素欠乏危険作業であること並びに労働安全衛生法施行令別表第6第1号、第3号、第4号及び第11号に掲げる場所における作業については、当該場所における酸素濃度の如何にかかわらず、当該作業場所における作業は、第1種酸素欠乏危険作業であることを事業者及び関係労働者に周知徹底させること。
2.自然換気が不十分な場所における内燃機関の使用禁止の徹底
坑、井筒、潜函、タンク又は船倉の内部その他の場所で、自然換気が不十分なところにおいて、内燃機関を有する機械を使用することの禁止を徹底させること。
3.不活性ガスを使用する消火設備等に係る措置の徹底
地下室、機関室、船倉その他通風が不十分な場所に備える消火器又は消火設備で炭酸ガス等の不活性ガスを使用するものにあっては、次の措置を講じさせること。
イ 労働者が誤って接触したことにより、容易に転倒し、又はハンドルが容易に作動することのないようにすること。
ロ みだりに作動させることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示すること。
ハ 炭酸ガス等の不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備作業を行う場合には、次の措置を講ずること。
(イ) 作業の方法及び順序を決定し、あらかじめ、これを作業に従事する労働者に周知すること。
(ロ) 不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備について必要な知識を有する者のうちから指揮者を選任し、その者に当該作業を指揮させること。
(ハ) 消火設備等の配管の系統及び開放すべきバルブ若しくはコック又は閉止すべきバルブ若しくはコックについて、作業に従事する労働者に周知すること。
(ニ) (ハ)の閉止したバルブ若しくはコックには施錠し、又は開放してはならない旨を見やすい箇所に表示すること。
(ホ) 万一、不活性ガスが噴出した場合には、直ちに避難することができるように、避難通路を確保すること。
4.発注者である地方公共団体に対する指導の徹底
近年における下水道の整備の進展に伴い、既設の下水道に隣接して下水道工事等が行われることが多くなっていることにかんがみ、発注者から工事の状況の把握に努めるとともに、地方公共団体との連絡協議の場、集団指導等において、工事発注者に対して、上記の対策を含め酸素欠乏症及び硫化水素中毒防止に係る安全衛生基準の周知徹底を図ること。
別添
1.下水堰き止め用の角落し作業中に発生した硫化水素中毒
(1) 発生日時 昭和62年3月30日 午前9時35分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡1人 重症5人
(4) 発生状況
事故のあった立坑は、下水道拡張整備工事区間にある4つの立坑のうち、上流から2番目のものであるが、本工事は、既に完了しており、No2立坑まで汚水を通し「角落し」という遮水壁で汚水の堰き止めがなされていた。災害発生当日の作業は、汚水を堰き止めている角落しを撤去して、下流の新設ポンプ所まで汚水を到達させることであった。
事故発生時、No2立坑には下請作業者9人、元請職員2人、発注者職員2人、その他1人の14人が入っていたが、上から3本目の角落しを撤去したところ、角落し越しに汚水が立坑内に落下して、大量の硫化水素ガス(事故1時間半後の測定で118ppm)が発生した。坑内に入っていた者のうち8人は脱出したが、6人が坑内に取り残されて被災した。
図1 下水道断面図
(5) 発生原因
滞留していた汚水を堰き止めていた角落しを撤去したため、汚水中の硫化水素が発生したため。
(6) 防止対策
イ 酸素及び硫化水素の濃度の測定の実施
ロ 十分な換気の実施
ハ 作業者に対する酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に関する特別の教育の実施
ニ 酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に係る作業主任者の選任及びその職務の励行
ホ 作業状況の常時監視等による異常の早期発見及び退避
2.下水道マンホール浚せつ及び変状調査の作業で発生した硫化水素中毒
(1) 発生日時 昭和62年4月13日 午後2時20分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡1人
(4) 発生状況
災害発生当日は、既設の下水道マンホール浚せつ及び変状調査の作業を行うため、まず、下水管の上流側を「角落し」で堰き止め、さらに、160m下流側の下水管を角落しで堰き止めて、マンホールの中に水中ポンプを入れ、下水を汲み上げ、中が空になってからマンホール内に入り、下水管内に堆積した土量(汚泥)の調査を行い、バキューム等を使用して、管内の浚せつ及び清掃を行い、最後に下水管内のクラック、変位等について変状調査を行う予定であった。
汚水汲み上げ作業開始後1時間して、被災者が深さ13mの立坑マンホールに入り、深さ11~12m付近で水中ポンプを固定した後マンホール内のステップを上がる途中で、マンホール底部に転落し被災した。
事故後(約1時間50分後)の測定によれば、マンホール内(地上から深さ8mの地点)の硫化水素濃度は、35ppmであった。
(5) 発生原因
汚水から発生した硫化水素がマンホール内に滞留していたことを知らずその内部で作業をしたため。
図2 下水道マンホール断面図
(6) 防止対策
イ 酸素及び硫化水素の濃度の測定の実施
ロ 十分な換気の実施
ハ 作業者に対して、酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に関する特別の教育の実施
ニ 酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に係る作業主任者の選任及びその職務の励行
ホ 作業状況の常時監視等による異常の早期発見及び退避
3.簡易水道取水槽内にガソリン発動式ポンプを持ち込み、作業中に発生した一酸化炭素中毒
(1) 発生日時 昭和62年5月15日 午後1時20分頃
(2) 発生場所 北海道
(3) 被災状況 死亡3人 重症1人
(4) 発生状況
簡易水道の取水槽(内径3m、深さ4.1mのコンクリート製円筒)の鉄製マンホール部をFRP製に取り替え、槽内の清掃を行う目的で、槽外に設置した小型水中ポンプで水を予定水位まで排水した後、槽底部分の水を排水するためにガソリンポンプを槽内に持ち込み始動させて作業を行っていたところ、槽内にいた4人が被災した。
後日再現実験を行い気中ガス濃度測定を行った結果は下表のとおりであった。
なお、一般に、一酸化炭素濃度が0.3%(3,000ppm)程度の空気中に人が居た場合には3分程度で死亡するとされている。
図3 簡易水道取水槽断面図
表1 貯水層内部測定データ
条件 |
O2% |
H2Sppm |
COppm |
CO2PPm |
槽内部の常態 |
19.8 |
0 |
不検出 |
5,800 |
エンジン始動 |
|
|
|
|
10分経過 |
18.6 |
4.5 |
2,400 |
6,000 |
20分経過 |
18.6 |
9.9 |
8,000 |
7,000 |
30分経過 |
17.8 |
11.1 |
15,600 |
8,000 |
(5) 発生原因
通気の不十分な簡易水道取水槽内で、換気をせずに、ガソリン発動式ポンプを使用したことにより一酸化炭素が発生したため。
(6) 防止対策
イ 自然換気が不十分な場所における、内燃機関を有する機械の使用の禁止の徹底
ロ 労働者に対する、内燃機関による一酸化炭素中毒の防止に関する教育の徹底
4.ビル地下駐車場における消火設備より噴出した二酸化炭素による酸素欠乏症
(1) 発生日時 昭和62年6月9日 午前10時30分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡3人 軽症2人
(4) 発生状況
消火設備の点検整備業者の労働者である2人は、午前9時30分頃から、業務発注先のビル地下1階にある二酸化炭素消火設備の点検作業にとりかかった。点検作業の手順は、①起動容器と選択弁を結ぶコントロールパイプの遮断、②選択弁と二酸化炭素ボンベを結ぶコントロールパイプの遮断、③窒素ガスボンべとコントロールパイプを接続し、窒素ガスを放出することで選択弁が確実に作動するかの点検である。
作業者が持参した窒素ガスボンベとコントロールパイプを接続し、窒素ガスを開放したところ、コントロール管を通して窒素ガスの圧力が二酸化炭素ボンベ(45kg)のガス加圧容器弁開放器に加わり、これらのボンベ22本より、二酸化炭素が噴出したため、上記の2人の作業員の他ガードマン1人の3人が死亡、その他の居合わせた2人が被災したものである。
図4 事故発生時の消火設備の主要機器の構成
(5) 発生原因
消火設備の点検作業中に配管を誤ったため、ビル地下室内に二酸化炭素が噴出したため。
(6) 防止対策
イ 作業方法及び作業手順の決定及びこれらの関係労働者に対する周知徹底
ロ 不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備について十分な知識を有する者の指揮者としての選任
ハ 二酸化炭素ガスが噴出した時の避難措置の確保
別添2
○下水道工事等における酸素欠乏症及び硫化水素中毒等の防止対策の徹底について
昭和62年7月6日基発第413号の2
(建設業労働災害防止協会長あて労働省労働基準局長通知)
酸素欠乏危険場所における酸素欠乏症及び硫化水素中毒、自然換気が不十分な場所における内燃機関の排気ガスによる一酸化炭素中毒並びに通風が不十分な場所に備える消火設備に用いる炭酸ガスによる酸素欠乏症(以下「酸素欠乏症等」と総称する。)の防止については、従来からその防止対策の徹底を図ってきたところでありますが、最近においてこれらの重大災害等が別添のとおり相次いで発生し、多数の死傷者が生じていることは誠に遺憾に堪えないところであります。
これら災害は、市街地における下水道整備事業の進展に伴い、下水道工事において多く発生しており、また、その原因を見ると、関係事業者及び関係労働者並びに工事の発注者が酸素欠乏危険場所について十分な認識を有していないこと、酸素欠乏症等の原因及び防止措置等についての理解が十分でないこと等にあるものと認められるところであります。
ついては、例年夏季には酸素欠乏症及び硫化水素中毒が発生しやすいことにも留意のうえ、酸素欠乏症等防止規則、労働安全衛生規則等に規定している事項等のうち、特に下記事項について、貴会傘下の関係事業者その他の関係者に対し、周知徹底方を要請します。
記
<編注:本通達の記と同じ為略>