img1 img1 img1

◆トップページに移動 │ ★目次のページに移動 │ ※文字列検索は Ctrl+Fキー  

告示:第十三次鉱業労働災害防止計画

 

第十三次鉱業労働災害防止計画

制 定 平成三十年三月三十日経済産業省告示第五十六号

 

労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六条及び第百十四条第一項の規定に基づき、鉱業労働災害防止計画を次のとおり定めたので、同法第八条及び第百十四条第一項の規定に基づき告示し、平成三十年四月一日から施行する。これに伴い、平成二十五年経済産業省告示第六十八号は、廃止する。

 

第十三次鉱業労働災害防止計画

 

鉱山保安は、人命尊重を基本理念とし、鉱山災害の根絶を図ることをその最終目標とするものである。鉱山災害の防止に関しては、昭和二十四年の鉱山保安法施行以来、各般に亘る保安確保対策を積極的に推進してきたところであり、関係者の努力と相まって災害の発生件数、度数率及び強度率ともに中長期的には大幅に減少してきた。

現行の鉱山保安法は、災害発生件数の減少や発生要因の変容等を背景に、国の関与を最小限のものとし、鉱山における保安確保に当たって民間の自主性を主体とするとの観点から、リスクマネジメントの手法を法体系の中に導入している。具体的には、鉱業権者(租鉱権者を含む。以下同じ。)に対し、保安上の危険の把握(現況調査等の実施)とその結果に応じた措置の立案・実施・評価・見直し(措置の保安規程への反映)を義務付けるとともに、経営トップが掲げる保安方針の下、PDCA(Plan(計画)―Do(実施)―Check(評価)―Act(改善))サイクルにより、継続的な保安向上につなげるための自主的取組を定着させることにより、各鉱山において自律した保安体制が構築されることを目指している。

このような鉱山の保安に係るマネジメントシステム(以下「鉱山保安マネジメントシステム」という。)が、全ての鉱山において有効に機能することで、継続的な保安の向上につながっていくよう、国は、その導入と有効性向上に向けた自主的取組への支援を重点的に実施してきた。その結果、鉱山保安マネジメントシステムの導入が進展し、また、導入を進めた鉱山ほど保安水準が向上している傾向もみられるようになっている。

しかしながら、特に中小零細規模の鉱山では、鉱山保安マネジメントシステムの本格導入に遅れがみられている。また、大規模の鉱山も含めて、すでに導入している鉱山においても、災害防止につなげる取組が継続的に行われていない事例もみられている。

このような状況を踏まえ、災害防止において鉱業を他の産業の模範とするべく、国は、鉱山保安マネジメントシステムの導入・運用の深化を図るための支援を重点的かつ継続的に実施する。また、鉱山関係者は、自主保安の徹底、重大災害等に直結する露天掘採場の残壁対策や坑内の保安対策の推進、粉じん防止対策を含む作業環境の整備等の基盤的な保安対策に万全を期すため、ここに鉱業労働災害防止のための主要な対策に関する事項を示すものとする。

Ⅰ 計画の期間

この計画は、平成三十年度を初年度とし、平成三十四年度を目標年度とする五年間の計画とする。ただし、この計画期間中に特別の事情が生じた場合は、必要に応じ計画の見直しを行うものとする。

Ⅱ 計画の目標

各鉱山においては、災害を撲滅させることを目指す。

全鉱山における災害の発生状況として、計画期間の五年間で、次の指標を達成することを目標とする。

指標一:毎年の死亡災害は零とする

指標二:災害を減少させる観点から、計画期間の五年間の平均で、度数率〇・七〇以下

指標三:重篤な災害を減少させる観点から、計画期間の五年間の平均で、重篤災害(死亡災害を除く休業日数が二週間以上の災害)の度数率〇・五〇以下

Ⅲ 鉱山災害防止のための主要な対策事項

鉱山災害の撲滅という最終目標を達成するためには、鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者及び国が一体となり、保安水準の向上に向けた取組を継続的に実施していくことが必要である。このため、国は、鉱山災害防止について本計画を長期的視点に立って策定し、自ら講ずるべき施策を明らかにするとともに、鉱山災害防止の実施主体である鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者において取り組むことが求められる事項を、以下に主要な対策事項として示す。

鉱業権者及び鉱山労働者を始めとする関係者においては、本計画の内容を理解し、自ら積極的に保安水準の向上に努めることが求められる。

1.鉱山保安マネジメントシステムの導入促進

1.1 鉱山保安マネジメントシステム導入・運用の深化

鉱山災害を撲滅させるという最終目標を達成するためには、より高い次元での保安の取組が必要であり、鉱業権者、鉱山労働者を始めとする関係者及び国は、引き続き一体となって鉱山保安マネジメントシステムの導入に取り組むとともに、導入が進展している鉱山については、その導入状況を含め、各鉱山の実情に応じたより最適なシステムとなるよう努めるものとする。

このため、鉱業権者は、次の二つの取組を引き続き推進するものとする。

イ リスクアセスメントの充実等

リスクアセスメントの充実とその結果に応じた措置の立案・実施・評価・見直しを繰り返し行う取組を充実させるよう、具体的には、次の事項の継続的な実施に努める。

① 潜在的な保安を害する要因を特定するための調査を十分に行い、これらによりもたらされるリスクを分析する。

② それぞれのリスクを評価し、リスク低減のための措置を検討し実施する。

③ リスク分析・評価の過程を関係者で共有するとともに、措置を講じた後の残留リスクについても適正な評価・管理を行う。

ロ マネジメントシステムの充実等

マネジメントシステムの構築、すなわちPDCAサイクルの循環により継続的な保安水準の向上につながる仕組みを構築するとともに、その有効化を図るため、次の事項の実施に努める。

① 経営トップは、保安の確保を経営と一体のものとして捉え、保安方針を表明する。

② 保安目標について、達成に至る手段を具体的に立案可能で、達成度合いを客観的に評価可能なものとして設定する。

③ 保安目標達成のための具体的な実施事項とスケジュール等を年間の保安計画として策定する。

④ 保安目標の達成状況及び保安計画の実施状況について評価を行い、問題がある場合は原因を調査し改善等を実施する。

また、各鉱山がこれらの取組を進め、その規模や操業状況等に即した最適な形で鉱山保安マネジメントシステムを構築し、その有効性を向上させていくことができるよう、国は、今後策定される労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格等との整合性にも配慮しつつ、これまでの支援の実績や、各鉱山における導入事例や運用状況等を踏まえ、鉱山保安マネジメントシステム導入のための手引書の見直しや、具体的な実施方法に関する助言、優良事例についての情報提供の充実等を図るものとする。

さらに、これらの取組の進捗状況について、国及び鉱業権者は、より適切かつ合理的に評価するためのチェックリストの整備を行うとともに、当該チェックリストにより毎年評価を行い、必要と認めた場合に追加の対策を講ずるものとする。

1.2 鉱山規模に応じた鉱山保安マネジメントシステムの導入促進

これまで国は、中小零細規模の鉱山向けに、ガイドブックの作成等により、鉱山保安マネジメントシステム導入を支援してきたが、大規模の鉱山に比べて導入に遅れがみられている。このため、中小零細規模の鉱山がその導入に向けた取組を容易に行い得るよう、国は、これまでの支援の経験等を踏まえつつ、ガイドブックをより分かりやすい内容に見直すなど、情報提供ツールを充実させるとともに、各鉱山の状況に応じた助言をより一層きめ細かく行うものとする。

2.自主保安の推進と安全文化の醸成

2.1 自主保安の徹底と保安意識の高揚

鉱業権者は、保安の最高責任者としての自覚を持って、また、鉱山労働者は、自らも保安確保の一翼を担うものであるとの自覚を持ち、次の点にそれぞれ留意し、自主保安の徹底を図るものとする。

(1) 鉱業権者

鉱業権者は、自ら設定した保安目標を達成するため、必要な人員及び予算を確保するとともに、鉱山労働者の保安意識を高揚させるための活動、保安に関する知識及び技能の向上を図るための教育等を実施するに当たり、次の点に留意する。

① 保安管理体制の充実、特に職務範囲、指揮命令系統の明確化及び鉱山労働者個々の知識、技能等を踏まえた適正な人員配置を図る。

② 保安施設の整備等、保安確保に必要な予算の配分に配慮する。

③ 危険予知活動やヒヤリハット報告活動等、各鉱山の実情に即した保安活動を積極的に実施する。

④ 鉱山労働者の職務の種類及び経験年数並びに人間特性等を考慮した保安教育を計画的に実施する。特に作業監督者の選任に要する資格については計画的な取得に努める。

⑤ 災害発生時の被害を最小限にとどめるため、有効な退避訓練及び救護訓練の実施に努める。

(2) 保安統括者、保安管理者及び作業監督者等

保安統括者、保安管理者及び作業監督者等は、鉱山における保安管理体制の中核として、それぞれの責任と権限に基づき、常に現場の保安状況を把握し、その職責の十分な遂行に努める。

(3) 鉱山労働者

鉱山労働者は、保安規程や作業手順書の遵守にとどまらず、保安活動に積極的に参画するとともに、自らの知識や技能、経験をそれらの作成・見直しに反映するように努める。

2.2 鉱山における安全文化と倫理的責任の醸成

鉱山において、組織の全構成員の安全を最優先する企業文化である「安全文化」を醸成し、倫理的責任の下に鉱山の活動が行われるよう、経営トップは、保安方針を表明するとともに鉱山における保安活動を主導し、鉱山に関わる全ての者が保安に関する情報に通じ、保安活動に参画できる環境作りに努めることとする。

3.個別対策の推進

3.1 死亡災害・重篤災害の原因究明と再発防止対策の徹底

災害発生後に改めて行うリスクアセスメントの対応等は、類似の災害の再発を防ぎ、鉱山災害の撲滅という最終目標を達成する上で重要である。特に死亡災害や重篤災害の発生時にあっては、再びこのような重大災害の発生により鉱山労働者の生命や健康が脅かされることのないよう、鉱業権者は徹底した原因究明と再発防止に努めるものとする。また、国は、これらの災害情報を分かりやすく整理・分析し、他の鉱山の災害対策に活用できるよう情報の提供を積極的に行うこととする。

さらに、鉱山災害の多くはヒューマンエラーによるものであり、その要因として、特に「危険軽視・慣れ」が多く挙げられている。鉱業権者は、リスクアセスメントの実施に当たっては、人間特性についても十分に考慮し、一旦罹災すると災害が重篤化しやすい機械・設備等のリスク低減措置として、本質安全対策やフェールセーフ・フールプルーフを考慮した施設の工学的対策等、ヒューマンエラーが発生したとしても災害につながらないようにするための対策を検討するとともに、保安規程や作業手順書の遵守を指導するなどの保安教育、適正な労務管理等による現場全体の保安水準・保安意識の向上等のヒューマンエラーの発生を抑制する対策を講ずるものとする。

3.2 発生頻度が高い災害に係る防止対策の推進

過去五年間に発生した災害の事由は、「墜落・転倒」、「運搬装置のため」、「取扱中の器材鉱物等のため」及び「機械のため」が全体の約八割を占める。発生頻度が高い災害は、リスクの見落としや過小評価、操業条件の変化に伴う新たなリスクの発生等と、作業上必要な保安に関する知識、技能、情報の不足により生じ得るものである。このため、鉱業権者は、リスクアセスメントの継続的な見直しを徹底して行い、不安全な状態及び不安全な行動を特定し、その排除に努める等、対策の充実について検討し、必要な措置を講じることにより、これらの事由による災害の着実な減少を図る。また、国は、鉱業権者によるこれらの取組が継続的に行われるように、災害事例・再発防止対策に関するガイドブック、鉱山保安情報等を活用し、きめ細かい助言や情報提供を行う。

3.3 鉱種の違いに応じた災害に係る防止対策の推進

鉱山災害は、鉱種の違いによって発生状況が異なることから、国は、その発生状況の違いについても情報収集を行い、全国横断的な鉱業関係団体や地域の鉱業・保安関係団体とも連携しつつ、保安向上のための情報共有や保安教育の機会を設けるなどの取組を進めることとする。

4.基盤的な保安対策と新技術の推進

4.1 基盤的な保安対策

次に掲げる基盤的な保安対策を推進するものとする。

(1) 露天掘採場の残壁対策

鉱業権者は、石灰石鉱山等の露天掘採場における長大残壁について計画的な地質調査、安定解析及び計測管理等に努め、適切な採掘切羽を設定するとともに、残壁の安定化を図ることにより、鉱山災害の防止に努める。

(2) 坑内の保安対策

鉱山の坑内構造をその自然条件に対応した合理的なものとすることは、保安の確保、特に重大災害の防止に不可欠である。したがって、鉱業権者は、各鉱山の坑内構造の整備に努めるとともに、災害発生時の被害を最小限にとどめるため、所要の保安施設の整備や有効な退避訓練及び救護訓練の実施に努める。また、外国人の研修を実施する鉱山の鉱業権者は、外国人研修生に配慮した災害防止対策を実施する。

(3) 作業環境の整備

鉱業権者は、粉じんの防止、有害ガス対策、坑内温度調節、坑内照明の改善等作業環境の整備に積極的に努める。

特に、粉じん防止対策については、集じん装置の適正配置、効率的な散水の励行及び粉じん発生装置の密閉化等、坑内外における作業環境改善対策の一層の推進に努める。

4.2 新技術の活用等による保安技術の向上

掘採条件の悪化、生産技術の進歩等に対応して保安技術を不断に向上させ、その成果を現場で活用することは、保安を確保する上で不可欠である。また、ロボット技術、センサー技術、自動化技術等の新技術を鉱山保安の分野に活用し、危険な作業への人の介在を回避する取組や、人の感覚のみでは検知が困難な異常事象を把握する取組もみられるようになっている。このため、産学官が連携を図り、保安技術の向上や普及に努めるとともに、新技術を鉱山保安の分野に活用し、その有効性の実証や成功事例についての情報提供等を積極的に行うことにより、その実地への適用を推進する。

5.現場保安力の向上

5.1 単独作業及び非定常作業に対する保安管理

鉱業権者は、請負作業者を含め、単独作業及び修理等の非定常作業に携わる者の災害を防止するため、作業の関係者全体でリスクを共有するコミュニケーション活動の実施等、鉱山全体での保安管理に努めるものとする。また、単独作業対策としては、カメラ、センサーによる作業の記録・管理等により、災害の未然防止や原因究明を容易に行い得る環境の整備に努めるものとする。

5.2 現場保安力の向上と人づくりへの取組

鉱業権者は、現場保安力の向上のため、危険体感教育、危険予知の実践教育及び保安技術・知識に関する学習の機会を設けるとともに、国が作成・情報提供している災害事例と再発防止対策に関するガイドブック、鉱山保安情報等を活用し、継続的な保安教育の実施に努めるものとする。

また、現場保安力向上のための取組についても、鉱山保安マネジメントシステムの中で毎年度評価を行い、新しい知見を踏まえた改善を進めるものとする。

6.国、鉱業関係団体等の連携・協働による保安確保の取組

国は外部専門家を活用した保安指導を実施するとともに、鉱山労働者等を対象とした各種研修及び災害情報の水平展開等の充実に取り組むものとする。

鉱業関係団体は、鉱業権者のニーズを踏まえ、民間資格制度「保安管理マスター制度」の運用・改善をはじめとした自主保安体制強化のための支援等、鉱山災害防止のための活動を積極的に実施するものとする。

国、鉱業関係団体は、それぞれの活動が有機的に機能し、保安レベルの継続的な向上につながるよう連携・協働を促進するものとする。特に、中小零細規模の鉱山に関しては、中央労働災害防止協会の支援制度の活用や、地域単位で鉱山の関係者が行う保安力向上のための情報交換、大規模の鉱山による保安レベルの底上げのための支援等の取組等に対し、これらが円滑に行われるようきめ細かな対応を行うものとする。