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鉄鋼業における水蒸気爆発の防止に関する技術上の指針
制定 昭和52年12月14日技術上の指針公示第10号
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第1項の規定に基づき、鉄鋼業における水蒸気爆発の防止に関する技術上の指針を次のとおり公表する。
鉄鋼業における水蒸気爆発の防止に関する技術上の指針
1 総則
1-1 趣旨
この指針は、鉄鋼業における溶融した高熱の鉱物(以下「溶融高熱物」という。)と水との接触により発生する水蒸気爆発を防止するため、溶融高熱物の処理設備のうち、ピット、水冷装置及び鉱さい処理場の構造等に関する留意事項について規定したものである。
2 ピット、水冷装置及び鉱さい処理場の構造
2-1 ピット
2-1-1 鋳銑機ピット
(1) 鋳銑機ピットの床面には、浸入した作業用水及び雨水を直ちに排出するための排水溝(こう)、排水装置等を設けること。
(2) 鋳銑機ピットで、その床面が地下水の水位より低いものは、地下水がその内部に浸入しない構造のものとすること。
(3) 鋳銑機ピットには、異常に流出した溶融高熱物の拡散を防ぐため、隔壁等を設けること。
2-1-2 炉前ピット及び鋳込みピット
(1) 炉前ピット及び鋳込みピットの床面には、浸入した作業用水及び雨水を直ちに排出するための排水溝(こう)、排水装置等を設けること。
(2) 炉前ピット及び鋳込みピットの床面は、れんが、砂等で覆うこと。
(3) 炉前ピット及び鋳込みピットで、その床面が地下水の水位より低いものは、地下水が浸入することを防止するため、防水潜函(かん)型構造、コンクリート構造等のものとすること。
(4) 炉前ピット及び鋳込みピットには、その周囲から作業用水及び雨水が浸入することを防止するため、その外周にみぞ、隔壁等を設けること。
(5) 炉前ピット及び鋳込みピットに設ける排水装置は、作業用水及び雨水を、配管等によって直接ピットの外部に排出できる構造のものとすること。
2-1-3 鋳造用土間込めピット
(1) 鋳造用土間込めピットで、その床面が固定されたもの(以下「固定ピット」という。)の床面には、鋳型の成型のために使用した作業用水を直ちに排出するため、排水溝(こう)、排水装置等を設けること。
(2) 固定ピットの床面は、れんが、砂等で覆うこと。
(3) 固定ピットで、その床面が地下水の水位より低いものは、地下水が浸入することを防止するため、防水潜函(かん)型構造、コンクリート構造等のものとすること。
(4) 固定ピットには、その周囲から作業用水及び雨水が浸入することを防止するため、その外周にみぞ、隔壁等を設けること。
(5) 固定ピットに設ける排水溝(こう)には、水、砂、粘土等の量を調べるための検査口を設けること。
(6) 固定ピットには、その側壁又は床面に鋳型の金わく締付け用金具を取り付けておくこと。
(7) 固定ピットに設ける排水装置は、作業用水及び雨水を、配管等によって直接ピットの外部に排出できる構造のものとすること。
(8) 鋳造用土間込めピットで、その床面が移動できるもの(以下「移動型ピット」という。)の床面は、鋳型より広い定盤、金わく等で補強すること。
(9) 移動型ピットには、その周囲から作業用水及び雨水が浸入することを防止するため、その外周にみぞ、隔壁等を設けること。
(10) 移動型ピット床面は、地下水の水位より高い位置になるようにすること。
(11) 移動型ピットには、その側壁若しくは床面又は定盤、金わく等に鋳型の金わく締付け用金具を取り付けておくこと。
(12) 移動型ピットに設ける排水装置には、排水の状態及び地下水の水位の変動を調べるための検査口を設けること。
2-1-4 連続鋳造機ピット
(1) 連続鋳造機ピットの床面には、冷却水を直ちに排出するため、排水溝(こう)、排水装置等を設けること。
(2) 連続鋳造機ピットで、その床面が地下水の水位より低いものは地下水がその内部に浸入しない構造のものとすること。
(3) 連続鋳造機ピットには、異常に流出した溶融高熱物の拡散を防ぐため、その内部の各床に隔壁等を設けること。
2-1-5 スラグピット
(1) 屋内に設けるスラグピットの床面には、浸入した作業用水及び雨水を直ちに排出するための排水溝(こう)、排水装置等を設けること。
(2) スラグピットの床面は、鉱さいバラスを敷く等により、排水の良いものとすること。
(3) スラグピットで、その床面が地下水の水位より低いものは、地下水が浸入することを防止するため、防水潜函(かん)型構造、コンクリート構造等のものとし、かつ、当該ピットの周囲に粘土等による止水層を設けること。
(4) スラグピットに設ける排水装置は、作業用水及び雨水を、配管等によって直接ピットの外部に排出できる構造のものとすること。
2-2 水冷装置
2-2-1 高炉の水冷装置
(1) 水冷羽口の材料は、純度の高い銅その他熱伝導の良いものを用いること。
(2) 水冷羽口、冷却箱、ジャケット及びクーリング・ステーブは、水冷装置の作動中、内部に空気だまり、冷却水の滞留等が生じない構造のものとすること。
(3) 水冷装置の給排水用の配管のうち高熱にさらされる箇所は、金属製の材料のものとすること。
(4) 水冷装置の給水能力は、排水能力と同等以上とすること。
(5) 水冷装置の給排水用の配管、バルブ、計器等は、マッドガン、タッピングマシン等の機器の作動部分の付近、運搬通路の付近等には設置しないこと。
(6) 水冷装置の排水口は、排水の状態を容易に監視できる位置に取り付けること。ただし、排水の状態を確認するための監視装置を設けた場合には、この限りでないこと。
(7) 水冷装置には、停電、断水等の緊急時に給水するための予備の給水設備を備えること。
2-2-2 転炉の水冷装置
(1) ランスの材料は、純度の高い銅その他熱伝導の良いものを用いること。
(2) ランス、ランス・ソケット及び冷却器は、水冷装置の作動中、内部に空気だまり、冷却水の滞留等が生じない構造のものとすること。
(3) 水冷装置の給排水用の配管のうち火炎に触れる箇所は、金属製の材料のものとすること。
(4) 水冷装置の給排水用の配管に接続されるホースのうち高熱にさらされる箇所は、耐熱材料で巻くこと。
(5) 水冷装置の給水能力は、排水能力と同等以上とすること。
(6) 水冷装置の給排水用の配管、バルブ、計器等は、傾動装置、ランスパイプ昇降装置等の機器の作動部分の付近、運搬通路の付近等には設置しないこと。
(7) 排水管は、水冷装置の上部に取り付けること。
(8) 水冷装置の排水口は、排水の状態を容易に監視できる位置に取り付けること。ただし、排水の状態を確認するための監視装置を設けた場合には、この限りでないこと。
2-2-3 電気炉及び平炉の水冷装置
(1) 水冷箱及び水冷コイルは、水冷装置の作動中、内部に空気だまり、冷却水の滞留等が生じない構造のものとすること。
(2) 水冷装置の給排水用の配管のうち火炎に触れる箇所は、金属製の材料のものとすること。
(3) 水冷装置の給排水用の配管に接続されるホースのうち高熱にさらされる箇所は、耐熱材料で巻くこと。
(4) 水冷装置の給水能力は、排水能力と同等以上とすること。
(5) 水冷装置の給排水用の配管、バルブ、計器等は、傾動装置、天井旋回装置等の機器の作動部分の付近、運搬通路の付近等には設置しないこと。
(6) 排水管は、水冷装置の上部に取り付けること。
(7) 水冷装置の排水口は、排水の状態を容易に監視できる位置に取り付けること。ただし、排水の状態を確認するための監視装置を設けた場合には、この限りでないこと。
(8) 水冷装置には、停電、断水等の緊急時に給水するための予備の給水設備を備えること。
2-2-4 連続鋳造機の水冷装置
(1) 鋳型の材料は、純度の高い銅その他熱伝導のよいものを用いること。
(2) 鋳型は、水冷装置の作動中、内部に空気だまり、冷却水の滞留等が生じない構造のものとすること。
(3) 鋳型とダミーバとの透き間は、不燃性の材料でふさぐこと。
(4) 水冷装置の給水能力は、排水能力と同等以上とすること。
(5) 水冷装置の給排水用の配管、バルブ、計器等は、作業床の床面に近接して設置しないこと。
(6) 水冷装置の噴霧装置には、噴霧された水がピットに滞留することを防止するため、その付近に仕切板、囲い等を設けること。
(7) 水冷装置の制御室、操作室等には、冷却水の温度及び流量を監視する装置並びに冷却水の温度又は流量が異常な状態となった場合に警報を発する装置を設けること。
(8) 水冷装置には、停電、断水等の緊急時に給水するための予備の給水設備を備えること。
2-2-5 キュポラの水冷装置
(1) シャワー式炉体水冷装置にあっては、炉体水冷部に、水幕切れを防止するための金具等を設け、かつ、冷却水の排出を容易にするための排水受箱を設けること。
(2) (1)の水幕切れを防止するための金具、排水受箱等は、粉じん等の堆(たい)積の状態を容易に確認でき、かつ、掃除しやすい構造のものとすること。
(3) ジャケット式炉体水冷装置及び水冷羽口は、水冷装置の作動中、内部に空気だまり、冷却水の滞留等が生じない構造のものとすること。
(4) ジャケット式炉体水冷装置及び水冷羽口の給排水用の配管、バルブ、計器等は、前炉傾注装置、スラグ除去装置等の機器の付近、運搬通路の付近等には設置しないこと。
(5) ジャケット式炉体水冷装置及び水冷羽口の給水能力は、排水能力と同等以上とすること。
(6) 水冷装置の排水口は、排水の状態を容易に監視できる位置に取り付けること。ただし、排水の状態を確認するための監視装置を設けた場合には、この限りでないこと。
(7) 水冷装置には、停電、断水等の緊急時に給水するための予備の給水設備を備えること。
2-3 鉱さい処理場
(1) 鉱さい処理場の床面は、傾斜させ、鉱さいバラスを敷く等排水の良いものとすること。
(2) 鉱さい処理場には、溶融高熱物を冷却するための散水装置を設けること。
(3) (2)の散水装置は、溶融高熱物の熱による影響を受けない位置に設けること。
(4) 鉱さい処理場には、溶融高熱物に接触することによる危険を防止するため、警報装置、しゃ断機等を設けること。
3 溶融高熱物の取扱い
3-1 溶融高熱物と接触する物の乾燥
3-1-1 耐火物等
(1) 耐火物等を炉、容器等に内張りした場合は、当該耐火物等を乾燥すること。
(2) 耐火物等の乾燥に当たっては、局部加熱及び急速な加熱を行わないこと。
(3) 内張りした耐火物等の乾燥を終えた炉、容器等は、未乾燥のものと区別し、かつ、作業用水又は雨水の浸水、冠水等のないように保管すること。
(4) 耐火物等を内張りした炉、容器等を使用する場合は、当該耐火物等に水分が付着していないことを確認すること。
3-1-2 添加物及びそう入物
(1) 金属くず、石灰等の添加物を溶融高熱物に投入する場合は、当該添加物を乾燥すること。
(2) 温度測定器具、除さい器具等の器具を溶融高熱物にそう入する場合は、当該器具に水分が付着していないことを確認すること。
3-2 傾動装置及び給排水用バルブの操作
3-2-1 傾動装置
(1) 傾動装置を操作する場合には、次に定めるところによること。
イ 傾動装置の付近に水が滞留していないことを確認すること。
ロ 溶融高熱物の出湯口と当該溶融高熱物の受入れ容器との位置関係を確認すること。
ハ 溶融高熱物の受入れ容器の内部に水分が付着していないことを確認すること。
ニ 急激に傾動しないこと。
(2) 取鍋、貯留器、精錬炉等の傾動作業を2人以上で行う場合は、合図者を定め、その者の合図に従うこと。
3-2-2 給排水
(1) 2-2-1から2-2-5までの水冷装置ごとに給排水用バルブの操作に関する作業基準を定め、これにより操作すること。
(2) 流量計又は圧力計により冷却水の流量を確認すること。
(3) 給排水用の配管の形状、構造等に異常のないことを確認すること。
3-3 高熱の鉱さいの処理
(1) 高熱の鉱さいの投棄及び冷却を行う時間、場所、順序その他の処理に関する作業計画を定め、当該計画により作業を行うこと。
(2) 高熱の鉱さいを投棄する場所に水が滞留していないことを確認すること。
(3) 鉱さい台車等を運転するときは、急発進又は急制動をしないこと。
(4) ブル・ドーザーその他鉱さいの処理に使用する機械の運転に関する作業基準を定め、これにより運転すること。
4 保守点検
(1) ピット、水冷装置、鉱さい処理場等について、次により、定期に、点検を行うこと。(表)
(2) (1)の点検の結果、異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講ずること。
(表)
点検設備 |
点 検 項 目 |
点検時間 |
ピット |
周壁及び床面の損傷の有無 |
使用開始時 |
水冷装置 |
損傷、変形及び腐食の有無 |
使用開始時 |
鉱さい処理場 |
水の滞留箇所の有無 |
使用開始時 |
バルブ |
損傷、変形及び腐食の有無 |
1月以内ごと |
配管 |
フランジ、 バルブ、 コック等との接合部の損傷、変形及び腐食の有無 |
使用開始時 |
取鍋、鋳型及び樋(とい) |
耐火物等の損傷の有無 |
使用開始時 |
傾動装置 |
傾動機の作動の適否 |
1月以内ごと |