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有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令の施行について
昭和53年12月25日基発第707号
(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)
有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令(昭和五三年労働省令第四一号。以下「改正規則」という。)は、昭和五三年一〇月九日に公布され、昭和五四年三月一日から施行されることとなつた。
今回の改正は、設備及び保護具関係の規定について行つたものであり、先に公布された労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(昭和五三年政令第二二六号)及び有機溶剤中毒予防規則等の一部を改正する省令(昭和五三年労働省令第三二号)と一体となつて運用されなければならないものである。
ついては、関係者への周知徹底を図るとともに、特に左記の事項に留意して、その運用に遺憾のないようにされたい。
なお、改正規則の施行に伴い、昭和三五年一〇月三一日付け基発第九二九号通達の記の第三の四、六及び八、第四の一の(1)及び四の(1)並びに第六の一の(4)を削除し、同通達記の第三の五の(5)中「これらの業務が」の下に「一般に有機溶剤の蒸気の発散面が広いか否かの判断が容易であるばかりでなく、」を加え、同通達記中「ホースマスク」を「送気マスク」に改め、昭和三六年八月三〇日付け基発第七六九号通達の有機溶剤中毒予防規則第一三条の許可に係る部分を削除し、昭和五三年八月三一日付け基発第四七九号通達の記の第二のⅡの二の(4)のなお書きを「なお、屋内作業場が第七条に該当する場合は、当該屋内作業場の空気を外気とみなして差し支えないこと。」に改める。
記
第一 改正の要点
1 第一種有機溶剤等又は第二種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行う場合に局所排気装置等の設備の設置、保護具の使用等の措置を講じなければならない場所を、屋内作業場等に拡大したこと(第五条、第三二条、第三三条関係)。
2 第二種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行う作業場所に設けなければならない設備を、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置に改めたこと(第五条関係)。
3 第三種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行う場合に局所排気装置等の設備の設置、保護具の使用等の措置を講じなければならない場所を、タンク等の内部に拡大したこと(第六条、第三二条、第三三条関係)。
4 周壁の二側面以上が開放されていること等の一定の条件に該当する屋内作業場に係る設備の適用除外については、所轄労働基準監督署長の許可を要しないものとしたこと(第七条関係)。
5 屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所においては、当該場所における有機溶剤業務に要する時間が短時間であり、かつ、全体換気装置を設けたときは、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備及び局所排気装置を設けなくてもよいこととしたこと(第九条関係)。
6 局所排気装置のダクトについての要件を定めたこと(第一四条関係)。
7 空気清浄装置を設けた局所排気装置の排風機の位置についての特例を設けたこと(第一五条関係)。
8 局所排気装置、全体換気装置又は排気管等の排気口を直接外気に向つて開放しなければならないこととしたこと(第一五条の二第一項関係)。
9 空気清浄装置を設けていない局所排気装置又は排気管等の排気口は屋根から一定の高さを必要とすることとしたこと(第一五条の二第二項関係)。
10 局所排気装置の制御風速を有機溶剤等の区分にかかわらず、フードの型式に応じたものとし、当該制御風速の値を改めたこと(第一六条関係)。
11 全体換気装置の換気量の算式を改めたこと(第一七条関係)。
12 送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用しなければならない業務を改めたこと(第三三条関係)。
13 保護具については、必要な数以上を備え、常時有効かつ清潔に保持しなければならないこととしたこと(第三三条の二関係)。
第二 細部事項
1 第五条関係
第一種有機溶剤等である有機溶剤は、労働安全衛生法施行令(昭和四七年政令第三一八号)別表第六の二第一号から第四七号までに掲げる単一物質である有機溶剤のうち、許容濃度が低く、揮発性が高いものであり、そのため、作業環境を汚染しやすいものであるということができるが、有害性の面からみると第一種有機溶剤等と第二種有機溶剤等とは特に差はないものである。したがつて、今回の改正により第二種有機溶剤等についても、第一種有機溶剤等と同様に有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けなければならないこととし、作業環境中に希釈された有機溶剤の蒸気に労働者がばく露される可能性のある全体換気装置の設置は原則として認めないこととしたものであること。
2 第六条関係
(1) 本条第一項は、改正規則による改正前の有機溶剤中毒予防規則(以下「旧規則」という。)第七条に、同第二項は旧規則第八条(第二種有機溶剤等に係る部分を除く。)に対応する規定であること。
(2) 本条第二項の対象となる有機溶剤業務を「吹付けによる」ものとしたのは、旧規則第八条第二号に掲げる業務はもとより文字の書込み又は描画の業務、面の加工の業務等を含め吹付けによる業務のすべてを本項の対象とすることとしたためであること。
3 第七条関係
(1) 本条は、旧規則第一三条第一項第一号に対応する規定であること。
(2) 第一号及び第二号は、旧規則第一三条第一項第一号に係る所轄労働基準監督署長の許可基準として定められていたことと同様のものであること。
(3) 本条によつて適用除外されるのは、本条の第一号及び第二号のいずれの条件も満たすものであること。
(4) 第一号の「直接外気に向つて開放されている」とは、屋内作業場の側面に壁その他の障壁が設けられておらず、かつ、開放された側面から水平距離四m以内に建物その他通風を阻害するものがないことをいうものであること。
(5) 第二号の「その他の物」には、通風を阻害する懸垂幕、被塗装物、機械装置等が含まれること。
4 第八条関係
(1) 第一項は、旧規則第九条に、第二項は、旧規則第一〇条第一号に対応する規定であること。
(2) 第一項及び第二項の「臨時に有機溶剤業務を行う」とは、当該事業場において通常行つている本来の業務のほかに、一時的必要に応じて本来の業務以外の有機溶剤業務を行うことをいうこと。したがつて、一般的には、当該有機溶剤業務に要する時間は短時間であるといえるが、必ずしもそのような場合に限る趣旨ではないこと。
例えば、有機溶剤等を用いて作業場内の床面に通路であることを示す表示を当該事業場の労働者が行う場合は、一般的には「臨時に有機溶剤業務を行う」場合に該当すること。
5 第九条関係
(1) 第一項及び第二項の「当該場所における有機溶剤業務に要する時間が短時間」とは、出張して行う有機溶剤業務のように、当該場所において一時的に行われる有機溶剤業務に要する時間が短時間であることをいうものであり、同一の場所において短時間の有機溶剤業務をくり返し行う場合は、該当しないものであること。
(2) 第一項及び第二項の「短時間」とは、おおむね三時間を限度とするものであること。
(3) 第二項は、旧規則第一一条に定められていたことと同様のものであること。
(4) 第二項の「送気マスク」は、昭和四九年に制定されたJIST八一五三「送気マスク」(別添参照)の用語に従い改めたものであり、旧規則第一一条の「ホースマスク」と実質的内容の変更はないこと。
なお、このことは、第三二条及び第三三条においても同様であること。
6 第一〇条関係
本条は、旧規則第一〇条第三号に定められていたことと同様のものであること。
7 第一一条関係
本条は、旧規則第一〇条第二号に定められていたことと同様のものであること。
8 第一三条関係
(1) 本条の許可は、局所排気装置等特例許可申請書(様式第二号。以下「申請書」という。)に記載されている作業態様について行われるものであるので、作業態様が変化し、許可に係る作業態様と異つてくる場合には、許可の有効期間内であつてもその許可の効力は及ばないことはいうまでもないこと。
(2) 許可の基準及び処理要領については次によること。
イ 許可の基準
自動車の車体、航空機の機体、船体ブロック又はこれらと同等以上の容積及び面積を有する物の外面について塗装等の有機溶剤業務を行う場合で次のいずれかに該当すること。
(イ) 削除
(ロ) 全体換気装置(有機溶剤中毒予防規則第一六条の二の労働大臣が定める構造及び性能を具備しないプッシュプル型一様流換気装置(塗装用)であつて有機則第一七条第一項の換気量を有するものを含む。)を設置し、かつ、当該業務に従事する労働者に送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させること等適切な代替措置が講じられていると認められるとき。
ロ 許可の処理要領
(イ) 本条第一項に係る申請書が提出された場合は、申請書に記載された内容の書面審査及び実地調査の上許可の可否を決定すること。
ただし、許可の有効期間を満了した後前回とほぼ同一内容の再申請のあつた場合において必ずしも実地調査を要するものではないこと。
(ロ) 申請書は二部提出させ、許可又は不許可の旨を表示して、一部を申請者に返還保存させるとともに、一部は所轄労働基準監督署において保管すること。
(ハ) 許可の期間は、二年を限度とすること。
(ニ) 削除
9 第一四条関係
「局所排気装置」の下に「(第二章の規定により設ける局所排気装置をいう。………)」を加えたのは、第三章の規定が適用されるものが、第二章の規定により設けることが義務づけられている局所排気装置であることを規則上明らかにしたものであること。
なお、このことは、第一五条の全体換気装置についても同様であること。
10 第一五条関係
第一項の「有機溶剤の蒸気等」の「等」には、有機溶剤以外の物のガス、蒸気又は粉じんが含まれること。
11 第一五条の二関係
(1) 本条は、局所排気装置等から排出される有機溶剤の蒸気等により、作業場(当該局所排気装置等の設置されている作業場以外の作業場を含む。)が再汚染されることを防止する趣旨であること。
(2) 第一項の「排気口を直接外気に向つて開放しなければならない」とは、有機溶剤の蒸気等を屋外に排出しなければならない趣旨であること。
(3) 第二項の「屋根から一・五メートル以上」とは、当該屋根から鉛直に一・五m上に引いた屋根との平行線より上であることをいうものであること。
なお、排気口を側壁から出す場合においては、軒先から一・五m上に引いた水平線より上であることをいうものであること。
また、これらを図示すれば左図のようになること。
12 第一六条関係
(1) 局所排気装置の制御風速は、発散する有機溶剤のすべての蒸気をそのフードに吸引できるものとしなければならない、という考え方から、今回の改正により、その値を有機溶剤等の区分にかかわらず、フードの型式に応じたものとしたものであること。
(2) フードの型式は、有機溶剤の蒸気の発散源を囲む型式の「囲い式」と発散源の外側から蒸気を吸引する型式の「外付け式」の二つに区分し、外付け式については、その吸引の方向によりさらに側方、下方及び上方の三つに区分したものであること。
13 第一七条関係
全体換気装置の排風機には、軸流形換気扇が使用されることが多いが、この風量については換気扇の性能曲線等によつて静圧に応じた風量がわかる場合以外は、当該換気扇の風量は次によること。
換気扇の大きさ(径、cm) |
風量(m3/min) |
換気扇の大きさ(径、m) |
風量(m3/min) |
一五 |
三 |
三〇 |
一三 |
二〇 |
五 |
四〇 |
二五 |
二五 |
八 |
五〇 |
四〇 |
(注) この表の風量は換気扇を定格電圧(一〇〇V)及び定格周波数(50HZ又は60HZ)で運転した場合とする。
14 第三三条の二関係
本条は、呼吸用保護具の数等については、旧規則において労働安全衛生規則(昭和四七年労働省令第三二号)第五九六条によることとされていたが、今回の改正により本規則においてその趣旨を明らかにしたものであること。
15 附則第二条関係
(1) 第一項関係
改正規則施行の際すでに旧規則第六条又は第七条の規定により設けられていた第二種有機溶剤等(トリクロルエチレン及びノルマンヘキサンを含み、N、N―ジメチルホルムアミド、スチレン及びテトラヒドロフランを除く。)に係る全体換気装置については、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備又は局所排気装置に転換することを一年間猶予し、また、当該全体換気装置の性能についても転換されるまでの間は旧規則どおりとする趣旨であること。
(2) 第三項関係
改正規則施行の際すでに旧規則第二章の規定により設けられていた局所排気装置の性能については、一年間は旧規則どおりとする趣旨であること。
別添
日本工業規格 JIS 送気マスク(抄)
T8153―1974Supplied‐Air Respirators
1 適用範囲 この規則は、工場、鉱山、その他の事業場において酸素欠乏空気又は粉じん、ガス、蒸気、その他空気中に浮遊する微粒子状物質を吸入することにより、人体に有害のおそれがある場合に使用する送気マスク(以下、送気マスクという。)について規定する。ただし、放射性物質取扱作業用のものを除く。
2 種類 送気マスクの種類は、ホースマスクとエアラインマスクの二種類とし、表一のとおりとする。
表一
種類 |
形式 |
記号 |
ホースマスク |
吸引式 |
HM―A |
送風機式 |
HM―B |
|
エアラインマスク |
一定流量式 |
ALM―C |
デマンド式 |
ALM―D |
|
複合式 |
ALM―DE |
4 構造
4・1 一般構造 送気マスクの構造は、給気源からの空気をホース又はエアライン、吸気管、面体等を通じ、呼吸可能な空気として着用者に送気する構造であつて、次の規定に適合しなければならない。
(1) 丈夫で、できるだけ軽量であつて、長時間の使用に故障しないようになつていること。
(2) 結合部分は、結合が確実で、漏気のおそれがないこと。
(3) 取扱いの際の衝撃に対し、使用上の性能に支障がないこと。
4・2 種類別構造
4・2・1 ホースマスク
(1) 吸引式ホースマスクは参考図一(図略)に示すようにホースの末端を新鮮な空気のあるところに固定し、ホース、吸気管、面体を通じ、着用者の自己肺力によつて吸気させる構造であつて、ホースは内径一九mm以上、長さ一〇m以内を原則とする。
(2) 送風機式ホースマスクは参考図二(図略)に示すように電動又は手動の送風機により、ホース、吸気管、面体等を通じて送気する構造であつて、中間に送風を適当な風量に調節するための流量調節装置(手動送風機を用いる場合は空気調節袋でもよい。)を備えるものとする。
なお、送風機が事故によつて停止した場合、着用者は自己肺力によつて呼吸できるものでなければならない。
4・2・2 エアラインマスク
(1) 一定流量式エアラインマスクは、参考図三(図略)に示すように圧縮空気管、高圧空気容器、空気圧縮機からの圧縮空気を、エアライン、吸気管、面体等を通じて着用者に送気する構造のもので、中間に送気を適当な風量に調節するための流量調節装置を備え、かつ圧縮空気中の粉じん、油の蒸気などをろ過するろ過装置を備えるものとする。
(2) デマンド式エアラインマスクは、(3)と同じく圧縮空気を送気する形式のものとする。ただし、肺力弁を備え、着用者の呼吸の需要量に応じて面体内に送気するものであること。
(3) 複合式エアラインマスクは、デマンド式エアラインマスクとして常時使用され、給気が途絶したような緊急時に、給気源を小型高圧空気容器に切換えて、その圧縮空気を肺力弁により吸気する構造のものとする。
なお、ホース連結部(カツプリング)は、一回の操作によつて取外しできるものであること。
8 表示 送気マスクには、次の事項を表示しなければならない。
(1) 名称
(2) 形式又は記号(送風機式のものにあつてはホース最大長及びその内径を並記する)
(3) 製造年月日又はその略号
(4) 製造業者名又はその略号
9 取扱説明書 送気マスクには、着装方法、使用上の注意事項、故障、修理の際の連絡先などを記載した取扱説明書を添付しなければならない。